台湾の李登輝元総統の20年前の予想と、20年後の現状

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 2020年7月30日、日本時間の午後8時すぎ(台湾時間の午後7時すぎ)、李登輝元総統が台北市内の病院で亡くなった。97歳。

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李登輝元総統の予言

 李登輝元総統は、1999年に出版した著書「台湾の主張」(PHP研究所、1999年)において、「大陸の二十年後を見据える」という見出しで、中華人民共和国の20年後について予想している。

 1999年は、李登輝元総統が亡くなる20年前である。その時にそれから20年後のことを予想していたのである。

アメリカなどの予測では、大陸はこれから二十年をかけてこの矛盾と対決し、やがては活路を見出すことになっている。しかし、それは可能だろうか。

「台湾の主張」113頁

 1999年において、アメリカは、中華人民共和国は二十年でよくなるだろうと考えていた。

 それに対して李登輝元総統は疑問を持っていた。

 海峡のこちら側からみれば、その転換はきわめて困難なもののように思われる。アメリカは二十年と踏んでいるが、このままではそれ以上の年月が必要であろう。そして転換したからといって、すべてがうまくいくわけでないことは、この十年あまりのロシアの例をみれば明らかなのである。

「台湾の主張」114頁

 李登輝元総統のみるところによると、20年では中華人民共和国は当時アメリカが考えたようによくならないであろうというのである。そのことを「この十年あまりのロシア」、すなわちソ連崩壊後のロシアを例として語っている。

 中華人民共和国は、経済においては変わったが、政治においては変わっていない、その「基本的矛盾を解消しない限り」混乱が生ずる、と李登輝元総統はいう。(「台湾の主張」、113頁)

 大陸は経済的な生産は上昇しているが、政治的にはいまだに中国共産党の一党独裁体制に支配されている地域であることは変わっていない。少数者の権威主義的かつ独裁的な支配は続いている。そしてまた、中国共産党がその体質を根本的に改革したというわけでは決してない。

「台湾の主張」113頁

 このように「少数者の権威主義的かつ独裁的な支配」という「体質」が続いていることに問題はあると考えていた。

 1999年に李登輝元総統が20年後の中華人民共和国について上のような予想を語ってから、20年後の2020年に李登輝元総統は亡くなった。その時に、20年前の李登輝元総統の予想は当たっていたであろうか?

 その問題に対して、アメリカのポンペオ国務長官が一つの答えを出している。

U.S. Department of State
Communist China and the Free World’s Future: Secretary Pompeo at the Nixon Presidential Library 2020/07/24

 ポンペオ国務長官は、李登輝元総統の亡くなった2020年7月に、ニクソン大統領図書館で画期的な演説を行った。

 アメリカはこれまで中華人民共和国が自由な民主的な国になることを期待して見守ってきたが、中華人民和共和国は変わることなく専制的な国である、アメリカのこれまでの中華人民和共和国に対するやり方は間違えていた、と語ったのである。

 ニクソン大統領以来のアメリカの対中政策は間違っていた、とニクソン大統領図書館で語ったのである。

 李登輝元総統は20年前に、20年後の中華人民共和国についてアメリカが予想していたことに反対していた。その20年後に、アメリカの国務長官がアメリカのこれまでの対中政策は間違っていたと語ったのである。

 ポンペオ国務長官は、李登輝元総統逝去の報を受けて、次のようにツイートしている。

 ポンペオ国務長官は、李登輝元総統を、台湾と米国との関係のもとになる民主的価値のためにはたらいた人として敬意を払っている。

 蔡英文総統の返事。

蔡英文総統

 現在の台湾の総統蔡英文氏は、李登輝元総統の思想を受け継ぐ人である。

アイデンティティにもとづく民主主義

 蔡英文総統は、李登輝元総統を、台湾の自主的な民主主義の創設者として、その死を悼んでいる。

 李登輝元総統は、アイデンティティにもとづく民主主義を創設した、と蔡英文総統は言う。

 李登輝元総統は、「台湾の主張」において、アイデンティティにもとづく民主主義ということについて語っていた。―「台湾に住む人たちがすべて参加して」、「参加の中から生み出される、「われわれは台湾人だ」というアイデンティティを基礎にして育つ」という「民主主義文化」を、李登輝元総統は台湾に打ち立てようとしたというのである。(「台湾の主張」、58頁)

 李登輝元総統は、その前の蒋経国総統とは、「台湾のアイデンティティということを考える場合には、決定的に異なっていた」という。(同、49頁)

 李登輝元総統は、「台湾にアイデンティティをもつ政治」、すなわち「台湾を非常に愛し、そして台湾のために粉骨砕身、大いに奮闘する」政治がなくてはならないと考えたが、蒋経国総統は「台湾人のための政治とはなにかを考えたことはなかっただろう」という。(同、49頁)

 李登輝元総統も、自分が台湾にはじめてアイデンティティにもとづく民主主義をもたらしたと考えていたのである。

「台湾に生まれた幸福」

 蔡英文総統は同時に日本語でもツイートしている。

 蔡英文総統は、李登輝元総統を、日本と台湾との関係において重要な存在と考えているようである。

 蔡英文総統はそこで「李元総統の遺志を継ぎ「台湾に生まれた幸福」を追求し続けます」と語っている。どういうことか。

 李登輝元総統は「台湾の主張」第八章「二十一世紀の台湾」の最後に「李登輝がいなくなった台湾」について語っている。

 私は、本書の冒頭より「台湾人に生まれた悲哀」から「台湾人に生まれた幸福」へと話を進めてきた。私は台湾に生まれたがゆえに、この地を舞台としてこの数十年のあいだ必死の努力を続けてきた。その結果、もしこのハンティントン教授のいうことが正しければ、私がいなくなった後も、私の努力はこの美しい台湾に残り、限りない発展を続けていくだろう。
 これもまた、私にとっての「台湾人に生まれた幸福」に他ならないのである。

