2022年7月8日、安倍晋三元首相が銃撃されて、死亡した。
その後にマスメディアの論調は奇妙に変化した。
いつの間にか、マスメディアは、
・容疑者が恨んでいたという統一教会・家庭連合を追及し
・容疑者が問題としていたという、安倍氏と統一教会・家庭連合とつながり、その他の自民党議員と統一教会・家庭連合とのつながりを追及した。
その追及は何か月も続いた。
多くの人の目の前で殺人が行われたにもかかわらず、その行為は問題とされずに、殺された安倍氏と、容疑者が恨んでいたという統一教会・家庭連合が悪者とされたのである。
世の中がひっくり返ったようである。
どうしてそういうことが起こったのか?
容疑者の母親が統一教会に1億円献金して20年前に破産したという報道で、高額の献金をさせる統一教会に対して多くの人が疑問をもったことは事実であろう。
しかしそれから20年後、統一教会から離れ、母親とも離れて41歳になっていた容疑者が、統一教会を恨んで人を殺したことは、理解しがたいことである。安倍氏を殺したことはさらに理解しがたいことである。それにもかかわらず、報道はその方向へ進まなかった。
統一教会・家庭連合をよく知る人としてテレビに出てきた紀藤正樹弁護士、鈴木エイト氏等が、話を統一教会・家庭連合に向けていった。そして統一教会・家庭連合と自民党議員とのつながりに向けていったのである。
紀藤正樹弁護士の考え
紀藤正樹弁護士の考えは、事件から間もない7月11日のツイートにすでに出来上がっている。
このツイートにおいて紀藤氏は、
・事件は「統一教会の反社会性」が「暴発してしまった」もの
・安倍氏は統一教会に対してすべきことしなかったゆえに殺害された
と語っている。
事件は「統一教会の反社会性」が「暴発してしまった」ものであるとすると、問題は容疑者の行為ではなく、統一教会・家庭連合にあるということになる。
安倍氏は統一教会に対してすべきことしなかったゆえに殺害されたとすると、容疑者より安倍氏が批判されるべきだということになる。
その後マスメディアはその方向で進んだ。
しかし以上の紀藤氏の主張はおかしい。
「統一教会の反社会性」が「暴発してしまった」?
第一に、事件は、容疑者の「反社会性」が「暴発してしまった」ものである。
それを「統一教会の反社会性」が「暴発してしまった」ものと紀藤氏が何故にきめつけることができるのか、理解に苦しむ。
容疑者が2022年にどうして安倍氏を殺すことを決意したのか、いまだに明らかになっていない。
紀藤氏は何故に、いまだに明らかになっていない容疑者の考えをきめつけることができるのか?
安倍氏の自業自得?
「安倍元首相がせめて統一教会問題に目を向け距離をとってもらえばこの事件はおきなかった」という紀藤氏の言葉も理解に苦しむ。
何故に容疑者の行動を予測することができるのか?
弁護士連絡会の7月12日の声明
紀藤氏が加わっている全国霊感商法対策弁護士連絡会が7月12日に出した「安倍晋三元首相 銃撃事件に対する声明」も重要である。
紀藤氏自らツイッターで紹介している。
全国弁連の声明↓
この「安倍晋三元首相銃撃事件に対する声明」もおかしい。
声明は、1で被疑者の行為を「決して許されない」こととして、安倍氏の冥福を祈っている。
それはいいのであるが、声明全体の中では、そのことは軽い前置きにしか見えない。
弁護士連絡会が重視しているのは明らかに1ではなく、その後の2、3である。
2では「山上被疑者の苦悩や教会に対する憤りも理解できます」と言い、「家庭を崩壊させる統一協会の活動について行政も政権を担う党の政治家もこの30年以上何も手を打ってきませんでした。」と政治家の不作為を責めている。
殺人事件を起こした容疑者より、統一教会、そして統一教会に対して不作為であったという政治家を問題としているのである。
容疑者の「憤り」が必ずしも明らかになっていないのに「理解できます」と言っていることは、理解しがたい。
3では安倍氏が「昨年9月12日の「神統一韓国のためのTHINK TANK2022希望前進大会」(UPFのWEB集会)でビデオメッセージを主催者に送り、その中で文鮮明教祖(2012年死去)の後継の教祖韓鶴子氏に「敬意を表します」と述べたこと」を取り上げて、「その献金勧誘行為や信者獲得手法について繰り返し違法である旨の判決が下されている統一協会やそのダミー組織の活動について支持するような行動は厳に慎んで頂きたいと改めて切実にお願いいたします。」と述べている。
殺された安倍氏のビデオメッセージを重い問題としている。
殺人事件の直後に、被害者に問題があったということはおかしくないか?
