岸田文雄首相が旧統一教会系団体トップと面会していたと報道されて、マスメディアからも、野党からも追及された。
しかしそもそも岸田首相が旧統一教会系団体トップと面会していたことに問題はない。
マスメディア、野党は問題のないことを問題としているのであるが、その問題のないことを問題としたのは、岸田首相自身であった。
岸田首相の自縄自縛という奇妙な事態が生じている。
発端
2023年12月4日、朝日新聞は「首相、旧統一教会系トップと面会」という記事を出した。
「岸田文雄首相が自民党政調会長だった2019年、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の友好団体のトップと自民党本部で面会していたと、複数の関係者が朝日新聞の取材に証言した。」というのである。
関係者によると、岸田氏は党政調会長だった19年10月4日、党本部で来日中のニュート・ギングリッチ元米下院議長らと面談した。この場に、教団の友好団体「天宙平和連合(UPF)ジャパン」のトップである梶栗正義議長が同席していたという。梶栗氏の父は教団の元会長で、梶栗氏は別の教団関連団体のトップも務める。UPFは教団創始者の故・文鮮明(ムンソンミョン)氏と妻で教団総裁の韓鶴子(ハンハクチャ)氏が創設した団体で、ギングリッチ氏はUPFの大規模な集会にたびたび出席し、講演もするなど関係が深い。
朝日新聞 「首相、旧統一教会系トップと面会」 19年に党本部で 関係者証言
天宙平和連合(UPF)ジャパン」のトップである梶栗正義氏と岸田首相が2019年に面会していたというのである。
追及
岸田首相はその「旧統一教会系トップと面会」したことについて、「記憶がない」と語った。
首相は「(自身で)点検をした結果、ギングリッチ氏が表敬を申し入れて、お会いした。その際に大勢の同行者がいたが、その一人一人については承知していない。これが私の認識だ」と述べ、教団関連団体の幹部と面会したという記憶がないと強調した。
朝日新聞 首相「大勢の同行者、承知していない」 旧統一教会系と面会証言巡り
5日の記事で朝日新聞は写真を出した。―岸田首相が元米下院議長のギングリッチ氏、UPFジャパンの梶栗正義議長、米国の旧統一教会元会長でUPFインターナショナル会長のマイケル・ジェンキンス氏とみられる3人が並んだ写真である。
その写真によると、岸田首相は「旧統一教会系トップと面会」したことを認識していたように見える。
しかし岸田首相は写真があっても認識は変わらないと答えた。
それに対して朝日新聞は、問題とされる面談は「UPFジャパンが手配した」というギングリッチ氏の言葉を報じた。
「UPFジャパンが手配した」面談であるにもかかわらず、岸田首相がそのことを認識していなかった、ということがあるであろうか?
岸田首相は当時そのことを認識していたにもかかわらず、認識していなかったと言い張っているのではないか?
そして岸田首相が認識していなかったと言い張っているにもかかわらず、朝日新聞の取材によって、岸田首相が認識していたことが、明らかになってきているのではないか?
朝日新聞は「袋小路」と言っている。
立憲民主党の泉健太代表もそのことで岸田首相を責めている。
問題はどこに?
岸田首相が追い詰められたようなかたちになっているが、そもそもその前に問題がある。
岸田首相が旧統一教会系トップと面会することの何が悪いのか、よくわからないということである。
2022年7月8日に安倍元首相殺害事件が起こってから、自民党議員と統一教会及びその関連団体の「接点」が問題とされた。しかし「接点」が何故に悪いのか、明らかにされていない。何を根拠として悪いというのか?