「台湾の主張」(PHP出版社、1999年)223頁

 李登輝元総統は「台湾の主張」を「台湾人に生まれた悲哀」ということから始めている。「台湾人に生まれた悲哀」とは、「台湾人は長いあいだ、自分たちの国を自分たちで治めることができなかった」ことである。(「台湾の主張」、16頁)

 「必死の努力」によって、李登輝元総統は、「台湾人に生まれた幸福」を感ずることができるまでに至った。

 そしてアメリカの国際政治学者ハンティントン教授が「台湾のデモクラシーは、李登輝が死んでも継続するだろう」と言ったことは「かなり本質を衝いた洞察だ」というのである。(同、222~223頁)

 蔡英文総統は、その李登輝元総統が望んだように、「李登輝がいなくなった台湾」において、デモクラシーを継続させていくというわけである。

葬式

 李登輝元総統は、民主台湾を永遠に見守る存在としてまつられる。

他の国の反応

 李登輝元総統の逝去に対する各国の反応に、2020年の情勢があらわれている。

日本

 李登輝元総統逝去の報を受けて、日本では安倍首相が痛惜の念をのべた。

 安倍首相は、第一に、李登輝元総統が、日台関係の礎を築いたという。

 第二に、台湾に、自由と民主主義、人権、普遍的な価値を築いたという。

 その「普遍的な価値」が安倍首相の外交を基準である。

 蔡英文総統の返事。

 蔡英文総統も「自由と民主の理念」による協同を言う。

香港

 香港の民主派、Joshua Wong氏も李登輝元総統の逝去をかなしんでいる。

 李登輝元総統は、台湾の民主主義の父であって、その精神は、現在の香港のJoshua Wong氏等民主派の運動に生きているというのである。

 香港の民主派の運動と、李登輝元総統が築いた台湾の民主主義とはつながっているというのである。

 この日に、Joshua Wong氏は、9月の選挙に立候補する資格を取り消されている。

 中華人民共和国側はそのことについて次のように言っている。

 7月31日、香港政府は、新型コロナウイルスを理由として、選挙を一年延期すると発表した。

中華人民共和国

 中華人民共和国の「國台辦」は、李登輝元総統の逝去に際して、台湾の独立は間違った道であって、台湾は中華人民共和国と統一されなくてはならないと語っている。誰もその道を阻むことはできないと語っている。

 環球時報Global Times。

 李登輝元総統は、中国人民の統一に反対した罪人だという。

 ここでも、李登輝元総統の民主主義が、台湾と大陸とを分断するものであったことを非難している。

独立について

 李登輝元総統は1999年の著書「台湾の主張」においても、中華人民和共和国から台湾を独立させようとする者として非難されたと語っている。

大陸の当局はいまだに闘争的な態度を崩さず、自分たちの考える「一つの中国」に固執して、この枠組みに編入せしめるか、あるいは台湾が独立を強行しようとしているという根も葉もないキャンペーンを展開する。

「台湾の主張」117頁

 中華人民共和国によると、中華人民共和国の考える「一つの中国」に台湾がくみさないということは、独立を強行しようとしているということになる、というのである。

 李登輝元総統も、中国の統一、「一つの中国」を求めていた。しかし中華人民共和国の「一つの中国」には反対していた。

 李登輝元総統は、1997年7月12日の「国家統一委員会」の開幕談話で次のように語っていた。

中国は統一されなければならないが、統一には全中国人の利益を考慮したものでなければならず、同時に世界の潮流である民主・自由・均富の制度に合致したものであって、すでに実践の過程において失敗が証明されている共産制度、あるいはいわゆる『一国二制度』によるものであってはならないと考える。

「台湾の主張」118頁

 統一は、共産制度によってでも、共産制度を上においた「一国二制度」によってでもなく、民主・自由・均富の制度によってでなくてはならないというのである。

 李登輝元総統は、両国が互いに尊重しあって、民主、自由の制度によって、統一されるべきだと主張していた。

 それに対して中華人民共和国は、両国が互いに尊重しあうことも、民主、自由の制度をとることも認めず、中華人民共和国の考えるやり方を一方的に台湾におしつけようとした。そしてそのことに同意しない李登輝元総統を非難した。

 今度の中華人民共和国の「國台辦」の言葉でも、台湾の自由な意思を尊重する考えは見えず、あくまでも中華人民共和国が一方的に統一をおしつけているようである。「環球時報」も同じである。

チベット

 ダライラマ。

 蔡英文総統の返事。

まとめ

 今、世界は、米国をはじめとして、自由、民主の価値観によって協同して中華人民共和国に対抗しようとする国々と、中華人民共和国の側につく国々とが対立する流れにある。

 その対立の中で、自由、民主の価値観によって協同しようとする国々、人々は、李登輝元総統を、その価値観を台湾で築いた人として讃えている。

 それに対して中華人民共和国の側の国々、人々は、李登輝元総統を、中華人民共和国との統一に反対する主張のもとになったものとして非難している。

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