2021年7、8月、菅義偉首相(当時)は新型コロナウイルスに関して「出口が見え始めている」「明かりが見えている」と語った。
当時そういう菅首相の言葉は馬鹿にされていた。―野党に、マスメディアに。
何ゆえに菅首相の言葉を馬鹿にすることができるのか、私はわからなかった。
その後に事態は菅首相が語ったようになった。そうなると、菅首相を馬鹿にしていた人は間違っていたということになる。
村上春樹氏
第一の例として、大作家・村上春樹氏をとりあげてみよう。
村上春樹氏は8月29日のラジオ番組で菅首相の言葉を批判したと「日刊スポーツ」が伝えていた。
東京FM系で放送された自らDJを務めるラジオ番組「村上RADIO」の番組内で、村上春樹氏は7月20日の菅首相の言葉を「今日の言葉」としてとりあげた。
7月20日、菅首相は国際オリンピック委員会(IOC)が都内のホテルで開いた総会の冒頭あいさつで次のように語った。
「新型コロナ感染拡大は世界中で一進一退を繰り返しているが、ワクチン接種も始まり、長いトンネルにようやく出口が見え始めている」
菅首相、新型コロナ感染拡大に「ようやく出口」 IOC総会で
菅首相は8月25日の記者会見でも「明かりははっきりと見え始めています。」と語っていた。
村上春樹氏の8月29日のラジオ番組での発言は、そのことも踏まえていたのであろうか?
8月25日の菅首相の言葉は次の通り。
感染力の強いデルタ株のまん延によって、感染者を押さえ込むことはこれまで以上に容易ではなくなっています。しかしながら、現在進めているワクチンの接種がデルタ株に対しても明らかな効果があり、新たな治療薬で広く重症化を防ぐことも可能です。明かりははっきりと見え始めています。
令和3年8月25日 新型コロナウイルス感染症に関する菅内閣総理大臣記者会見
村上春樹氏は菅首相のその言葉をとりあげて、次のように語ったという。
「あのですねぇ…もしね、出口が本当に見えていたんだとしたら、菅さんはお年の割に、すごく視力が良いんでしょうね」
村上春樹氏、菅首相を痛烈批判「聞く耳持たないけど、目だけは良いのかも」
「僕はね、菅さんと同い年だけど、出口なんて全然、見えていません。この人、聞く耳をあまり持たないみたいだけど、目だけは良いのかもしれない。あるいは見たい物だけ見ているのかも知れない。どちらでしょうね?」
菅首相が「出口が見え始めている」と語ったのに対して、村上春樹氏は「出口なんて全然、見えていません」と言う。
村上春樹氏は、菅首相の「すごく視力が良い」可能性、「目だけは良いのかもしれない」という可能性に言及している。
しかし村上春樹氏と同じ菅首相の年齢では、そういうことはないと考えているようでもある。
マスメディア
8月25日の記者会見での菅首相の言葉に対して、マスメディアは批判的であった。
たとえば朝日新聞の上の記事。
菅首相の「明かりははっきりと見え始めています」という言葉に対して、見えないと言った文化放送の山本氏の発言の側に立っている。
山本氏は記者会見での質問で次のように語った。
先ほど、ワクチンや抗体カクテル療法の効果を上げて、明かりが見え始めているとおっしゃいました。ただ、いまだ感染のピークも見通せません。ですから、国民にはその明かりは見えて、総理と同じ明かりは見えているのかどうかというのはちょっと疑問に感じています。いつになればその明かりは届くのでしょうか。
令和3年8月25日 新型コロナウイルス感染症に関する菅内閣総理大臣記者会見
国民も山本氏と同じように「明かり」が見えない側にいて、菅首相が見えるという「明かり」に対する疑問があるという。
野党議員
下の記事では菅首相の言葉と世論との乖離が言われている。
8月26日午前の参院厚労委員会での野党議員の言葉が取り上げられている。
立憲民主党・田島麻衣子参院議員。
「私は数字を見ている限り、まったく明かりがはっきり見え始めている状況だとは思えない。重症者は連日、最多を更新している。各都道府県で新規感染者も拡大している」(立憲・田島麻衣子参院議員)
菅首相「明かりは見え始めています」発言に止まない批判 世論との乖離浮き彫りに
共産党・倉林明子参院議員。
「総理には見えているのかもしれないが、国民には見えていないと思う。示すべき明かりとして最も求められているのは、今在宅で死の恐怖と戦いながら入院できないでいる方たちにとってこそ、明かりを示すべき。総理はそういうメッセージを発するべき」(共産・倉林明子参院議員)
菅首相「明かりは見え始めています」発言に止まない批判 世論との乖離浮き彫りに
倉林議員は、菅首相が明かりは見え始めていると言ったことをもって、国民から離れていることだとみなしている。
菅首相
