安倍晋三元首相殺害事件の裁判が始まらずに時間がたっている。重大な事件であるにもかかわらず、放置されているような奇妙な状態になっている。
何故にそういうことが起こっているのか?
事件から2年たとうとする2024年5月下旬から6月にかけて、左翼インフルエンサーがそのことを問題にしていた。その考えは真実とは違うと思われる。しかし裁判が始まらずに時間がたっていることは問題とされなくてはならないことではないか?
裁判の遅れ
2022年7月8日、安倍晋三元首相が銃撃され、死亡した。
多くの人に衝撃を与えた事件であった。長く総理大臣を務めた人物であって、総理大臣を辞めた後も強い影響力を持っていた人物が、選挙応援演説中に銃撃され、死亡したのである。
ところがその後に奇妙な事が起こっている。裁判が始まらないまま時が過ぎているのである。
事件から2年近い2024年3月20日の朝日新聞の記事の見出しには「初公判は来年の可能性も」とある。
裁判は奈良地裁で開かれる予定で、昨年10月から2回、裁判官と検察官、弁護人で証拠や争点を議論する公判前整理手続きがあった。3回目の期日は未定で、さらに複数回をへて裁判員裁判が開かれるとみられる。
朝日新聞デジタル 山上被告「事件考えない日はない」 初公判は来年の可能性も
(中略)
最高裁によると、近年の手続きの平均期間は11カ月余り。検察の証拠開示や弁護側の主張の検討などに時間がかかり、弁護団の中には、「年内に裁判を開くのは難しい」という見方もあるという。
「初公判は来年」ということは2025年からということのようである。「年内に裁判を開くのは難しい」ということは、2024年内に裁判を開くのは難しく、2025年からでなくてはならないということのようである。
重大な事件が起こったにもかかわらず、その事件の裁判が2年たっても始まらないままである。これはおかしいことではないか?
左翼インフルエンサーの主張
2024年5月20日に菅野完氏がこのことに関する問題提起をした。これほど長く続く未決勾留は不当だというのである。
菅野氏はそのことを「警察と検察の怠慢と忖度」による「異常性」として、問題としている。そして「日本のリベラル論壇」も「保守論壇」もそのことを問題としていないことを問題としている。
「警察と検察の怠慢と忖度」によるかどうかはわからないが、たしかにおかしいのではないかと思われることが起こっている。
そして菅野氏も言うように、そのことは右からも左からもそれほど問題にされていないようである。
菅野氏が問題提起をした後、左翼インフルエンサーが次々とその問題を取り上げた。
たとえば町山智浩氏。町山氏は上に引用した朝日新聞の2024年3月20日の「山上被告「事件考えない日はない」 初公判は来年の可能性も」という記事を引用して次のように語っている。
町山氏は誰かが「公判を引き延ばしている」と語る。「公判になれば山上が安倍狙撃の動機として自民党と統一教会の癒着について法廷で話すことになる」、そのことを避けるために「公判を引き延ばしている」というのである。町山氏は誰が「公判を引き延ばしている」のか明らかにしていない。「自民党と統一教会の癒着について法廷で話す」ことを避けたい人とは、自民党の政治家のことであろうか?
町山氏はその後にさらにわかりやすい投稿をしている。
内田樹氏も「早く裁判を始めない」ことを問題としている。
「早く裁判を始めない」ことは『「被疑者が死ぬのを待っている」と邪推されてもしかたがない』という。内田氏は法務大臣に責任があると言っている。町山氏と同じように自民党の政治家がそうしているということであろうか?
清水潔氏も勾留が長く続いて裁判が始まらないことを問題としている。
清水氏は「司法まで政治に振り回される」ことを問題としている。裁判が始まらないことは、司法が「政治に振り回される」からだというのである。町山氏、内田氏と同じように、自民党の政治家が自分たちのために裁判を始めないようにしているということであろうか?
しかし裁判が始まると自民党の政治家に都合のよくないことが起こるのであろうか?
裁判は自民党の政治家に都合が悪いのか?
町山氏が語るように「公判になれば山上が安倍狙撃の動機として自民党と統一教会の癒着について法廷で話す」として、自民党の政治家にとって都合の悪いことになるであろうか?
山上被告が今後、自民党と統一教会の関係について、自民党に都合が悪いことを言うことができるとは考え難い。
自民党と統一教会の関係については、安倍元首相殺害事件以前から鈴木エイト氏が追及していて、事件以後、マスメディアが問題として取り扱ってきた。その後で山上被告がこれまで明らかになっていないことを付け加えることができるとは考え難い。
山上被告が自民党と統一教会の関係について語ることができることは、調査したことか、自分の経験によることであろう。
山上被告に他の人以上の調査能力があるとは考え難い。
山上被告が経験するくらいのことは、他の統一教会信者の子供も経験しているのではないか?
そもそも裁判が始まらなくても山上被告の発言は封じられていない。そもそも事件直後の山上被告の供述をきっかけとして、統一教会の問題が追及され、安倍元首相と統一教会の関係、自民党と統一教会の関係が追及される論調は生じたのである。
安倍元首相殺害事件の後、安倍元首相と統一教会の関係、そして自民党と統一教会の関係が問題とされた。しかし何が悪いのかよくわからない。
自民党と統一教会の関係
統一教会は自民党を支援していた。自民党議員はその代わりに統一教会のイベントに出席したりしていた。そのことの何が悪いのか?
