2022年2月下旬にロシアがウクライナに侵攻を始めた。
ウクライナは抵抗の姿勢を示した。様々な国でロシアに対する非難の声が挙がった。
その中で、日本では橋下徹氏の発言が物議をかもしている。
橋下氏の主張について考える
3月4日のグレゴリー・アンドリー氏の発言を取り上げた記事に対する橋下徹氏の発言をとりあげてみよう。
「感情抜きの冷厳な戦況・見通し分析」
橋下氏は「感情抜きの冷厳な戦況・見通し分析」をもとめている。
橋下氏によると、「日本でも西側諸国でも」、政治家や専門家は「国際秩序が重要!プーチンは許してはならない!」と「感情を爆発させるばかり」。
それに対して「感情抜きの冷厳な戦況・見通し分析」が重要だと主張しているようである。
「感情抜きの冷厳な戦況・見通し分析」の具体的内容
橋下氏が重要だという「感情抜きの冷厳な戦況・見通し分析」とは、具体的にはどういうことか?
上に引用したところでは「軍事力・兵器比較、今後の見通し、ロシアが瓦解するのはいつなのか、中国の支援があれば経済制裁はどうなるのか、今の経済制裁は中途半端ではないかなどの分析」と言っている。
また「ウクライナの獲得目標」が重要ともいう。
「太平洋戦争時の日本」を例として挙げて、「獲得目標抜きで抵抗できるところまで抵抗するの精神論」ではなく、「冷厳な分析と判断力、頭を下げる外交の知恵」がなくてはならないと語っている。
具体的には、「抵抗」か「住民避難」か「中国の外交的介入」かということのようである。
「逃げろ!」
橋下氏の主張は「逃げろ!」ということのようである。そして「戦え!」というアンドリー氏に反対している。
橋下氏は、ウクライナが抵抗しても、ロシアをやっつけることはできないという「分析」をもとに、ウクライナの国民を国外に避難させて、西側諸国がロシアを倒すべきだ、と考えているようである。
橋下氏の主張の気になるところ
橋下氏の主張には色々と気になるところがある。
誰と戦っているのか?
第一に、橋下氏の主張は相手のグレンコ・アンドリー氏の主張とかみ合っていないようである。
グレンコ・アンドリー氏は次のように語っている。
「ただ現時点で少なくとも食い止められているし、またロシアに対する世界の目が厳しいわけですから、どんどんロシアに対する制裁が強くなっていく一方、その状態でロシアを疲弊させるチャンスでもあるんですね。逆にウクライナはこの時点で降伏したら、世界が今実施した制裁は残るんでしょうけど、これ以上のさらなる措置を実施する動きも鈍ってくる可能性があるんですね。それは最終的に、ロシアはこういう野蛮な侵略戦争を起こしても代償を支払わないということにもつながるんですね。なので、まだ食い止められるうちは戦おうという判断なので、誰も国民の総玉砕を目指しているわけではありません。このあたりはご理解いただきたいです」
スポニチANNEX ウクライナ出身の政治学者アンドリー氏 橋下氏との討論振り返り「誤解のないように言っときますけど…」
このようにアンドリー氏は「国民の総玉砕」を目指しているのではなく、「まだ食い止められるうちは戦おうという判断」をしていると語っている。
そういうアンドリー氏の主張を橋下氏が「抵抗」一辺倒とみなして、それに対して「感情抜きの冷厳な戦況・見通し分析」を主張することは的はずれである。
アンドリー氏は「感情抜きの冷厳な戦況・見通し分析」をしている。
橋下氏は「日本でも西側諸国でも」、政治家や専門家は「国際秩序が重要!プーチンは許してはならない!」と「感情を爆発させるばかり」と語っている。
中にはそういう人もいるかもしれないが、「感情抜きの冷厳な戦況・見通し分析」をしている人も少なくないのではないか?
橋下氏は頭の中で勝手に敵を作り上げてその敵と戦っているように見える。
そのことによって余計な対立を引き起こしているように見える。
流動する現在
橋下氏の「感情抜きの冷厳な戦況・見通し分析」とは、ウクライナが抵抗してもロシアをやっつけることはできないということのようである。
そういう分析をもとにして、ウクライナの国民は国外に避難することを主張しているようである。
しかしその前に、アンドリー氏が言うように、流動する現在があるのではないか?
現に、ロシアが侵攻を始めた時に考えられていたのと比べて、ウクライナが踏みこたえているということもある。
流動する現在から考えなくてはならないのではないか?
橋下氏は、その流動する現在を否定しているのではないか?
橋下氏によると、答えはわかっているのに、他の政治家、専門家はわかっていないかのようである。
実際には、答えはわかっていないのではないか?
リアリズム
橋下氏は、リアリズムを主張しているように見える。
しかし流動する現在を否定するのではリアリズムに反することにならないか?
そもそも橋下氏がリアリズムをとるのであれば、自分の主張が現実に行われるようにすべきではないか?
日本国内の多くの人を説得できず、逆に多くの人に反発されている現状は、橋下氏自身にリアリズムが欠けていることを現わすことではないか?
ウクライナの主体性
橋下氏の頭の中では、ロシアに対して戦うというウクライナ国民の主体性がなくなっているようである。
「太平洋戦争時の日本」
橋下氏は「太平洋戦争時の日本」を例としてウクライナの「抵抗」に反対している。
たしかに当時の日本では「勇ましいこと」を言って「感情抜きの冷厳な戦況・見通し分析」をおろそかにするところがあったが、それだけではない。
抵抗せずに降伏することは必ずしもいいことばかりではない。
日本は降伏していいこともあったが、悪いこともあった。
有馬哲夫氏はそのことについて論じている。それに対してまた橋下氏は反論している↓
橋下氏は、本来の当事者はNATOであるのに、ウクライナを犠牲にしているとみている。そしてそのことを問題としている。
NATOにも責任があるとか、NATOはもっと努力すべきだとかいうことはできるかもしれない。
しかしロシアとウクライナの戦争で、ウクライナが主体的にロシアと戦っているのに、ウクライナはNATOの犠牲になっているから、NATOとロシアで政治的妥結をはかるべきだというのは、それこそウクライナの主体性を無視しているのではないか?
いきすぎ
池田信夫氏に対する下のような橋下氏のツイートなど、意味がわからない。
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