2020年7月26日、フジテレビの「日曜報道THE PRIME」での橋下徹氏の発言が話題になった。
橋下徹氏はその番組で、米中の対立が緊迫化している現状にたいする意見を求められて、二階氏のような政治家を増やすべきだと主張した。
二階俊博自民党幹事長は、現在の安倍政権を、親中の方向に傾かせていると言われている。
橋下徹氏が、二階氏のような政治家を増やすべきだと言うのはどういうことか?
実際の発言
政治的な問題に関する発言が話題になるときには、受け取る側の政治的関心によって歪曲されることもある。
なるべく歪曲しないように、正確に伝えよう。
番組は、メインキャスター二人が米中の現状を紹介して、スタジオにいる橋下徹氏、宮家邦彦氏、オンラインで参加している櫻井よしこ氏に意見を聞くというかたちになっていた。
番組では、トランプ政権が中華人民共和国に対してますます強硬な言動をしていること、それに対して中華人民共和国も強硬に反発していることを紹介すると同時に、日本の経済が中華人民共和国に大きく依存していることをもとりあげて、その関係をどうするかを問題としている。
櫻井よしこ氏の主張
日本にとって、民主主義とか人道とかいう大きな価値観の面で存在感を示すべきチャンスであって、そういう大きな戦略の面から考えるべきだ。
そういう戦略のためには、経済をある程度犠牲にしなくてはならない。
米国も、英仏も今、経済を犠牲にしても、それより価値観を重視する方向をとっている。
橋下徹氏の主張
現在、日本の国会議員に、米国の勢いに乗じて、中国の体制を変えようという人がいるが、トランプ政権が続くかわらかないのであるから、二階幹事長のように、中国との関係を、「パイプをあのように太くする政治家」を増やさなくてはいけない。
これに対して櫻井氏は、現実には経済的につながっているところがあって、全部断ち切ることはできないが、戦略は変えなくてはいけないと反論した。
宮家邦彦氏の主張
宮家氏は、櫻井氏のいうように、戦略的なレベルで考えた上で判断していかなくてはいけないという。
宮家氏も、日本に帰ってくることのできないところがあることを認める。しかし戦略的な価値については、戦略的に考えて、日本に帰るようにしなくてはいけないという。
考察
橋下氏も、日本は自由民主という価値観を基軸として、そのためにはたらくべきだという。その上で、中華人民共和国とのパイプをもった方がいいという。
そこだけを聞くと、櫻井氏、宮家氏と同じことを言っているように聞こえなくもない。
しかし橋下氏の考えは、櫻井氏、宮家氏と違うようである。
櫻井氏、宮家氏は、戦略と戦術とを区別している。日本は戦略において、方向転換しなくてはならない。その上で、現実的につながらなくてはならないところについては、戦術として考える。これが櫻井氏、宮家氏の考えである。
それに対して、橋下氏のように、二階氏のような政治家を増やせということは、戦術にとどまることではなく、戦略に関わることになる。
今の日本は、二階氏によって、中華人民共和国寄りになっていると言われている。
今の日本において、橋下氏のように、二階氏のような政治家を増やせということは、櫻井氏、宮家氏のように、日本はこれまでのような中華人民共和国との関係から方向転換しなくてはならない、という戦略に反対することではないか。現在、二階氏によって中華人民共和国に傾いていると言われる日本の戦略を変えないということではないか。それどころか、橋下氏は、二階氏のような政治家を増やせというのであるから、今以上に日本を中華人民共和国寄りにしろということではないか。
二階俊博氏
7月7日に、自民党の外交部会、外交調査会が、香港国家安全維持法の施行を受けて、習近平中華人民共和国国家主席の国賓としての来日の中止を要請する決議文をまとめた。
しかし二階氏によって、自民党の決議ではなく、自民党の外交部会、外交調査会の決議というかたちにおさえられた。
このことによって二階氏が現在の国際関係に対してどのようなはたらきをしているか、多くの人にわかりやすくなった。
次のテレ東の動画には、二階氏の反応がそのまま映っていて、興味深い。
二階氏は、自民党として香港国家安全維持法に抗議して、習近平国家主席の国賓としての来日に反対することに、反対しているのである。
ついでに、石破氏、公明党の山口氏も二階氏と同じ立場をとっていることをおぼえておこう。
ちなみに、宮家邦彦氏は、前に、番組で、習近平国家主席を国賓としてよぶことはすでにきまっているのであるから、日本は、よんだ上で、言うべきことを言うべきだと言っていた。
その考えは変わったのであろうか?