安倍元首相殺害事件以後、紀藤正樹弁護士等が統一教会を問題とし、統一教会と自民党の関係を問題とする論調を主導した。事件直後の2022年7月12日、紀藤弁護士等の記者会見において同じく渡辺博弁護士は「政治家との繋がりがあるから、警察がきちんとした捜査をしてくれない」と語っている。統一教会には警察が捜査をしなくてはならない問題があるにもかかわらず、「政治家との繋がりがあるから、警察がきちんとした捜査をしてくれない」というのである。
「政治家との繋がりがあるから、警察がきちんとした捜査をしてくれない」ということが事実であるとすると、そういう政治家と統一教会の関係は問題とされなくてはならないにちがいない。
鈴木エイト氏はそのことを語ることのできる人として出て来た。
そしてマスメディアで安倍元首相と統一教会の関係、自民党議員と統一教会の関係を盛んに問題としてきた。
しかし鈴木エイト氏は安倍元首相が統一教会の関連団体にビデオメッセージを送ったこととか、その他の自民党議員が統一教会のイベントに出席したこととかを示したが、それだけでは悪いということはできない。悪いことは明らかにされていない。事件後の2年間、鈴木エイト氏はマスメディアで安倍元首相と統一教会の関係について語って来たのに「統一教会と安倍晋三元首相のズブズブの関係を明確な論拠で語る」ことは行われていない。そもそも「ズブズブ」という言葉がどういうことを意味しているのか明らかでない。
事件以降マスメディアがその問題を追及してきたにもかかわらず、問題とされるような事実は明らかにされていない。仲正昌樹氏の語る通りである。
清水潔氏は「統一教会との関係」は「バレている」と語ったが、現在何が明らかになっているのか? またすでに明らかになっているとすると、裁判が始まらなくても明らかになっているのではないか? このようにすでに明らかになっているとも言われ、これから明らかになるとも言われることの実体は何なのか?
紀藤弁護士や渡辺弁護士、鈴木エイト氏の主張にはいまだに根拠がないのである。根拠のない憶測によって世の中が動かされているかたちになっている。
岸田首相が2022年8月31日に自民党議員と統一教会の関係を問題として断絶宣言をしたのは、マスメディアが問題としたからではないかと思われる。
岸田首相は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を「社会的に問題が指摘される団体」として、自民党議員が関係を絶つことを宣言しているが、「社会的に問題が指摘される」というのはマスメディアが問題としているということではないか?
ところがそのマスメディアの論調を主導していた紀藤弁護士も鈴木エイト氏も、自民党議員と統一教会の間に悪い関係があったという根拠をもって示すことはできていない。紀藤弁護士や鈴木エイト氏が根拠もなく問題を指摘したことを根拠として、岸田首相は世界平和統一家庭連合を関係断絶しなくてはならない相手と語っているのではないか?
事件の実態
紀藤弁護士や鈴木エイト氏が事件後に主導した論調は根拠のないものである。裁判が穏当に行われる限り、その根拠のないことが明らかにされると思われる。
裁判によって、自民党に都合の悪い統一教会との関係が明らかにされるより、むしろ問題がないにもかかわらずあると言ってきた人が正しくなかったことが明らかにされると思われる。
そして被害者と加害者が逆転している論調も正されると思われる。
山上被告は統一教会の「被害者」とみなされてきた。しかしいまだに山上被告が統一教会から受けたという「被害」は明らかになっていない。山上被告が統一教会からどのような「被害」を受けたとしても、山上被告行った「加害」が問題とされなくてはならない。
40代の人物が自分の10代のことを理由として殺人事件を起こしたと言われている場合、その人が受けたことよりやったことが重視されなくてはならないのではないか?
山上被告と統一教会の関係がどうであっても、山上被告が安倍元首相を殺害したことに関しては、山上被告が安倍元首相から受けた「被害」はこれまでのところあるとは思われず、それだけ「加害」が問題とされなくてはならない。
裁判の前に日本を覆う論調
ところが安倍元首相殺害事件から2年たっても裁判が始まっていない。その間に事件に対して根拠なくきめつける論調が日本を覆ってしまった。
そもそも事件が起こっているのに法的な決着がつかない間は、法的に歪んだ状態が続くことになる。安倍元首相殺害事件のような重大な事件の場合は特にそうである。安倍元首相殺害事件の場合は、その上に、紀藤弁護士、鈴木エイト氏等によって事件を根拠なくきめつける論調が日本を覆ってしまった。
紀藤弁護士や鈴木エイト氏等は統一教会を「巨悪」として、山上被告は「被害者」であるかのように語った。そして安倍元首相はその「巨悪」である統一教会のために働いていたとして、安倍元首相に問題があったと語った。
紀藤弁護士や鈴木エイト氏等の根拠のない主張は、裁判が始まらないことによって力を持っているということもできる。
現在、裁判所は紀藤弁護士や鈴木エイト氏等によって作られた論調に直面している。裁判官は、紀藤弁護士や鈴木エイト氏等によって多くの人に広められた論調を相手にまわさなくてはならない。
紀藤弁護士や鈴木エイト氏はこれまでその根拠のない論調によってマスメディアを動かし、国会議員を動かし、岸田首相をも動かしてきた。国内で最後に残っているのは裁判所である。どうするか?
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