能登半島地震―首相は新年会に出席してはいけないのか?

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新年会 能登半島地震
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 2024年1月5日に岸田首相が新年会に出席したことについて、1月1日に起こった能登半島地震との関係で問題とされた。

 地震が起こった時に首相は新年会に出席してはいけないのか?

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経済3団体共催の新年会

 2024年1月5日、岸田首相は経済3団体共催の新年会に出席してあいさつした。

HAYABUSA氏

 同日、HAYABUSA氏はその日の首相動静にそのことが記されていることを取り上げて、問題とした。

 HAYABUSA氏が問題としているのは、

・「こういう非常時に」首相が「新年会に挨拶に行くこと」は「常識的に有り得る話なのか」?

・「代理に任せるならまだ分かる」―ということは「代理に任せる」方がいいのにそうしなかったこと

・沖縄の玉城知事が首里城消失の時に「現地の予定を全てキャンセルして帰国した」ことと比較して、そうしなかったことを問題としている

 以上の主張に対しては疑問がある。

 玉城氏が首里城消失を知った2019年10月31日と比べられるのは、能登半島地震が起こった2024年1月1日であって、2024年1月5日ではないのではないか?

 玉城氏は首里城消失を知って、それから対応を始めなくてはならなかった。岸田氏は1月1日に地震が起こってから1月5日まで対応をしてきている。しなくてはならないことは、はじめに多くて次第に少なくなってくるのではないか?

 経済3団体の新年会に出席してあいさつすることは、どうしても止めなくてはならなかったことなのか? 積極的な意味はないのか?

 代理に任せるとよかったことなのか?

2024年の経済3団体共催の新年会

 2024年の経済3団体共催の新年会は『名称から「祝賀」を取って「新年会」に変更』されたというように、震災に配慮して行われた。

会場では3団体のトップが「金びょうぶ」の前で出席者らを出迎えるのが恒例でしたが、ことしは金びょうぶは取り除かれ、会の冒頭、出席者らは地震や事故で亡くなった人たちに黙とうをささげました。
また、会場ではアルコールの提供もとりやめとなり、乾杯の発声も行われませんでした。
経団連の十倉会長は、あいさつで「すでにさまざまな企業が物資の供給やインフラの復旧、生活サービスの維持、生活復旧支援などに取り組んでいる。経済界は引き続き、被災地の皆さまに寄り添った支援を行っていく」と述べました。
経団連では会員企業に対して寄付や物資などの提供を呼びかけています。
また、日本商工会議所も被災した地域の商工会議所で中小企業や小規模事業者の資金繰りなどの相談に応じる窓口の設置をサポートするなど、経済界でも支援の動きが進んでいます。

NHK 経済3団体の新年会 祝賀ムードは自粛 地震被災地を支援の考え

 その後に各企業の代表が震災対応について語っている。

 経済界の震災に対する取り組みを明らかにする場としての意味があったのではないか?

 朝日新聞の1月6日の記事では次のように伝えられている。

 能登半島地震の被災地を支援する企業の動きが本格化している。食品や日用品大手の物資支援だけでなく、中には自社の「強み」を生かした取り組みも。被災地に向けては、5日に開かれた経済団体の新年の会合でも企業トップの発言が相次いだ。

朝日新聞 山パン、日清、ユニ・チャーム 翌日から物資輸送→費用は国が後払い

 岸田首相はその新年会で「経済の好循環を確かなものにしていくためには物価上昇を上回る賃上げが不可欠だとして、実現に向けた経済界の協力を要請し」たという。

 震災対応とは別のことである。しかし経済のことを語ってはいけないのか? 経済のことは震災からの復興とも関わってくることではないか?

山崎雅弘氏

 ところで「戦史/紛争史研究家」山崎雅弘氏はHAYABUSA氏の上の言葉を引用しつつ、さらに激しいことを言っている。

 首相の新年会出席は「災害対応の最高責任者である総理大臣が、生き埋めの被災者そっちのけで「財界人のご機嫌取り」を優先しているという話」であると言うのである。また「財界人との関係だけが大事で、下級国民は死んでても興味ない」とも語っている。

 これは言い過ぎではないか?

 第一に「生き埋めの被災者そっちのけ」とか「下級国民は死んでても興味ない」とかいうことは明らかではない。震災直後から震災対応を続けていた岸田首相がその間に新年会に出たことは、そのように言われなくてはならないことなのか?

 第二に経済3団体の新年会に出たことをもって『「財界人のご機嫌取り」を優先している』とか「財界人との関係だけが大事」とかいうことにも疑問がある。岸田首相はその新年会で財界人に対して賃上げを求めている。そして国民の所得が増加することを求めている。

 賃上げのことは、次の連合の新年互礼会と関わる。

連合2024新年互礼会

 岸田首相は同日、連合の新年互礼会にも出席していた。

 そこでもまず震災について述べた後、賃上げについて述べている。

 連合の新年互礼会ではまず芳野会長が震災に対する対応について語ったという。

 冒頭、芳野友子会長は主催者を代表し、1月1日の令和6年能登地方地震発生について、被災された方へのお悔やみとお見舞いを述べ、今後の連合の対応として、対策本部の設置や救援カンパ等の支援活動、政府・政党、経済団体への要請行動といった取り組みの実施を表明しました。

