「犯人の思う壺」? 安倍元首相銃撃事件以後の世の中の動きについての考察 ①犯人の思い

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 安倍晋三元首相が銃撃され、死亡した後の日本の社会・政治は、犯人の望みを叶える方向に動いているのではないか? 「犯人の思う壺」になっているのではないか?

 その問題について、詳しく考えてみる。

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 「犯人の思う壺」というのは、犯人の思う通りになることである。

 犯人の望みを叶えるというのは、犯人の望む通りになることである。

 まず「犯人の望み」ということについて考える。

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山上被告の望み

 安倍晋三元首相を銃撃した山上徹也という人物の望みは、必ずしも明らかにされていない。

 そのことに関する言葉はあるが、その言葉によっては必ずしも明らかにされていない。

 その問題に関して、内田樹氏が下の対談で言及している。

 内田氏の語ることによりつつ考えてみよう。

形式

 まず形式。

 内田樹氏が対談で語るように、

 山上被告の言葉の出し方は「自分の行動の意味を第三者の解釈に委ねる」かたちになっている。

 これは「自分の政治的主張を周知する」ことを目的とする伝統的なテロリズムとは異なるかたちである。

供述

 事件の後、供述が報道された。

 山上被告が語ったことが伝えられたのであるが、そのことは、警察、報道機関を通して世に伝えられた。

 警察とか報道機関に委ねるかたちである。

手紙

 7月17日、山上被告が事件の前にジャーナリストの米本和弘氏に送った手紙が報道された。

 この手紙は、山上被告が自分の考えをそのまま現わしたものということができる。

 しかし山上被告はこの手紙を米本氏に送っている。―直接世に訴えているのではなく、米本氏に委ねているのである。

 米本氏は7月13日に気づいたといわれている。

 差出人名を記さず、氏名住所の書かれた合意書のコピーを同封したと伝えられているが、そのことも相手に委ねているようである。

ツイッターアカウント、書き込み

 山上被告のものとされるツイッターアカウントのツイート、米本氏のブログへの書き込みも見出された。

 しかしいずれも山上被告が事件を起こした自分の主張を明らかにするものとして世の中に訴えた言葉ではない。

内容

 次に内容。

 山上被告が語った言葉では、犯行の理由は必ずしも明らかにされていない。

 内田氏が語るように「自分自身の言葉で「私はこういう理由でこの行為に至った」という開示をしていない」。

供述

 まず、報道された山上被告の供述では、山上被告が何故に犯行を決意したのか、よくわからない。

 山上被告は事件後、警察に次のように語ったとされている。

 「安倍元首相ではなく、統一教会のトップ、韓鶴子(ハンハクチャ)総裁を撃ちたかった。でも、コロナで日本に来ないので、統一教会と深い関わりのある安倍元首相を撃ちました」

 弁解録取書が作成されたのは、銃撃からわずか30分後。警察はこの時点で、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への恨みから安倍元首相を襲ったという犯行動機を把握したのだった。

 さらにその日の夕方までの取り調べで、山上容疑者は安倍元首相との「深い関わり」についても詳しく説明していく。「もともと統一教会を日本に引き込んだのは、岸信介元首相だ。ただ、すでに死んでいるので、その孫の安倍元首相を狙った」。教団友好団体のイベントに安倍元首相がビデオメッセージを送ったことも知っていたという。

朝日新聞 銃撃直後に語っていた「深い関係」 教団名を伏せ続けた警察の内幕

 このような言葉では犯行の理由は理解できず、逆に様々な疑問が生ずる。

統一教会への恨み

 第一に、犯行動機は「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への恨み」にあるというところ。

 朝日新聞の記事には次のように書かれている。

教団を恨む原因は、教団の信者になった母親の高額献金で一家の生活が苦しくなったことだった。こうした供述は一貫し、ぶれることがなかった。

朝日新聞 銃撃直後に語っていた「深い関係」 教団名を伏せ続けた警察の内幕

 しかし「教団の信者になった母親の高額献金で一家の生活が苦しくなった」ということは、事件の20年前のことである。

 20年前のことを理由として事件を起こしたということは、理解に苦しむことである。

山上容疑者にとっては忘れられないことなのだろうが、20年もたってから旧統一教会との関係を理由に安倍氏を銃撃するとは何とも理解に苦しむ。

東スポ 安倍元首相銃撃の山上容疑者の背後に2つの〝反アベ団体〟か 捜査当局が重大関心

 長い年月をかけた敵討ちの話は古今東西にあるが、いずれも意思はあるのに機会を得るまでに時間がかかった場合である。

 山上被告の場合、20年の間機会が得られなかったとか、20年後にはじめて機会を得たとかいう話は伝えられていない。

 山上被告は、韓鶴子総裁を撃ちたかったが「コロナで日本に来ないので」安倍氏を撃ったと語ったと伝えられている。「コロナ」は2020年からで、「コロナで日本に来ないので」韓総裁を撃つ機会が失われたということは、その犯行の意思は2020年前後からでなくてはならない。

 相手が変わっているのではないか? ということも問題となる。

 20年前の母親の献金に関する統一教会に対する恨みは、20年前の母親の献金に関わった人に対するものである。20年後の統一教会では中の人が変わっているのではないか?