しかもその「ビデオメッセージ」は、殺人行為と比べて釣り合うような問題とは思えない。その「ビデオメッセージ」ゆえに安倍氏は殺されてもしかたがないなどということは成り立たない。
鈴木エイト氏
鈴木エイト氏は、統一教会・家庭連合と自民党議員との関係を問題として追及して、今度の事件で有名になった人である。
紀藤氏等と同じ考えのようで、統一教会と政治家との関係について、先に立って進めていたようである。
事件が起こった次の日に、鈴木エイト氏は早くも問題を容疑者から統一教会にすり替え、政治家との「不適切な関係」にすり替えている。
・「反社会的カルト団体と指摘される教団を巡るトラブル」→問題は「反社会的カルト団体」にあるとされる。
・「当該団体と不適切な関係にあった安倍元首相」→問題は安倍氏にあるとされる。
鈴木エイト氏も、全国弁連と同じように、容疑者の行為は絶対に許されるものではないと言っている。
しかし全国弁連と同じように、その言葉は軽く響く。
全国弁連と同じように鈴木エイト氏は、問題をすり替えて、容疑者を問題とするより、統一教会を問題とし、統一教会と政治家との関係を問題としているからである。
政治家と統一教会との関係、特に安倍氏と統一教会との関係については、鈴木エイト氏が7月12日に次のように豪語していたことが多くの人の心をひきつけた。
「統一教会と安倍元首相のズブズブの関係を明確な論拠で語ることができるのは私以外にいません」!
鈴木エイト氏はその「明確な論拠」を持っていると多くの人が思った。
ところが何カ月たってもその「明確な論拠」は出てこない。
ハッタリによって多くの人の心をひきつける手法(マインド・コントロール?)をとったようである。
安倍氏が2021年9月に統一教会の関連団体UPFの集会にビデオメッセージを送ったことは、容疑者の供述として出ていた。
しかしそのUPFの集会というのも、安倍氏、トランプ前米大統領、潘基文第8代国際連合事務総長のほか、次のような人が出ていたというものである。
ソウル特別市・釜山市などの市長、忠清南道知事などの知事、欧州委員会委員長、グロリア・アロヨ第14代フィリピン大統領、デーヴェー・ガウダ第11代インド首相、ナターシャ・ミチッチ元セルビア大統領、アンソニー・カルモナ第5代トリニダード・ドバコ大統領、フンセン カンボジア首相
やや日刊カルト新聞 速報!!安倍晋三前内閣総理大臣が統一教会系大規模イベントで演説、韓鶴子に敬意を表す
安倍氏がこういう集会にビデオメッセージを送ったことは、統一教会に利益を与えたというより、トランプ氏や潘基文氏が参加する国際的な会議に参加したとみるのが自然ではないか?
「やや日刊カルト新聞」では安倍氏が韓鶴子総裁に敬意を表したことを取り上げて「教団最高権力者・韓鶴子に阿る基調演説を行った」と語っているが、演説のはじめに主催者に挨拶をしただけであって、演説の中心はその後にある。
安倍氏のビデオメッセージによってどういう被害があったのかもよくわからない。
自民党は比較的に統一教会・家庭連合と「接点」が多かったにちがいない。
しかし自民党が統一教会・家庭連合を特別扱いした証拠はない。
オウム真理教の事件があった1995年から安倍氏の事件があった2022年まで、安倍政権のほかに、社会党政権、安倍政権出ない自民党政権、民主党政権の時期もあった。
その中で安倍政権の時、また自民党政権の時にに特に被害が増えたということもないようである。
2012年に出版された「村山富市回顧録」では、オウム真理教、創価学会のことは取り上げられているが、統一教会のことは取り上げられていない。

村山富市回顧録 (岩波現代文庫)
1995年にも2012年にもそれほど問題と思っていなかったのではないか?
