【映画】「兄貴の恋人」(1968年) 若大将と内藤洋子

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 「兄貴の恋人」は1968年9月7日に公開された映画。

 「兄貴」(加山雄三)とその「恋人」との関係に心が揺れる妹(内藤洋子)を描いた作品。

 2010年5月28日に加山雄三デビュー50周年記念でDVDが発売されている。


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 この映画では、妹の兄に対する想いが描かれている。

 いつも兄にべたべたしているのではなく、「不潔」などと言っている。

 しかし兄に対する想いは強い。

 朝の満員電車で、揺れて兄の胸に抱かれるかたちになったところで、兄に髪を撫でられている時の表情は特徴的。

 予告編ではここに「私の恋人は兄貴/誰にも渡したくない」という文字が出て来る。

 兄に対してそれだけの想いを持っているので、兄と他の女性との関係が気になるのである。

 兄はすでに会社員。見合いなど、他の女性との結婚を周りから言われている。

 妹はまだ学生。子どもから大人になる途中である。

 その、子どもから大人になる途中が見どころ。

 小津安二郎監督の「晩春」は父と娘の関係は、「兄貴の恋人」の兄と妹の関係と似たところがある。


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 小津安二郎監督は、父と娘の関係を掘り下げたが、「兄貴の恋人」は兄と妹の関係を掘り下げたということができるかもしれない。

内藤洋子

 映画「兄貴の恋人」で主役の「妹」を演じているのは内藤洋子。

 兄(加山雄三)から「デコすけ」と言われているように、おでこを出しているのが特徴。

 おでこ、頬など丸みを帯びた感じが、「妹」に合っている。―子どもから大人になる途中ということに合っている。

 長く艶やかな黒髪など、上品な感じはお嬢様の役に合っている。

 内藤洋子は映画デビューが「赤ひげ」(1965年)。「赤ひげ」ですでに加山雄三の相手役をやっている。


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 映画「お嫁においで」(1966年)では、加山雄三の妹役。

 「お嫁においで」では、「兄貴の恋人」のような兄に対する複雑な気持ちなどなかった。


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 加山雄三と内藤洋子は、実生活において親戚になっている。

 加山雄三著「若大将の履歴書」で、映画「赤ひげ」の結婚相手のまさえに内藤洋子が選ばれるところで次のように語られている。

~まさえの役を射止めたのはやがてアイドルスターになる新人の内藤洋子だった。「赤ひげ」でデビューし、映画「お嫁においで」や「兄貴の恋人」などで僕と共演した後、僕の従弟でランチャーズの喜多嶋修と結婚して喜多嶋洋子となった。つまり今では僕の親戚なのである。

「若大将の履歴書」、163頁

若大将の履歴書

 その長女が喜多嶋舞である。

 そうして時は流れても、映像では子どもから大人になる途中の姿を見ることができる。

主人公の家

 主人公の兄妹は、両親の家で暮らしている。

 父は宮口精二、母は沢村貞子で、貧乏ではないが倦怠感のある夫婦を演じている。

 兄妹は、阿佐ヶ谷駅から中央線に乗って通勤通学している。そして新宿で別れて、兄はそのまま中央線、妹は山手線。

鉄平の会社

 兄鉄平(加山雄三)の勤める会社には、和子という女性(酒井和歌子)がいて、親しくしていた。

 その会社は銀座にあるようである。

 和子は鉄平に思いを寄せていたが、会社を辞めて叔父のスナックで働くことになった。

川崎のスナック

 和子(酒井和歌子)が働くことになった川崎の叔父のスナックは、ポルノ映画のポスターが貼られているようなところにあって、客層も下品。

 「伊勢佐木町ブルース」が流れている。


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 青江三奈の「伊勢佐木町ブルース」が発売されたのは1968年1月5日。「兄貴の恋人」と同じ年である。

 同じ年の12月7日には、東映の映画「夜の歌謡シリーズ 伊勢佐木町ブルース」が公開されている。―梅宮辰夫がオープン屋で、農家の金持ち(伴淳三郎)を手玉に取るが、しっぺ返しを食らうという話。青江三奈は、歌うところだけ出ている。


夜の歌謡シリーズ 伊勢佐木町ブルース

 銀座の会社員の生活と、川崎のやくざの生活とが対比されている。―東宝の若大将と東映の任侠映画の対比

 酒井和歌子の上品な姿と、下品な背景との対比。

 酒井和歌子のやくざな兄の役を「若大将」シリーズのマネージャー役の江原達怡がやっているのも面白い。

新宿のバー

 新宿には、鉄平(加山雄三)が夜しばしば訪れるバーがある。

 そのバーのママ(白川由美)も、鉄平に思いを寄せている。

様々な女性

 この映画で加山雄三の演ずる人物は様々な女性から思いを寄せられている。

 妹(内藤洋子)、職場の同僚(酒井和歌子)、バーのママ(白井由美)については既に書いた。

 その他にも、職場の同僚(岡田可愛)、街でたまたま救った女性(豊浦美子)、会社の専務の令嬢(中山麻理)…

 妹は「私の恋人は兄貴/誰にも渡したくない」と思っていたのに、これだけの女性が兄に思いを寄せていたわけである。

 この映画では、様々な女性を魅力的な恋愛対象として描くかたちになっているということもできる。

 加山雄三の演ずる人物に思いを寄せない女性で、悠木千帆、後の樹木希林が出ている。

「若大将」シリーズとの関係

 「兄貴の恋人」が公開されたのは、「若大将」シリーズで言うと、「リオの若大将」(1968年7月13日公開)と「フレッシュマン若大将」(1969年1月1日公開)の間。