状況認識
橋下氏は、今、米国とともに中華人民共和国に対抗すべきだという意見をもった国会議員が多くて、二階氏のようなことを言うことが憚られるようになっているという。
それを聞いて、橋下氏が語ることと、私が見ていることと、違うと思った。
香港国家安全維持法に対する動きを見ても、米国とともに自由民主の価値観の側に立って中華人民共和国に対抗すべきだという意見をもった国会議員の主張は、二階氏などによって抑えられている。
橋下氏によると、今、日本は行き過ぎているゆえに、それに対してバランスをとらなくてはならないようであるが、今、日本は行き過ぎておらず、二階氏のような人によって抑えられている。
今の日本は、米国に比べても、英国、オーストラリアに比べても、インド、フランスに比べても、中華人民共和国に対抗する動きは弱い。
その上に、橋下氏のいうように、二階氏のような人が増えると、日本は逆方向に行き過ぎることになるのではないか?
橋下氏は、トランプ大統領が再選されなかった場合のことを問題とする。たしかにトランプ大統領が再選されなった場合、米国の政策は変わるかもしれない。
しかし大統領選は11月であって、7月現在、まだどうなるかわからない。そういう状況で日本は、トランプ大統領が再選されなかった場合のことを考えて、トランプ政権と反対の行動をとることが正しいことなのか?
現在、米国は次々と中華人民共和国に対して厳しい法案を作っているが、それは議会が作っているのであって、米国議会は、与野党ともに中華人民共和国に対して強硬である。
「維新」と中華人民共和国との関係
今度の橋下徹氏の発言を聞く限り、橋下徹氏は中華人民共和国に偏っているように見える。
今、「維新」と中華人民共和国との関係が問題とされている。
新型コロナウイルスの感染が拡大してから、他の野党の支持率が伸び悩む中で、「維新」の支持率は伸びた。
吉村大阪府知事は人気者になっているようである。
「維新」は、思想的には保守寄りということで、保守派にも支持されているようである。
しかし「維新」に対して中華人民共和国寄りではないか、と疑う人はいた。
ソフトバンク
たとえば吉村大阪府知事がソフトバンクの孫正義氏とツイッターでやりとりをしたときなど話題になった。
孫正義氏は、中華人民共和国と関係の深い人である。
米国は、中華人民共和国と関係の深い企業を排斥する方針をとってきている。その中でソフトバンクに対しても高く評価していない。
米国務省は5Gのクリーンな会社CLEAN COMPANIESを選んで発表しているが、日本からは、NTTとKDDIだけが選ばれていて、ソフトバンクは選ばれていない。
Tik Tok
大阪府はまた、ByteDance株式会社と連携すると発表した。ByteDance株式会社は「TikTokを活用した若年層を含む幅広い世代に向けた府政情報や大阪の魅力発信支援」をするという。
米国では、Tik Tokを利用すると、個人情報が中華人民和共和国に渡る恐れがあるとして、利用を禁止する法案が作られている。
ロイターによると、7月22日、米議会上院の国土安全保障・政府活動委員会は、中国系の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を連邦政府職員が政府支給の端末で利用することを禁止する法案を全会一致で可決した。
下院も、連邦政府職員によるTikTok利用禁止が盛り込まれた防衛政策法案を賛成多数で可決している。
上院でも可決されれば、法案は成立するという。
(追記)8月1日にトランプ大統領はTik Tokの米国での利用を禁止する意向を明らかにした。
2020年7月、米国でTik Tokの利用を禁止する法案が作られている、その時に、大阪府は、Tik Tokを利用することを自ら発表している。
大阪府は、米国などと反対の道をとるようである。
大阪府が米国などの動きを知らなかったとすると、愚かだと言わなくてはならない。
大阪府が米国などの動きを知っていたとすると、わざわざそれと反対の道をとっていることになる。
「維新」はこのように米国と反対に中華人民共和国に近づく道をとっている。
橋下氏が二階氏のような政治家を増やすべきだという言葉は、大阪府と同じく、米国に反対して中華人民共和国と親しくするという考えを示しているのではないか?