 恨みを韓鶴子総裁に向けることにも疑問がある。 安倍元首相に向けてることにはさらに疑問がある。

 20年の間に母親の献金の返金が行われていることも問題になる。―山上被告の母親は、20年前に破産した後に統一教会から5000万円の返金を受けている。山上被告自身も署名している。

 返金によって「母親の高額献金で一家の生活が苦しくなった」という状況は変わっているのではないか?

 山上被告も署名したということは、山上被告にとってもそこで問題は解決していたのではないか?

 読売新聞の記事は全国弁連の弁護士の「返金請求を困難にさせる狙いなのは明らか」という言葉を引用している。統一教会が返金すべきであるのに合意書によって相手に請求権を放棄させたというのである。

 山上被告の場合どうであったかわからないが、5000万円の返金がなされて、母親がそれ以上の返金を求めていないと伝えられているが、そういう場合に統一教会にそれ以上の返金義務があるのであろうか?

 いずれにせよ、「母親の高額献金で一家の生活が苦しくなったこと」は統一教会だけによることではなく、信者である母親によることでもある。母親が返金を求めていないとすると母親によることになる。

 それにもかかわらず、山上被告の恨みが統一教会に対してだけ向けられていることも、問題となることである。

安倍元首相を撃った理由

 次に、統一教会への恨みから「安倍元首相を襲った」というところ。

 安倍氏は統一教会との「深い関わり」があったと山上被告は語ったようであるが、「深い関わり」とは何か、明らかでない。

 「詳しく説明していく」というので、どういうことが明らかにされるかと思っていると、「もともと統一教会を日本に引き込んだのは、岸信介元首相だ。ただ、すでに死んでいるので、その孫の安倍元首相を狙った」というだけである。

 岸氏が「統一教会を日本に引き込んだ」かどうかはさておいて、ここでは岸氏のことが語られているだけである。安倍氏と統一教会との「深い関わり」については何も語られていない。

 岸氏が「すでに死んでいるので、その孫の安倍元首相を狙った」というのは、岸氏に対する恨みから孫の安倍氏を撃ったということであるが、そうだとすると安倍氏を撃つ理由はなかったようである。

 「教団の信者になった母親の高額献金で一家の生活が苦しくなったこと」と安倍氏とはどういう関係があるのか?

手紙

 山上被告が米本氏に送った手紙を読んでも、どうして犯行を決意したのか、よくわからない。

統一教会への恨み

 まず統一教会への恨みに関わるところ。

私と統一教会の因縁は約30年前に遡ります。
母の入信から億を超える金銭の浪費、家庭崩壊、破産、、、
この経験と共に私の10代は過ぎ去りました。
その間の経験は私の一生を歪ませ続けたと言って過言ではありません。

個人が自分の人格と人生を形作っていくその過程、
私にとってそれは、
親が子を、家族を、何とも思わない故に吐ける嘘、
止める術のない確信に満ちた悪行、
故に終わる事のない衝突、その先にある破壊。

REUTERS 元首相銃撃、手紙で示唆か

 10代のころのことで統一教会を恨んでいるようである。

 しかしそれだけでは、40代になって犯行を決意した理由はよくわからない。

安倍氏を撃った理由

 安倍氏を撃ったことに関しては次のような言葉がある。

苦々しく思っていましたが、安倍は本来の敵ではないのです。
あくまでも現実世界で最も影響力のある統一教会のシンパの一人に過ぎません。

REUTERS 元首相銃撃、手紙で示唆か

 ここでも「本来の敵ではない」という安倍氏を銃撃したのは何故か? という大きな問題が明らかにされないままになっている。

 多くの人は行間を読み込んでいるが、本人は明らかにしていない。

犯行

 この手紙では、肝心の犯行についても明確に書いていない。暗示するような書き方をしている。

安倍の死がもたらす政治的意味、結果
最早それを考える余裕は私にはありません。

REUTERS 元首相銃撃、手紙で示唆か

 読売新聞の記事も「手紙には「安倍(元首相)の死」という文言があるが、犯行を示唆しつつも明確に予告しているわけではなく、不可解な点もある」と書いている。

まとめ

 山上被告の言葉から次の要素を取り出すことができる。

・20年以上前の統一教会との関係による苦しみ

・文鮮明氏の一族に対する犯行の意思

・安倍氏に対する犯行

 山上被告は、20年以上前の統一教会との関係による苦しみから統一教会に対して恨みを抱いていた。その恨みから文鮮明氏の一族に対する犯行を企てていたが、結局安倍氏に対する犯行を決意した、というのである。