聯合ニュース 連合2024新年互礼会を開催

 2024年の連合の新年互礼会には、震災に対する取り組みについて表明すること、賃上げを求めること、という意味があったようである。

 連合の新年互礼会には、立憲民主党の泉健太代表も出席している。

1月1日に発生した令和6年能登半島地震により大きな被害が発生したことを踏まえ、互礼会では予定をしていた鏡割りなどを取りやめ、また会の冒頭では犠牲者の方々を追悼する黙祷を出席者全員で行いました。
 互例会には泉代表の他、大島敦企業団体交流委員長らも出席し、連合や各産別の役員と懇談し、また能登半島地震の被害者の救命・救助、被災地の復興についても意見交換を行いました。

立憲民主党公式サイト 泉代表、「連合2024新年互礼会」に出席

 ところで、鳩山由紀夫元首相は1月25日に、岸田首相が連合の新年会に出席したことについて「唖然とした」と語っている。

 岸田首相が新年会に出席したことを「初動の遅れ」と関係づけている。「対応の遅れが大きく命に関わる」とか「時間との勝負である」とか言うことはその通りだと思うが、岸田首相が連合の新年会に出席することによってそういう問題が生ずるのであろうか?

 連合の新年会に対して山崎雅弘氏の言葉はさらに激しくなっている。

 「常に電力会社を含む大企業側」というのは原発に対する態度について言っているようである。

 しかし「自民党や財界人など支配層との関係だけが大事で、下級国民は死んでても興味ない」と言うのは言い過ぎではないか? 連合の新年会では震災に対する取り組みについて意見交換されていたというのであるから、被災した国民のことを考えていたにちがいない。

時事通信社の新年互礼会

 岸田首相は同日時事通信社の新年会にも出席していた。

 山崎雅弘氏は時事通信社に対しても「住民が大勢生き埋めの状態で新年会に招いた」と強烈な言葉で責めている。

 しかし生き埋めの住民に対する政府の対応は、首相が数分新年会に出席するかどうかによって変わることなのであろうか?

 山崎氏は首相が新年会で震災について触れたところがいかに少なかったかを強調している。そして「すぐに経済の話」に移ったと言っている。そのことは岸田首相が「一般国民の命の重さ」を軽くみていることを現わしているというのである。

 しかしマスメディアの人が集まった新年会で、震災に対する取り組みについて述べることには意味があるのではないか? また経済について語ることは「一般国民」のためではないか?

 「時事通信社は岸田首相を新年会に呼んだことで、岸田首相の震災対応の不備を厳しく批判できなくなったのではないですか?」ということに関しては、時事通信社は山崎氏ほど岸田首相の震災対応は悪いときめつけることはしていないようである。

 たとえば1月5日の次の記事では、5日の4年ぶりの与野党党首会談、既に閣議決定した2024年度予算案を修正し、予備費を増額するよう財務省に指示したこと、元日の地震発生以来、首相は記者団の取材に毎日2回応じていることを取り上げて、「異例の対応を矢継ぎ早に繰り出している」と語っている。

 そして岸田首相の意図について「派閥の裏金疑惑で内閣支持率が2割前後に落ち込む中、震災対応を通じて指導力を演出する意図もあるとみられ」ると推測している。

 たしかに岸田首相がいいところを見せるために震災対応に努力したという方が、山崎氏のように「財界人との関係だけが大事で、下級国民は死んでても興味ない」という断定より真実に近いと思われる。

 山崎雅弘氏の発言もう一つ。

 1月5日の新年会への出席は非難されなくてはならないことになっている。岸田首相は「失策の責任をごまかす人間」ときめつけられている。そういうことは検証がなされた後でなくては言うことはできないのではないか?

2024年1月5日の新年会のまとめ

 ここで2024年1月5日の岸田首相の行動をまとめよう。

 まず、10時45分に自民党新年仕事始めに出席して、あいさつしている。

 14時7分にホテルニューオータニ「鶴の間」で経済3団体共催の新年会に出席し、あいさつ、20分には同ホテルを出ている。

 15時1分から46分まで国会で与野党党首会談。

 16時14分、東日暮里のアートホテル日暮里ラングウッドの宴会場「ラングウッドホール」で連合の新年互礼会に出席し、あいさつ。27分、同ホテルを出る。

 17時、帝国ホテルでエマニエル駐日米大使と面会。7分~15分、ホテル内の宴会場「富士の間」で時事通信社、内外情勢調査会など主催の新年互礼会に出席し、あいさつ。18分、同ホテルを出る。

おわりに

 岸田首相が新年会に出席したことを巡る議論は、震災という非日常的な災害と、日常的な行事とがどのように関わるか? という問題でもある。

 音喜多議員は「気遣いは心に持ちつつ、日常活動・経済活動はできるかぎり通常通り行うべきだと思います」と語っている。

 2011年の東日本大震災の時と比べると、2024年の能登半島地震では、日常的なものの復帰は早かったと思われる。NHKが早くから日常の放送を再開したことは話題になった。東日本大震災の時には日常的なものの自粛が長く続いていた。そしてそのことによる弊害も言われていた。

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