追記(7月28日)
橋下徹氏の上の発言に対して、百田尚樹氏が批判した。そのことは私にとってどうでもいいことであったので、放っていた。
ところが7月28日に、橋下徹氏が百田尚樹氏にかみついたというので、とりあげざるをえなくなった。
百田尚樹氏のことは、今どうでもいい。問題は橋下徹氏だ。
橋下氏は、「政治なんて表と裏、あの手この手でずる賢くやるもの」という。これは番組でも言っていたことである。
私もそうだとおもう。
問題は橋下氏がそのことの具体例として二階氏の名を出したことである。それでは「威勢よく吠えるだけの連中」に対してバランスをとることにはならない。「威勢よく吠えるだけの連中」を抑え込むことになる。
そもそも今、中華人民共和国に対して批判的な立場をとることを、「威勢よく吠えるだけ」と言うことができるだろうか。
今はむしろ米国に近い立場をとってみせることが「ずる賢くやる」ことでもあるのではないか?
橋下氏の言い方にも問題がある。
橋下氏も、二階氏と同じように、自分の立場を日本国民に納得させるつもりがないように見える。
二階氏の上の動画での発言を聞いて納得できる人はいないであろう。
橋下氏の発言でも、政治は「ずる賢くやる」ものだという一般論と、二階氏のような人を増やせという個別の論議との関係が説明されていないことに問題があるのに、橋下氏はそのことをちっとも説明してくれない。「俺の真意がわからん者は一から近現代史を勉強しなおせ」などと突き放している。
たしかに対米戦争の時に日本は「自分たちの力を弁えず威勢よく吠えるだけの連中」によって誤ったかもしれない。
しかしそのことを反省しなくてはならないというならば、日本の力、米国側の力、中華人民共和国側の力を明らかにした上で、二階氏のような人を増やすことが正しいということを納得させなくてはならない。
追記(7月30日)
足立康史議員の発言
「維新」はみな橋下徹氏のように、日本は二階俊博氏のような人を増やすべきだと考えているのであろうか?
私は足立康史議員のような人が何と言うか、気になっていた。
7月30日に、足立氏の発言が出た。
足立議員は常々、「維新」以外の野党を厳しく批判し、与党に対しても厳しく批判している。
そういう人が橋下徹氏の発言に対して何を言うかと思っていると、無条件の擁護であった。
橋下徹氏の「真意」には価値がある、しかし理解されていないというならば、何故に足立氏はそのことを理解されるように説明しないのか?
そもそも橋下氏の発言の問題は「真意」がわからないということにある。
橋下氏の「真意」が、櫻井氏、宮家氏と同じように、戦略としては、米英の側に立ち、ただ戦術として、中華人民共和国とのつながりを考えるというものであるとすると、橋下氏は多くの人に誤解されているということになる。
しかしその誤解の原因は、橋下氏がわざわざ二階氏の名を出したことにある。橋下氏の説明が拙劣だったことにある。
しかし橋下氏が、米英側とタッグを組むことを基軸とするといいながら、櫻井氏、宮家氏の言う戦略的な方向転換に同意すると言わず、二階氏のような政治家が増えることを望むと言っているところを聞くと、橋下氏の「真意」は、現状維持、あるいは中華人民共和国との関係を進める方向にあるように聞こえる。
足立氏の立場は、橋下氏の立場と違うのではないか、と思うのである。
今の足立氏の立場は次のツイートにあるとみていいだろう。
この足立氏の言葉、門田氏の言葉は、橋下氏の言葉と一致しているのか?