 しかし、

 20年以上前の苦しみからその20年後に犯行を決意した、ということは理解に苦しむことである。

 統一教会に対する恨みから安倍氏に対する犯行を決意した、ということも理解に苦しむことである。

 そういう理解に苦しむことを山上はそのまま投げ出している。

20年の問題

 山上被告が20年前のことを持ち出して統一教会に対する恨みを述べていることについて、考えてみよう。

私怨と義憤

 白井聡氏は次のように語っている。

山上被告がツイッターなどに書き込んだ内容を読むと、個人として統一教会を恨んでいただけでなく、より普遍的な見地から同教団の反社会性を絶対に許せないという思いが滲んでいます。

AERAdot. 「政治的テロリズム」よりも「社会的承認」 安部元首相殺傷事件から変わった権威に対する暴力の動機

 山上被告の書いたことの中には二つのことがあるというのである。

・統一教会に対する個人的な恨み

・より普遍的な見地から許せないという思い

 私怨もあるが義憤もある、ということである。

 そのことは、山上被告が事件前に米本和弘氏に送った手紙にもみることができる。

私と統一教会の因縁は約30年前に遡ります。
母の入信から億を超える金銭の浪費、家庭崩壊、破産、、、
この経験と共に私の10代は過ぎ去りました。
その間の経験は私の一生を歪ませ続けたと言って過言ではありません。

REUTERS 元首相銃撃、手紙で示唆か

 というところは「個人として統一教会を恨んでいた」ことを現わすところ。

 それに対して、

世界の中の金と女は本来全て自分のものだと疑わず、
その現実化に手段も結果も問わない自称現人神。

私はそのような人間、それを現に神と崇める集団、それが存在する社会、
それらを「人類の恥」と書きましたが、今もそれは変わりません。

REUTERS 元首相銃撃、手紙で示唆か

 というところは「より普遍的な見地から同教団の反社会性を絶対に許せないという思い」のようである。

 内田樹氏は、テロリストは「自分の言いたいことのほとんどを諦めて、政治的意図だけに限定する」ものであるとして、山上被告のように「トラウマがどうしたというような個人史的な事情なんかをつらつらと書き連ねる」ものには「テロリストの資格はない」というように語っている。

 「政治的意図だけに限定する」というのは、義憤に限定することである。

 「トラウマがどうしたというような個人史的な事情なんかをつらつらと書き連ねる」というのは、私怨を述べることである。

 テロリストは義憤から事をなすものである。それに対して山上被告は私怨を述べているのでテロリストではない、というのである。

 しかし白井氏が言うように、山上被告は私怨も義憤も持っている。

 テロリストと対立する類型というより、テロリストと異なるところと同じところとを合わせもった類型とみるべきではないか。

飛躍

 山上被告の義憤、「より普遍的な見地から同教団の反社会性を絶対に許せないという思い」には、飛躍がある。

 山上被告は米本氏のブログへの書き込み(2020年9月7日)に「統一さんは既に統一教会の奴隷」と書いている。そして統一教会は「文一族による人類奴隷化計画」だと語っている。

まさか統一教会が文一族による人類奴隷化計画だというのが陰謀論だとおっしゃる訳ではないでしょう?(笑)

あと10年をポジティブに生きる記録 [2020/09/07 11:34] まだ足りない

 統一教会が滅ぶことが「全ての統一教会に関わる者の解放」というのは、統一教会は信者を奴隷にするという考えによることであろう。

必要なのは許す事でも忘れる事でもない。
彼等の罪を償わせ切ること。
(中略)

統一教会が滅んで悲しむのはこの世に害なす事が生き甲斐の者しかいない。
何の遠慮がいろうか?