その流れを導いた紀藤正樹弁護士等の属する全国霊感商法対策弁護士連絡会は、安倍元首相殺害事件から間もない2022年7月12日に出した声明の中で、安倍元首相が2021年9月に天宙平和連合(UPF)にメッセージを送ったことを非難して、次のように語っている。
安倍元首相が、統一協会やそのダミー組織のひとつである天宙平和連合(UPF)などのイベントにメッセージを発信することを繰り返し、特に昨年9月12日の「神統一韓国のためのTHINK TANK2022希望前進大会」(UPFのWEB集会)でビデオメッセージを主催者に送り、その中で文鮮明教祖(2012年死去)の後継の教祖韓鶴子氏に「敬意を表します」と述べたことは、統一協会のために人生や家庭を崩壊あるいは崩壊の危機に追い込まれた人々にとってたいへんな衝撃でしたし、当会としても厳重な抗議をしてきたところです。
全国霊感商法対策弁護士連絡会 安倍晋三 元首相 銃撃事件に対する声明
政治家の皆様が政治的信念にもとづいて意見を述べ行動されることについて当会として異をはさむものではありません。
しかし、その献金勧誘行為や信者獲得手法について繰り返し違法である旨の判決が下されている統一協会やそのダミー組織の活動について支持するような行動は厳に慎んで頂きたいと改めて切実にお願いいたします。
これによると、安倍元首相のUPFとの「接点」の問題は、「統一協会のために人生や家庭を崩壊あるいは崩壊の危機に追い込まれた人々にとってたいへんな衝撃でした」ということにあるようである。
これでは「厳重な抗議をしてきた」根拠は理解しがたい。
その「接点」によってある人々が「人生や家庭を崩壊あるいは崩壊の危機に追い込まれた」という事情がある場合、その「接点」は止めさせなくてはならない。
しかしその「接点」が「統一協会のために人生や家庭を崩壊あるいは崩壊の危機に追い込まれた人々にとってたいへんな衝撃でした」という場合、その「接点」は止めさせなくてはならないことなのか? その「接点」とその「被害」との間にどういう関係があるのか? 安倍元首相のビデオメッセージと「被害」との間にどういう関係があるのか? 岸田首相とギングリッチ氏との面会と「被害」との間にどういう関係があるのか? 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、のような論法に見えるが、そうではないのか?
UPFは「国連経済社会理事会の総合協議資格(カテゴリー1)を有する国際NGO団体」である。
そういう団体に対して日本の政治家だけが、よくわからない理由によって関係を断絶しなくてはならないのか?
今度の岸田首相の場合でも、UPFはギングリッチ氏との面会を手配したと言われているが、そういうことはいけないことなのか?
安倍元首相がビデオメッセージを送ったUPFの大会には、世界中の有名な人が参加していた。当時この大会のことをひろめた鈴木エイト氏の「やや日刊カルト新聞」の記事では次のように書かれている。
潘基文第8代国際連合事務総長が開会を宣言、他にソウル特別市・釜山市などの市長、忠清南道知事などの知事、欧州委員会委員長、グロリア・アロヨ第14代フィリピン大統領、デーヴェー・ガウダ第11代インド首相、ナターシャ・ミチッチ元セルビア大統領、アンソニー・カルモナ第5代トリニダード・ドバコ大統領、フンセン カンボジア首相といった面々、そして安倍晋三とともに特筆すべき人物としてドナルド・トランプ前米大統領がリモート基調演説を行い韓鶴子に賛美の言葉を贈った。
やや日刊カルト新聞 2021年9月12日日曜日 速報!!安倍晋三前内閣総理大臣が統一教会系大規模イベントで演説、韓鶴子に敬意を表す
UPFはそのような人々をつなぐことをしているのである。そういう団体との接点を、被害者にとって「たいへんな衝撃」であったという、よくわからない理由によって断絶しなくてはならないのか?
岸田首相に対する朝日新聞の追及、立憲民主党の追及は、そういうおかしなことになっている。朝日新聞も立憲民主党もそれでいいのか?