二階氏の考えが足立氏、門田氏の考えと一致しているとは思えない。橋下氏が二階氏のような人を増やすべきだということは、足立氏、門田氏の考えと一致しないことではないか?
橋下氏の考えでは、足立氏、門田氏の考えは「自分たちの力を弁えず威勢よく吠えるだけ」ということになるのではないか?
「日本の内弁慶が治るのに5年10年かかる」というのも、私には理解できない。
今の日本に、5年10年かけて治さなくてはならないような「内弁慶」があるのか?
そもそも「内弁慶」というのはどこの国にもあることではないか? 問題はバランスである。
韓国、北朝鮮、中華人民共和国などは、「内弁慶」が前面に出ているように見える。
それに比べると、日本の右派言論人に「内弁慶」のところがあるとしても、はるかに抑えられている。
5年10年かけてどう治すというのか?
橋下徹氏
追記はここまで、と思っていると、橋下氏がまだ続けていた。
いまだに百田氏にこだわっている。「百田のオッサン」などとよんでいる。
橋下氏は誰に向かって物を言っているのか? 百田氏の言葉を気にする人だけに向かって物を言っているのか? すべての政治家、すべての国民に向かって物を言うつもりはないのか?
あいかわらず、橋下氏は説明すべきことを説明していない。
表で殴り合っても、裏ではつながっていなくてはならない、それが「政治の基本」だという。そこまではよい。
問題は、橋下氏がそのために二階氏のような政治家が必要だと言っていることである。
二階氏は現在多くの人に批判されている政治家である。橋下氏がわざわざ、そういう二階氏が必要だということを納得させるためには、それだけ二階氏が役に立つということを説明しなくてはならない。
ところが橋下氏は二階氏がどう役に立つというのか、全く説明しない。
それでは誰も納得するわけがない。
橋下氏は、二階氏と同じように、中華人民共和国に傾いているようにも見える。そのことに対する明確な反証はない。
橋下氏は、ただ言葉を弄しているようにも見える。何かうまいことを言って見せたかっただけのようにも見える。
具体的なことを考えていたのではなく、ただ表で殴り合っても裏でつながっていなくてはならないという「政治の基本」を言いたかっただけであったかもしれない。
そうだとすると、具体的なことを考えずに混乱を招いたことの責任があることになる。
そもそもテレビのような表の場で、表の戦略をどうするかを聞かれているのに、表の戦略をあいまいにして、裏のことばかり言うのがおかしい。裏のことが必要だと思うならば、裏で動いていればいいのではないか?
橋下氏自身、表のことと、裏のこととを区別するという「政治の基本」を行うことができなかったようである。
いまだに百田氏のことを「気にして」いる。
与党に対して、他の野党に対して、厳しいことを言う足立氏が、橋下氏に対してこのように甘いことを言っているところを見ると、痛ましい。
「いい意味でプロレスみたいなもの」というのも、橋下氏に媚びすぎではないか?
橋下氏の考えが、足立氏の言うことと一致しているとすると、橋下氏が余計な発言によって、余計な批判を大量に引き起こしたということになる。「いい意味」に解釈できるものではないのではないか?
橋下氏の考えが、足立氏の言うことと一致しているかどうか、橋下氏の返事を見ても、やはりわからない。橋下氏は、そのまず作る「体制」というものを、二階氏によって語っている。それでは、足立氏の言うことと一致しないのではないか?
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