フレッド・アステアとバレエの因縁①RKO時代 「オン・ユア・トーズ」と「踊らん哉」

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フレッド・アステア
Eric BlochetによるPixabayからの画像
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 フレッド・アステアはその卓越したダンスによってアメリカのミュージカルのスターになった。

 1920年代にブロードウェイのスターとなり、1930年代にミュージカル映画のスターとなった。

 ところがそれから間もなく、ミュージカルに新たな方向が出てきた。―バレエが重要になっていったのである。

 そこでフレッド・アステアはバレエとどういう関係にあったのか?

 この問題は、フレッド・アステア個人の問題としても、ミュージカルの歴史の問題としても、興味深いものである。

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バレエ以前

 フレッド・アステアは、1930年代に映画デビューする前に、ブロードウェイのスターであった。

 1924年開幕の「レディー、ビー・グッド」(”Lady, Be Good” 、1924年)で、フレッド・アステアはガーシュウィン兄弟と組んで成功した。

 ミュージカルにジャズを使った軽快なサウンドを取り入れた作品で、それに合わせたフレッド・アステアと姉アデル・アステアのダンスが賞賛された。

 フレッド・アステアはその後映画に進出して、「ダンシング・レディ」(1933年)に出演。


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 同じ年の映画「空中レビュー時代」( “Flying Down to Rio” )でのジンジャー・ロジャーズとのダンスによってたちまちスターになった。


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 そしてフレッド・アステアがブロードウェイでやっていた「陽気な結婚」( “Gay Divorse” 、1932年)をもとにした映画「コンチネンタル」( “Gay Divorcee” 、1934年)でジンジャー・ロジャーズとともに主役として成功した。


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 フレッド・アステアがスターになったミュージカルは「軽快」という言葉で特徴づけることができる。

・軽快なストーリー

・軽快な音楽

・軽快なダンス

 フレッド・アステアがブロードウェイでスターになったのは、そういう1920年代風の「軽快」なミュージカルであった。

 フレッド・アステアが1930年代に出演した映画は、それまでのブロードウェイのミュージカルをもとにしていた。

 1935年に公開されたフレッド・アステアの代表作「トップ・ハット」も「軽快」なミュージカルであった。

 「トップ・ハット」はフレッド・アステアと、トップ・ハット、白の蝶ネクタイ、燕尾服という礼儀正しい姿を結びつけた。


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「オン・ユア・トーズ」”On Your Toes”

Photo by Sudan Ouyang on Unsplash

 映画に進出して成功したフレッド・アステアは、間もなくバレエと出会うことになる。

 その第一の出会いは、「オン・ユア・トーズ」(”On Your Toes”)と題するミュージカルである。

 映画スターとなったフレッド・アステアがその次に出演するミュージカル映画として、ブロードウェイでヒットを連発していたリチャード・ロジャーズ(作曲家)とロレンツ・ハート(作詞家)のコンビが作ったのが「オン・ユア・トーズ」であった。

 ところがフレッド・アステアは、それまでの映画でのトップハット、白のタイ、燕尾服の人物像に合わないということで、ことわった。

バレエ

 「オン・ユア・トーズ」は、それまでの映画でのフレッド・アステアの人物像と違う人物像を出しただけではない。

 ミュージカルの新たな方向を切り開いた作品であった。

 バレエを重要な要素として取り入れたのである。

 劇中では、バレエとタップダンスの間の葛藤が描かれている。―バレエが物語の重要な要素になっているのである。

 そして終盤に「十番街の殺人」( “Slaughter on Tenth Avenue” )というドラマティックな音楽を伴うバレエがある。


On Your Toes / Slaughter on Tenth Avenue

 振り付けは、ロシア出身のバレエ振付師ジョージ・バランチン。


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 フレッド・アステアは、バレエを重要な要素として取り入れることによってミュージカルの新たな方向を切り開いたまさにその作品と出会っていたにもかかわらず、ことわってしまったのである。

その後

 リチャード・ロジャーズとロレンツ・ハートは、フレッド・アステアのことわられたので、「オン・ユア・トーズ」を舞台用に作り直した。

 そうして1936年4月11日にブロードウェイで開幕した「オン・ユア・トーズ」は成功した。

 フレッド・アステアの代わりに主演をやったレイ・ボルジャ―はスターになった。

「踊らん哉」 “Shall We Dance”