統一教会が自民党を支配していたなどというのは、トランプ前米大統領の支持者の陰謀論以上に荒唐無稽な陰謀論である。
そういう陰謀論がマスメディアで言われるという恐ろしいことが起こっている。
鈴木エイト氏は、7月12日に古市氏が安倍氏と統一教会との関係を陰謀論扱いすることに反対しているが、そういう鈴木エイト氏の主張はまさに陰謀論ではないか。
江川紹子氏
次に江川紹子氏をとりあげる。
7月17日に紀藤氏は、江川紹子氏の発言に同意している。
江川氏はTV番組で「今回の事件で、社会的に問題のある団体と政治家との関係は見直さなければいけないということがいえる」と語った。
紀藤氏はその動画を引用して、「安倍元首相銃撃事件をきっかけに、民主主義を目指す政治において「政治と金」の問題だけでなく「政治と人」の問題にもメスを入れていかないといけない問題である」と語っている。
そしてそのことに「気付いていない、あるいは理解していない」人を批判している。
ここは興味深いところで、このあたりから紀藤氏、江川氏のように「今回の事件で、社会的に問題のある団体と政治家との関係は見直さなければいけない」という主張が、その他の主張を抑えて力を持つようになっていくのである。
有田芳生氏
そして有田芳生氏。
7月18日に統一教会本体への捜査がなされなかったことは「政治の力」によると聞いたと語った。
紀藤氏はそれを引用してそのことが安倍氏の銃撃につながったと語っている。
このあたりから、統一教会は本来は解散されるべきであるにもかかわらず、自民党の政治家によって不当に擁護されていたというような主張が盛んになった。
ここでは必ずしも自民党と言われていない。
オウムの事件から2022年までには、社会党政権も、民主党政権もあった。その中で自民党によって被害が拡大したという証拠はない。
ところがなぜか自民党の議員ばかりが非難された。
統一教会と政治家との関係ということで、第一に追及されるべきは有田芳生氏ではないかと思われる。
有田氏は安倍氏の事件後、紀藤氏等とともに統一教会の専門家として、統一教会がいかに悪いものか力説している。
しかし有田氏は2022年の参議院選挙で落選するまで国会議員であった。その間に統一教会に対して何をしたのか?
第一に追及しなくてはならないはずである。
四人組
紀藤正樹氏、有田芳生氏、江川紹子氏は、1990年代にオウム真理教が事件を起こした時にさかんにテレビに出てきて有名になった人である。
その3人が2022年に統一教会をめぐってテレビに出てきたことは興味深いことである。
皆申し合わせたかのように同じことを言っていることも、興味深い。
その動きは共産党と一致するものでもあった。
志位氏は共産党の「統一教会との最終戦争」であることを認めている。
自民党と統一教会との関係という鈴木エイト氏のハッタリに追随するより、現在日本を動かしているこちらの動きを追及すべきではないか?
政治的影響
安倍氏は死亡する前、左翼の人に事あるごとに攻撃されていた。
しかし安倍氏が死亡した直後には、安倍氏に対する攻撃は少なくなっていた。
それまで安倍氏を攻撃していた人の影響を受けて事件が起こったということで、批判されていた。
ところが統一教会に対する恨みで殺されたとされ、紀藤氏等によって統一教会が悪の元凶とされ、安倍氏はその統一教会と「ズブズブ」であったとされた。
それまで安倍氏を攻撃していた人は、統一教会との関係で安倍氏を攻撃することができるようになったわけである。
また右寄りの人でも、統一教会は韓国の宗教であって、日本人の高額な献金が韓国に送られているということで、統一教会を非難し、自民党議員と統一教会との関係を非難する人も出てきた。
また、8月31日に、岸田首相はマスメディアの連日の攻撃に答えるというかたちで、統一教会との関係を絶つというに至った。
「統一教会の反社会性」
紀藤氏等は、「統一教会の反社会性」を第一の問題とする。
そのためには安倍氏を殺した行為さえ、放置していいかのようである。
ところが具体的に現在どのような「反社会性」があるのか、よくわからない。
たとえば霊感商法の問題。
紀藤氏は著書「マインド・コントロール」第2章で霊感商法を取り上げて、「日本で霊感商法の問題を引き起こしているのは、金額ベースでは統一教会の被害が最大だと考えて差し支えありません」などと語っている。

決定版 マインド・コントロール
しかし紀藤氏も認めているように、統一教会の霊感商法の被害額はその後減っている。
紀藤氏自らとりあげる消費者庁「旧統一教会に関する消費生活相談の状況について」↓
こういう状況では、統一教会の霊感商法を特に問題とする必要はないのではないか?
鈴木エイト氏が2009年のコンプライアンス宣言後の霊感商法の例として7万円の印鑑を持ち出して、さわやかな笑いを巻き起こしたこともあった。
まとめ
紀藤氏は7月15日には次のようなことを言っていた。「犯罪被害者が浮かばれない事件にしてはいけない」「加害者側の動機も解明されないと次の予防にもつながらない」「議論の場をテレビ局でも作ってもらいたい」
実際には紀藤氏等が統一教会・家庭連合を「加害者」ときめつけたことによって、その「被害者」に焦点が当てられて、「犯罪被害者」である安倍晋三元首相が浮かばれない状況が作られている。
安倍氏を銃撃した容疑者も「被害者」の代表であるかのように扱われて、テロに対する予防に反する状況が作られている。
紀藤氏等が、統一教会・家庭連合を「加害者」ときめつけたことによって、罪を犯していない統一教会・家庭連合の信者、二世が差別される状況が作られている。
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