 「若大将」シリーズについては↓

加山雄三

 「若大将」シリーズでは「フレッシュマン若大将」で若大将は就職する。

 「兄貴の恋人」ではその前に加山雄三は社会人の役になっている。(それより前の1966年公開の「お嫁においで」ですでに社会人の役になっている)

酒井和歌子

 「兄貴の恋人」のヒロイン酒井和歌子は、「兄貴の恋人」の後の「フレッシュマン若大将」から「若大将」シリーズのヒロインになっている。

内藤洋子

 「兄貴の恋人」の主役というべき内藤洋子は「若大将」シリーズに出ていない。

 「若大将」シリーズにはすでに妹輝子(中真千子)がいるからであろうか?

「お嫁においで」との比較

 1966年11月20日に公開された映画「お嫁においで」は、「兄貴の恋人」と同じく2010年に加山雄三デビュー50周年記念でDVDが発売された映画であるが、色々と「兄貴の恋人」と似たところがある。その似たところと、違うところとを明らかにすることによって、それぞれを明らかにしてみよう。

 「お嫁においで」について↓

似たところ

 加山雄三の演ずる主人公は、どちらの映画でも、いいところの会社員。

 ヒロインは、どちらの映画でも、それより低い環境の人。そばには同じような環境でヒロインに好意を寄せる男がいる。

 内藤洋子の演ずる妹は、どちらの映画でも、兄のためにはたらく。

違うところ

結末

 結末が違う。

・「お嫁においで」では、ヒロインは主人公を振った。

・「兄貴の恋人」では、ヒロインは主人公を受け入れる。

結末が違う理由
ヒロインの設定

・「お嫁においで」のヒロインは、もともと加山雄三の演ずる人物が好きであったのではない。むしろ批判的であった。

・「兄貴の恋人」のヒロインは、もともと加山雄三の演ずる人物が好きであった。

・「お嫁においで」では、金持ちの世界に住む主人公と、貧しい世界に住むヒロインとの間に、世界が違うという壁があった。最終的にヒロインはその壁を主体的にとらえなおすのであるが、そのことによってヒロインは主人公を振るのである。

・「兄貴の恋人」では、主人公とヒロインとは、違う世界の住人ではない。ヒロインは、映画のはじめには主人公と同じ世界の住人だったのである。「お嫁においで」ほど主人公が金持ちの家に生まれたということは強調されていない。「兄貴の恋人」の壁は、ヒロインの家族にあって、ヒロイン自身にあることではない。それゆえにヒロインが決断することによって主人公と結ばれることができた。

 「兄貴の恋人」は、「お嫁においで」に対して、ヒロインが殻を破るところを描いている、ということができるかもしれない。

 「お嫁においで」からいうと、「兄貴の恋人」に対して、ヒロインの主体性を重んじた、ということができるかもしれない。

ヒロインの近くにいる男

・「お嫁においで」では、ヒロインの近くにいる男(黒沢年男)がヒロインを愛していることが時間をかけて描かれていた。

・「兄貴の恋人」では、ヒロインの近くにいる男(清水綋治)のヒロインに対する思いはそれほど描かれていない。ヒロインの兄によって傷つけられて、就職に苦労したという経歴があって、そのことは引け目になることであった。ところが、加山雄三の演ずる人物がその男の代わりに殴られてアメリカ行きをふいにしたことによって、引け目はなくなった。

加山雄三

「お嫁においで」

 「お嫁においで」で加山雄三が演じた人物は、造船所の設計技師で、祖父、親の会社で働いている。そういうところは「兄貴の恋人」より「若大将」シリーズに近い。ただしそういう要素は、ヒロインとの関係でマイナスに働くこととして描かれている。「お嫁においで」は、そういうヒロインを中心とした映画である。そういうところは「若大将」シリーズから離れるところである。

 加山雄三が演じた人物は、はじめにヒロインに惚れ込んでから終盤まで一途であった。

「兄貴の恋人」

 「兄貴の恋人」で加山雄三が演じた人物は、「お嫁においで」ほど金持ちではない。

 女にもてる男である。見合いには乗り気でなく、うまくいかないが、多くの女性に愛され、中途半端な関係になったりしている。

 女にもてるところは、「お嫁においで」より「若大将」シリーズに近いと思う。様々な美女が主人公に対して好意を抱くところを表現しているのである。―「お嫁においで」においては、主人公がヒロインに対して好意を抱いているのであって、ヒロインの方はそれほどではなかった。

 「兄貴の恋人」の主人公は、中盤までヒロイン(酒井和歌子)に対して特に好きということはない。しかし中盤に好きと自覚してからは、一途になる。

内藤洋子

 内藤洋子演ずる妹は、「お嫁においで」においては、加山雄三の演ずる兄の側にいて、兄がヒロインと結ばれるために働く可愛い妹に過ぎなかった。

 「お嫁においで」の中心は、加山雄三の演ずる人物ではなく、ヒロイン(沢井桂子)であった。内藤洋子演ずる妹は、さらに中心から離れた存在であった。

 「兄貴の恋人」は、題名でも明らかなように、内藤洋子演ずる妹が作品の中心になっている。

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