菅首相が「明かり」が見えたと語ったのは、デルタ株に対して効果のあるワクチンの接種が進んでいたからであった。―「現在進めているワクチンの接種がデルタ株に対しても明らかな効果があり、新たな治療薬で広く重症化を防ぐことも可能です。」
8月25日の記者会見で菅首相は文化放送の山本氏の質問に対して次のように答えている。
今、国民全体で第1回目の接種は54パーセントぐらいですかね。1回目が終わっています。これを65歳以上の方のように80パーセントとか、そうしたものに進めていけば、実際に感染も少なくなり、死者、死亡にもつながらないということは明確になってきていますから、そこは明らかであります。
令和3年8月25日 新型コロナウイルス感染症に関する菅内閣総理大臣記者会見
それと、50歳の方で重症化しないような、この抗体のカクテル療法というの、ここがやはり、今、1万人の方にその療法をやって、効果がすこぶる高く出ています。
ワクチン接種を進めることによって「実際に感染も少なくなり、死者、死亡にもつながらないということは明確になってきています」というのである。
日本のワクチン接種は9月中頃には米国に追いつくに至った。
そして8月、9月と時が経つにつれて、感染者数は激減していった。
首相を退任した菅氏は10月19日に次のように語っている。
「私は、『明かりが見え始めた』と言ったら、ものすごく批判されました。間違いなく明かりが見え始めて、輝きはじめているんです」
J-CASTニュース 菅前首相、第一声で「マスコミの揶揄」に反論 結果アピール「間違いなくワクチンは効くんです!」
新型コロナウイルスの感染法上の位置づけが5類になった2023年5月の記事。
なぜ首相在任中に評価されず、国民に理解されなかったか聞かれて、次のように答えている。
ワクチンは接種してから効果が出るまでに時間がかかりますし、実際の感染状況もしばらくしないと数字に表れない。
毎日新聞 デルタ株流行の渦中 菅前首相が収束を確信した根拠とは/上
菅氏は「明かり」を見始めていたのに、そのことはしばらくしないと数字に表れないゆえに国民に理解されなかったというのである。
後編で菅氏はワクチンが切り札になると考えた理由を説明している。
海外ではそれまでロックダウン(都市封鎖)しても感染を収めきれなかったのに、接種が先行した米国や英国、イスラエルでは効果がみられ、にぎやかさを取り戻した街の映像が日本でも報じられました。
毎日新聞 「もどかしかった」情報の遅れ 菅氏が痛感したコロナ対策の教訓/下
資料を収集させて詳しく分析すると、2回接種率が4割を超えたあたりから感染状況が急速に落ち着いたことが分かりました。それを見て「やはりワクチンしかない」と思ったのです。
問題
私が問題としたいのは、菅首相の言葉を問題とした人は、科学的問題を政治的偏向によってゆがめていたのではないかということである。
感染対策をどうするかということは科学的に考えるべきことである。
ところが菅首相の言葉を問題とした人は、菅首相は間違っていたかのように語っているのであるが、その根拠は科学ではない。
数字が下がっていないように見える、ゆえに菅首相は間違っているというのである。
菅首相が考えていたように、その後に数字が下がることを考えていない。
実際にその後に数字が下がったことによって、菅首相は間違っていると言ったことは、間違いであったことが明らかになっている。
菅首相の言葉を問題とした人は、科学を根拠としていたのではなくて、政治的な偏向にしたがっていたのではないか、というのは、たとえば菅首相は聞く耳を持たないというパターンによってきめつけていたのではないか、ということである。
しかしそういう批判こそ非科学的ではないか?
菅首相の発言を問題とした人は、菅首相に謝罪したのであろうか?
国民民主党玉木雄一郎代表
J-CASTニュースでは、 国民民主党の玉木雄一郎代表は26日午前の記者会見で次のように語ったとされる。
菅首相「明かりは見え始めています」発言に止まない批判 世論との乖離浮き彫りに
自粛をもとめることと、明かりが見えているということとは、「方向の異なるメッセージ」であるゆえに効果が出ないと考えているようである。
しかし菅首相はワクチンによって明かりが見えていると言うのであるから、そのこととワクチンがいきわたるまで自粛をもとめることとは、「方向の異なるメッセージ 」ではないのではないか?
共同通信は同じ記者会見のことを書いているはずであるが、意味がよくわからなくなっている。
「明かり見える」は不適切 国民民主、首相発言を批判
玉木氏は次のようにも語っている。
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