トヨタ自動車の豊田章男会長の「今の日本は頑張ろうという気になれない」という言葉が話題になった。認証不正問題で批判されたことに対して反論したように伝えられて、それに対して反発の声があがっていた。
ところがメディアは豊田会長の言葉を歪めて伝えていたとベストカーWebは伝えた。問題はどこにあるのか?
発言の真意は?
ベストカーWebの「豊田章男会長「今の日本は頑張ろうという気になれない」の本当の宛先は…メディアだった」という記事によると、問題とされた豊田章男会長の言葉は「「メディア」へ向けた言葉」であったが、「そのメディアが曲解して拡散の一部を担っている」という。
ベストカーWebはまず発言がどういう状況でなされたかに注目する。
豊田会長の言葉は、2024年7月18日に長野県茅野市の聖光寺の夏季大法要の後、報道陣に語ったことであった。「聖光寺は、昭和45年7月9日に奈良薬師寺別院としてトヨタ自動車および関連会社が施主となり創建され、今日まで交通安全を専一に祈願されている」寺であって、毎年「交通安全祈願、交通事故遭難者の慰霊、負傷者の早期快復を祈願する夏季大祭」が営まれて、7月17日に交通事故者慰霊萬燈供養、18日に交通安全夏季大法要が執り行われている。(協豊会ホームページ「交通安全を祈願 ~蓼科山聖光寺夏季大祭~」)そこで豊田会長は交通事故防止のために必要なことについて語っていた。
豊田会長は、「交通事故防止のためには、自動車会社だけ、クルマ側だけでは、出来ることには限界がある。交通安全を推し進め、事故死者ゼロを本気で進めるのであれば、道路インフラ側や歩行者側、自転車や(電動キックボードなどの)新モビリティ側など、社会全体が一体になって進める必要がある」と語った。
「こうした話は、なかなか自動車会社からは言えない。言っても広がらない。我々もがんばりますが、そこは(メディアの)皆さんのお力を借りたい」と、豊田会長は続ける。
より具体的に言えば、今後50年先を見据えて、本気で自動車事故を減らすために(自動車会社だけでなく)行政や道路整備、自転車、歩行者といった社会全体で手を取り合って「安全」や「モビリティを含む社会のありかた」を考えましょうよと語り、その「社会全体」へ訴える手段のひとつとして、メディア関係者に語ったわけだ。
ベストカーWeb 豊田章男会長「今の日本は頑張ろうという気になれない」の本当の宛先は…メディアだった
このように「今回の豊田会長の発言は「交通安全をさらに進めるためには何が必要か」という文脈の延長で出た話である」ことにベストカーWebは注目する。「そもそも認証不正問題とは関係がない」というのである。そこで豊田会長は次のように語ったという。
「日本のサイレントマジョリティは、日本という国にとって、いま、日本の自動車産業が世界に対して互角以上に戦っていることについて、ものすごく感謝してくれていると思います。
ところがそれが、日本という国ではすごく伝わりづらいんですね。当たり前になっちゃっているのかもしれない。
もし日本に自動車産業がなかったら、いまの日本は違ったかたちになってしまうでしょう。それに対して感謝してほしいと言っているわけではありません。ただもうちょっと正しい事実を見て、評価してほしい。
(自動車関連会社が)間違ったことをしていたら怒ればいいと思います。そのうえで、応援していただけるのであれば、応援しているということが、自動車業界の中の人たちにまで届いてくれると、本当にありがたい。
そうしないと本当に、本当に、みんなこの国を捨てて出て行ってしまいます。出て行ったらこの国は本当に大変ですよ。
ただ、いまの日本は、ここで踏みとどまって、頑張ろうという気になれないんですよ。
(居並ぶメディア関係者に一瞬目線を送って)
強いものを叩くことが使命だと思ってらっしゃるかもしれませんが、強いものがいなければ、国というものは成り立ちません。強いものの力をどう使うかということを、しっかり皆さんで考えて、厳しい目で見ていただきたい。強いからズルいことをしているだろう、叩くんだ、というのは、これはちょっとね……、でもそこは自動車業界の声として、ぜひお考えいただきたいと思います。」
ベストカーWeb 豊田章男会長「今の日本は頑張ろうという気になれない」の本当の宛先は…メディアだった
そして「上記の発言をよく読めばわかるとおり、豊田会長は第一にメディアに向けて語っているということがわかる」と言っている。
朝日新聞の伝え方
それまで豊田会長の発言をメディアはどのように伝えてきたか? 朝日新聞の7月18日付「不正に揺れるトヨタ、会長「今の日本は頑張ろうという気になれない」」という記事をとりあげてみよう。記者は松岡大将氏。
大規模な認証不正に揺れるトヨタ自動車の豊田章男会長は18日、「(自動車業界が)日本から出ていけば大変になる。ただ今の日本は頑張ろうという気になれない」「ジャパンラブの私が日本脱出を考えているのは本当に危ない」と述べた。
ベストカーWebの伝えたことと照らし合わせてみよう。
朝日新聞の記事によると、豊田会長は認証不正問題で追及されていることに対して、「(自動車業界が)日本から出ていけば大変になる。ただ今の日本は頑張ろうという気になれない」と言ったかのようである。「(自動車業界が)日本から出ていけば大変になる。ただ今の日本は頑張ろうという気になれない」ということによって追及に反対しているようである。「国交省批判、日本批判」のようでもある。
しかし豊田会長の言葉は交通事故防止について語ることの延長で一般論として言われたことであって、認証不正問題への追及に対して答えたことではない。「(自動車業界が)日本から出ていけば大変になる。ただ今の日本は頑張ろうという気になれない」ということによって追及に反対しているのではない。豊田会長は「(自動車関連会社が)間違ったことをしていたら怒ればいいと思います」というように、間違ったことに対しては怒られればいいと言っている。
豊田会長は「日本のサイレントマジョリティ」は日本の自動車産業に対して感謝しているのに「日本という国ではすごく伝わりづらい」ということを問題としている。そのことを伝わりづらくしているものを問題としている。伝えることを仕事とするメディアを問題としているのである。日本を批判しているのではなくて、日本のメディアを批判しているのである。
豊田会長は「(自動車関連会社が)間違ったことをしていたら怒ればいいと思います。そのうえで、応援していただけるのであれば、応援しているということが、自動車業界の中の人たちにまで届いてくれると、本当にありがたい。」というように、間違ったことで怒られることに反対しているのではなく、自動車業界が立ち直れないほど叩くことを問題としているのである。「強いからズルいことをしているだろう、叩くんだ、というのは、これはちょっとね……、」というのは、叩かれるべきことで叩かれることではなく、不当に叩かれていることを問題とする言葉である。
記事に付けられたコメントで西田亮介日本大学教授が「端的な居直りであり、論点のすり替え」と言っているのは、朝日新聞の記事をそのまま受け取って豊田会長は「(自動車業界が)日本から出ていけば大変になる。ただ今の日本は頑張ろうという気になれない」ということによって追及に反対していると思い込んでいるようである。本田由紀東京大学教授の「傲慢のひとことにつきる」という言葉も同じようである。ベストカーWebの記事を読んだ後では、朝日新聞の記事の方が「論点のすり替え」に見える、そしてその記事をそのまま受け取った両氏が大学教授という肩書で「論点のすり替え」に権威を与えて拡散していることは、目も当てられないことと思われる。
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