ただしそのことは岸田首相自身によることでもある。
岸田首相の自縄自縛
岸田首相は2022年8月31日に記者会見で「旧統一教会について当該団体との関係を断つことを党の基本方針とし、所属国会議員に徹底すること」を宣言している。
岸田首相自身が統一教会との関係、「接点」を断つと宣言しているのである。追及する者は、岸田首相自身の言葉を根拠として追及することができるわけである。
岸田首相の言葉は次の通り。
まず、旧統一教会の問題です。我々政治家は、それぞれの政治活動において、可能な限り多くの方々と接し、その意見に耳を傾け、自分自身の考えも御理解いただく努力が不可欠です。また、信教の自由や政教分離は憲法上の重要な原則として最大限尊重されなければなりません。
令和4年8月31日岸田内閣総理大臣記者会見
しかしながら、政治活動には責任が伴います。宗教団体であっても、社会の構成員として関係法令を遵守しなければならないのは当然である一方、政治家側には、社会的に問題が指摘される団体との付き合いには厳格な慎重さが求められます。
私の政権における大臣、副大臣、政務官については、自ら当該団体との関係の点検を行うとともに、関係を絶つことの確約を得たところです。しかし、閣僚等を含め、自民党議員について、報道を通じ、当該団体と密接な関係を持っていたのではないか、国民の皆様から引き続き懸念や疑念の声を頂いております。
自民党総裁として率直におわびを申し上げます。
国民の皆様の疑念、懸念を重く受け止め、自民党総裁として茂木幹事長に対し、先週来、3点指示をいたしました。
第1に、党として説明責任を果たすため、所属国会議員を対象に当該団体との関係性を点検した結果を取りまとめて、それを公表すること。
第2に、所属国会議員は、過去を真摯に反省し、しがらみを捨て、当該団体との関係を絶つこと。これを党の基本方針として、関係を絶つよう所属国会議員に徹底すること。
第3に、今後、社会的に問題が指摘される団体と関係を持つことがないよう、党におけるコンプライアンスチェック体制を強化すること。
自民党として説明責任を果たし、国民の皆様の信頼を回復できるよう、厳正な対応を取ってまいります。
ここでも関係を絶つ根拠はよくわからない。
「宗教団体であっても、社会の構成員として関係法令を遵守しなければならないのは当然である一方、政治家側には、社会的に問題が指摘される団体との付き合いには厳格な慎重さが求められます。」のあたりであるが、
「関係法令を遵守」していないところがあれば関係を絶たなくてはならないのか?
「社会的に問題が指摘される団体」とはどういうことなのか?
よくわからない。
いずれにせよ、そもそも根拠の明らかでないことに、首相が根拠を与えてしまったのである。
反統一教会活動家も十分な根拠をもっていなかった。
たとえば鈴木エイト氏は次のように語っている。
岸田首相が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を「社会的に問題が指摘される団体」として関係の断絶を宣言したことが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対する解散命令請求の理由になるというのである。
逆に言うと、岸田氏が関係の断絶を宣言したことのほかに、鈴木エイト氏は根拠をもっていないということである。
反統一教会運動はそれまでその反統一教会運動の根拠を持っていなかったのである。
紀藤弁護士の所属する全国霊感商法対策弁護士連絡会とともに反統一教会運動を行っている日本脱カルト協会の理事・山口貴士弁護士は、岸田首相の関係断絶宣言の数日前、次のように語っていた。
その後に岸田首相が関係断絶宣言を行うに至った流れを、山口弁護士はその前に考えていたようである。
『統一協会がパブリックエネミーだという「空気」を形成』することによって「統一協会との関係について断ち切るということのできない政治家」を「淘汰」するというのであるが、実際にそういう「空気」が形成されて、その「空気」の中で岸田首相は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を「社会的に問題が指摘される団体」として、関係を断つと宣言するに至っている。
何ゆえに自縄自縛を続けるのか?
奇妙な事態である。
朝日新聞も立憲民主党も、根拠のよくわからないことによって岸田首相を追い詰めようとしている。
岸田首相も根拠のよくわからないことによって追い詰められたかのようなかたちになっている。
根拠になっているのは、岸田首相が自民党所属の国会議員と統一教会との関係を断つと宣言したことである。
岸田首相が「空気」によって出してしまったその関係断絶宣言を、間違っていたと認めて撤回して、法律を基準とすることにすれば、今度のような何が悪いのかよくわからない追及に対しても、苦しい言い訳ではなく、堂々とした反論をすることができるのである。
岸田首相は何故にそうしないのか?
朝日新聞、立憲民主党、首相という「上級国民」による茶番を見せられている気持ちになる。
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