1948年に公開された映画「イースター・パレード」では、性別の転換が重要な意味を持っている。

イースター・パレード [Blu-ray]
映画終盤にジュディ・ガーランドの演ずる人物がアーヴィング・バーリンの名曲「イースター・パレード」を歌うところは、映画の中で重要なところであるが、そこで性別の転換が行われているのである。
男性が女性に対して歌うところを、女性が男性に対して歌うようにしているのである。
Easter Parade | Digital Trailer | Warner Bros. Entertainment
「イースター・パレード」の歌詞は、女性とイースター・パレードに行く約束をしていた男性が、朝、ドアを開けてその女性の美しい姿をみて、気持ちが高まるというものである。
映画「イースター・パレード」では、その歌をジュディ・ガーランドの演ずる女性が歌っている。
そのために歌詞を変えているところがある。
たとえば、相手をレディ( “lady” )とよぶところを、奴( “fellow” )と変えている。
しかし変えずにそのままにしているところもある。
帽子
たとえば、相手の女性の、帽子の上をフリルで飾った姿の美しさを歌うところを、そのままにしている。
ジュディ・ガーランドがそう歌う時に、前にいるのはフレッド・アステアである。
フレッド・アステアはトレードマークのトップ・ハットをかぶっている。
ただしそのトップ・ハットにはピンクのリボンが巻かれている。
ジュディ・ガーランドはそのピンクのリボンを巻いたトップ・ハットを指しながら、帽子の上をフリルで飾った姿の美しさを歌うかたちになっている。
そう見立てているということができる。
そもそもそのリボンを巻いたトップ・ハットは、その直前にジュディ・ガーランドの演ずる人物が、フレッド・アステアの演ずる人物に贈ったものであった。
膝の上に
ジュディ・ガーランドが歌に合わせて膝の上にフレッド・アステアを座らせるところがあるが、男性と女性が入れ替わっていると考えることができる。
ドアを開けて
そもそも男性ではなく女性であるジュディ・ガーランドが、朝ドアを開けて、出かける前の相手の姿を見に来るところから、性別の転換が行われている。
男性が女性の美しさを見て歌うのではなく、女性が男性の美しさを見て歌うというかたちになっている。
相手の部屋に入ってきて、腕を組んで相手をみて、「まだ支度ができていないの? 男はこれだから」( “Aren’t you ready yet? Just like a man.” )と言うところも。
性別の転換の理由
何故に性別の転換は行われたのか?
裏の事情
裏の事情を考えると、ジュディ・ガーランドに歌わせたかったからであろう。
「イースター・パレード」の映画では、当然楽曲「イースター・パレード」を歌うことになる。
フレッド・アステアは踊りの人、ジュディ・ガーランドは歌の人であるから、「イースター・パレード」を歌うのはジュディ・ガーランドになる。
しかし「イースター・パレード」は男性が女性に対して歌う歌であるゆえに、ジュディ・ガーランドが歌うと、性別の転換が生ずるのである。
劇中の意味
「イースター・パレード」の歌での性別の転換は、劇の中で意味があることになっている。
ジュディ・ガーランドの演ずる人物が性別の転換を行って「イースター・パレード」を歌うことは、その人物がそれまで抱えていた問題を解決することになっているのである。
その前の夜、ジュディ・ガーランドの演ずる人物は、フレッド・アステアの演ずる人物が好きであるにもかかわらず、つきはなしてしまう。
しかしやはり好きなので、その夜は眠れずにすごした。
次の朝、部屋に訪ねてきた友人(ピーター・ローフォード)を迎え入れて、自分の気持ちを述べると、好きな相手には自分の気持ちを伝えればいいと言われる。
それに対して、そういうことは男性には容易なことであるが、自分は男性ではないので容易なことではないと答える。
すると、なぜ? と聞かれる。
それを聞いて、ジュディ・ガーランドの演ずる人物はひらめいたように目を輝かせる。
その時ひらめいたのが、性別を転換して「イースター・パレード」を歌うことである。
そしてニューヨーク五番街のイースター・パレードでのデートに誘うことである。
ふたりは前にイースター・パレードでデートをしようと約束していた。
そもそもふたりで仕事を始めたのは前の年のイースターの日であった。ふたりでニューヨーク五番街のイースター・パレードをみて、次の年のイースター・パレードの時にはジュディ・ガーランドの演ずる人物がスターになっているとフレッド・アステアの演ずる人物は語っていた。
ふたりでディリンガムのショーをやることになった時にも、ふたりでイースター・パレードに行こうと言い合っていた。
ふたりはそのディリンガムのショーで成功した。
ところがジュディ・ガーランドの演ずる人物は、フレッド・アステアの演ずる人物をつきはなしてしまった。
そしてどう関係を修復すればいいか、わからなくなっていた。
そういう状況で、ジュディ・ガーランドの演ずる人物が男性のように振る舞って、「イースター・パレード」を歌うと、関係は修復した。
第三段階
映画「イースター・パレード」は、性別の転換だけで終わっていない。
ジュディ・ガーランドはピンクのリボンを巻いたトップ・ハットを指して歌うが、その歌の途中でフレッド・アステアはトップ・ハットに巻かれたリボンを取り除いている。
ジュディ・ガーランドはフレッド・アステアを膝に乗せるが、フレッド・アステアはすぐに立ち上がっている。
フレッド・アステアは女性のようにも振る舞うが、男性に戻る。
元の歌詞では、男性が相手の女性の美しい姿をみて自分はイースターパレードで最も誇らしい男になると歌うが、ジュディ・ガーランドは、自分たちは最も誇らしいカップルになると歌う。
いわば男性の目線の歌であったのを、ふたりの目線の歌にしているということができる。
フレッド・アステアはリボンをとり除いたトップ・ハットを、ジュディ・ガーランドは自分で持ってきた飾りのついた帽子をかぶって、ふたりで部屋を出てイースター・パレードに行く。
そもそもこの映画は、フレッド・アステアの演ずる人物が女性(アン・ミラー)のためにイースターの帽子を買うところから始まっていた。
その女性は去って、一年後にフレッド・アステアの演ずる人物にトップ・ハットを贈る女性とともにイースター・パレードに行くことになっているのである。
そしてニューヨーク五番街のイースター・パレードでは、フレッド・アステアが「イースター・パレード」の後半を歌っている。

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