 「オン・ユア・トーズ」の成功を受けて、フレッド・アステアも「オン・ユア・トーズ」のようにバレエを取り入れたミュージカルをやることを考えたと言われている。

 1937年4月に公開されたフレッド・アステアの映画「踊らん哉」は、バレエを取り入れたミュージカル映画であった。

 遅ればせながら、「踊らん哉」でフレッド・アステアはバレエを取り入れたミュージカルをやることになったのである。

「踊らん哉」の設定

 「踊らん哉」は、設定から考えると、バレエを重要な要素として取り入れたミュージカルのようである。

 バレエダンサーを演ずるフレッド・アステアが、タップダンサーを演ずるジンジャー・ロジャーズに惚れ込んで近づこうとする、という話になっている。

 主役がバレエダンサーであるということによって、バレエは物語の重要な要素となることができる。

 タップダンサーとの恋愛において、タップダンスとバレエを合わせることもできる。


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「踊らん哉」におけるバレエの割合

 ところが「踊らん哉」においてバレエの占める割合はそれほど大きくない。

 第一に、フレッド・アステアの演ずるバレエダンサーは、映画のはじめからタップダンスを好んでやっていて、バレエはそれほどやらない。

フレッド・アステアのソロ

 フレッド・アステアが一人で踊るのも、バレエではなくタップダンス。(冒頭の個室、”Slap That Face” )

二人のダンス

 フレッド・アステアの演ずるバレエダンサーと、ジンジャー・ロジャーズの演ずるタップダンサーとが二人で踊るところでも、タップダンスが多く、バレエの割合は少ない。

“They All Laughed”

 二人が初めて一緒に踊る “They All Laughed” では、フレッド・アステアのバレエから始まるが、バレエは間もなく終わって、二人はタップダンスを一緒に踊る。そして意気投合している。

“Let’s Call the Whole Thing Off”

 その次に二人が一緒に踊る “Let’s Call the Whole Thing Off” は、ローラースケートによるタップダンス。

“Shall We Dance”

 「踊らん哉」の終盤に、フレッド・アステアとハリエット・ホクター(Harriet Hoctor)と大勢のダンサーによるバレエがある。

 そのバレエの後に、楽曲 “Shall We Dance” に合わせたタップダンスがある。


シャル・ウィ・ダンス(『踊らん哉』より)

 ここでは、たしかにバレエの分量は多くなっている。

 しかしやはりタップダンスに中心はある。

 前半のバレエと、後半のタップダンスとでは、明らかに後者の方が重要である。

 そのバレエにおいても、フレッド・アステアより、ストーリー上意味のないハリエット・ホクタ―の方が中心になっているように見える。

映画「踊らん哉」の問題

 映画「踊らん哉」は、バレエを大きく取り入れたミュージカル映画の初期のものである。

 しかしそのバレエの入れ方には疑問がある。

 タップダンスとバレエとの融合が企てられているはずであるのに、バレエの割合が少ない。

 フレッド・アステアのバレエの割合が少ないことに問題はある。

 バレエダンサーを演ずるフレッド・アステアがバレエを担当し、タップダンサーを演ずるジンジャー・ロジャーズがタップダンスを担当して、両者がのダンスが合わさって恋愛が成就する、というかたちにすればいいと思われる。

 実際には、フレッド・アステアの演ずるバレエダンサーはそれほどバレエをやらず、タップダンスを好んでやっていて、ジンジャー・ロジャーズ演ずるタップダンサーはタップダンスをやっているので、全体としてタップダンスに偏って、バレエは少なくなっているのである。

 バレエを取り入れたミュージカル映画として問題があるのみならず、一本の映画として構造的に問題があるということもできる。

 タップダンスとバレエとの融合を主題としているにもかかわらず、バレエの割合が少なく、融合はできていない。

 もともとタップダンスとバレエとの融合などということを主題とせずに、タップダンサー同士の恋愛とした方がよかったのではないか?

 バレエの要素が、むしろマイナスになっているのではないか?

 「踊らん哉」は、全盛期のフレッド・アステアとジンジャー・ロジャーズのコンビのためにジョージ・ガーシュウィンが作曲を担当したという豪華な映画であるが、物足りないところがある。

 たとえば「トップ・ハット」「有頂天時代」に比べると、物足りないところがある。

 それはバレエを取り入れながら、そのバレエが余計になっているからではないか?

 映画「踊らん哉」の収入は前作の半分以下であったと言われている。


誰も奪えぬこの想い(『踊らん哉』より)

 映画「踊らん哉」について↓

つづき

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