「雨に唄えば」の明るさと「巴里のアメリカ人」の暗さ

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ジーン・ケリー
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 1951年に公開された映画「巴里のアメリカ人」。


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 1952年に公開された映画「雨に唄えば」。


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 いずれもアメリカのミュージカル映画の歴史の中で傑出した作品である。

 いずれもジーン・ケリーが主役であるが、「雨に唄えば」は明るく、「巴里のアメリカ人」は暗いところがある。

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「雨に唄えば」と「巴里のアメリカ人」の共通点

 「雨に唄えば」と「巴里のアメリカ人」は同じような構造を持っている。

・ジーン・ケリーの演ずる主人公は、第一の女性と仕事で深い関係になっている。(「雨に唄えば」では、映画の相手役リーナ。「巴里のアメリカ人」では、絵を売るために手伝うマイロ)

・その女性はジーン・ケリーの演ずる主人公に対して恋愛感情を持っている。

・ところがジーン・ケリーの演ずる主人公は、その第一の女性とは別の、その女性より若い女性に対して恋愛感情を抱く。(「雨に唄えば」では、女優志望のキャシー。「巴里のアメリカ人」では、化粧品店員リーズ)

「雨に唄えば」と「巴里のアメリカ人」の相違点

 次に「雨に唄えば」と「巴里のアメリカ人」とで違うところ。

第一の女性

 まず「第一の女性」が違う。

 「雨に唄えば」のリーナはドンに対して恋愛感情を見せるが、共感しがたい。

 リーナは、ドンが映画でリーナの相手役という地位を獲得してから、ドンに対して好意を示すようになった。それゆえに純粋な恋愛感情とは思えない。

 その上にリーナは権力によってキャシーを排除しようとした。

 「巴里のアメリカ人」のマイロのジェリーに対する恋愛感情は、それより共感される。

 マイロは自分の恋愛感情のために自分の地位を利用しない。

 それゆえに「雨に唄えば」で主人公がリーナを遠ざけても可哀想ではないが、「巴里のアメリカ人」で主人公がマイロを遠ざけることは可哀想である。

主人公の性格

 「雨に唄えば」では、観客は安心して主人公に共感することができる。

 「巴里のアメリカ人」では、観客はそれほど安心して主人公に共感することはできない。共感するにも痛みが伴う。

第一の女性との関係

 ドンはリーナから理不尽な損害を被っている。ドンがそれに対して反発することに、観客は共感する。

 ジェリーはマイロから理不尽な損害を被っておらず、逆に利益を受けている。それにもかかわらず、可哀想な目にあわせている。

第二の女性との関係

 「巴里のアメリカ人」のジェリーがリーズと仲良くなろうとするところは、やり方が強引であって、単純に共感できない。

 「雨に唄えば」のドンがキャシーと仲良くなるところにはそういうことはない。

 「巴里のアメリカ人」の脚本を担当したアラン・ジェイ・ラーナーは、ガーシュウィンの「パリのアメリカ人」の音楽をもとにして、ジェリーの性格を “impudent” (図々しい)ものにしたと語っている。

 たしかに「巴里のアメリカ人」の主人公ジェリーは図々しいところのある人物であって、無条件にいい人とは言えない。

 ただし「巴里のアメリカ人」で主人公が子供と仲良くしているところは、「雨に唄えば」にはない明るいところではある。

ヒロイン

 「雨に唄えば」で主人公の恋愛対象となるキャシーは、若々しく明るい。

 「巴里のアメリカ人」で主人公の恋愛対象となるリーズには、暗いところがある。

 「巴里のアメリカ人」のリーズには、ジェリーと出会う前に、特別な関係にある男性がいた。

 ジェリーとリーズがくっつくことは、その男性を傷つけることになる。(この設定は「カサブランカ」に似ている)

 「雨に唄えば」のキャシーにはそのようなことはない。

 「巴里のアメリカ人」のレスリー・キャロンはフランス人であって、アメリカ人からみるとミステリアスなところがあると思われる。

 「雨に唄えば」のデビー・レイノルズはアメリカ人であって、そういうところはない。

主人公の友人

 「雨に唄えば」で主人公の友人を演じたのはドナルド・オコナ―である。

 そのことも「雨に唄えば」という映画が明るくなっていることと関係があると思われる。

 「巴里のアメリカ人」で主人公の友人を演じたのはオスカー・レヴァントである。

 オスカー・レヴァントにはコミカルなところもあるが、暗いところもある。

 ドナルド・オコナ―はスラップスティックの明るさをもっていて、オスカー・レヴァントのような暗さはない。

 「雨に唄えば」の主人公の友人の役にはもともとオスカー・レヴァントが考えられていたようであるが、ドナルド・オコナ―になったことによって明るさが増したと思われる。

恋愛感情の違い

 「雨に唄えば」で最も有名なのは、ジーン・ケリーが雨の中「雨に唄えば」を歌い踊るところであろう。

 キャシーとの恋愛で高まった感情を、雨の中で歌い踊ることによって表現しているところは、映画スターであるにもかかわらず初めての恋愛を心から喜んでいるような若々しさがある。

 「巴里のアメリカ人」で最も有名なのは終盤のバレエであろう。

 ジェリーはリーズと結ばれることができなくなった。その気持ちがバレエで表現されている。

 「巴里のアメリカ人」の場合、結ばれないことによって傷つくが、結ばれても他の人を傷つけることになる。どちらに進んでも傷つくことになる。

 夜の雨の中でも明るい「雨に唄えば」と、色彩あふれる中で暗い「巴里のアメリカ人」。

ミュージカルの歴史に関して

 「巴里のアメリカ人」は、ジーン・ケリーが有名になった1940年のブロードウェイの舞台「パル・ジョイ」に通ずるところがあると思われる。

 ジーン・ケリーはもともと自己中心的なところのある人物を演じて有名になった人であった。

 「巴里のアメリカ人」もその流れにある。

 映画ではジーン・ケリーの明るいところが生かされた。「雨に唄えば」はその明るいところが生かされた作品である。

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