我、一命を賭して全ての統一教会に関わる者の解放者とならん

あと10年をポジティブに生きる記録 2020/12/12 23:41 まだ足りない

 (「まだ足りない」のところにプロトンメールへのリンクがある)

 統一教会は「文一族による人類奴隷化計画」という思想は、山上被告自身の経験から飛躍していている。

 山上被告の経験では山上被告の母親は自主的に統一教会を信仰していた。しかし統一教会は「文一族による人類奴隷化計画」という思想では、奴隷にされたもの、自主性をなくされたものとされる。

 その飛躍によってすべての信者は奴隷とされ、自主性のないものとされ、そういう山上被告によって解放されるものとされる。

 これは他の人の自主性を認めない思想である。

 他の人の自主性によって行われていることを理解しない思想である。

 そういう思想では、自分の母親も自主性をもっていないことにされる。

 山上被告の「より普遍的な見地から同教団の反社会性を絶対に許せないという思い」はこういうものであった。

 普遍的であるかのようなかたちをとっているが、一人よがりになっている。義憤のかたちをとっているが、私怨になっている。

 山上被告は9月7日の書き込みで、「文一族による人類奴隷化計画」という山上被告の主張は陰謀論ではない、と笑っている。

 しかし具体的な現象の背後に単純な原因があると論証もなくきめつけて、その「原因」によって具体的な現象を説明する陰謀論である。

 山上被告は2020年にはそういう思想を持っていた。

 米本氏に送った手紙にもそういう思想が示されている。文鮮明氏一族に対する殺意はそういう思想からきている。

 安倍氏に対する犯行もそういう思想からきているようである。

 山上被告がいつどうしてそういう思想を自分のものとしたのか、よくわからない。

 「世界日報」の記事は、2005年から返金のことで山上家を訪れ山上被告と交流があった奈良の教会の元幹部の「教会に対する反発は当然ありました。しかし自分が教会を潰しに掛かろうと思っていたわけではないと思う」という言葉を載せている。

 その交流は2009年まで続いたという。

 早くからもっていたかもしれないが、2009年以後に凝り固まっていったものではないかと思われる。

 山上被告がその後に統一教会について語ること、自分と統一教会の因縁について語ることは、そういう飛躍した思想によってである。

「精神的に未熟」?

 内田樹氏は、山上被告は「精神的に未熟」であった、とみなしている。

自分の意図を適切に伝えるような言葉を持っていなかった。それだけ精神的に未熟だったということです。

AERAdot. 「政治的テロリズム」よりも「社会的承認」 安部元首相殺傷事件から変わった権威に対する暴力の動機

 古来のテロリストは「わずかな文字数のうちに自分の意図を誤解の余地なく書く」という「かなりの知的な成熟」を備えていた。

 山上被告はそういう「知的な成熟」を備えておらず、「精神的に未熟」であったというのである。

 山上被告は自分の意図を明らかにしないことによる効果を考えている可能性があるとも内田氏は語っている。

どういう意図でやったのかはっきりさせないほうが、いろいろな人がああでもない、こうでもないと仮説を立ててくれる可能性がある。

AERAdot. 「政治的テロリズム」よりも「社会的承認」 安部元首相殺傷事件から変わった権威に対する暴力の動機

 そのことを考えてやっているというのである。

 内田氏は、山上被告はそのことを「無意識的な計算」によってやっていると語る。

行動の意図を明らかにしない方がむしろ効果的だという無意識的な計算が働いている。

AERAdot. 「政治的テロリズム」よりも「社会的承認」 安部元首相殺傷事件から変わった権威に対する暴力の動機

 「無意識的な計算」ということは「精神的に未熟」であることからきていることのようである。

 しかし山上被告は「意識的な計算」によってやっているかもしれない。

 内田氏は山上被告が自分の意図を適切に伝えないことの効果は「被言及回数が増える」ことにあるという。そうして「社会的承認を得たい」とか「集団的記憶に自分の名前を刻み込みたい」とかいう欲求を満足させようとしたというのである。

 実際には、山上被告を被害者と見て手を差し伸べようとする動きが起こっている。

 山上被告の表現によってそういう効果が生じている。

厳刑を求める声

 「女性自身」の2022年9月8日の記事。

 山上被告の境遇に同情し、山上被告を被害者として、厳刑を求める声が報道されている。

 上の記事では、そういう動きに対して嫌悪感を示す声をも取り上げている。

 内田樹氏もその嫌悪感に近い考えを持っているようである。

 内田氏は、上に取り上げた対談において、テロリストの条件として「その代償として自分の命を差し出す」ことを挙げて、山上被告にはそのことがないゆえにテロリストの条件を満たしていないと語っている。

自分の行為の意味を明らかにして、かつ自分が殺す相手の命と引き換えに自分も死ぬという覚悟がない行動を「政治的テロリズム」と呼ぶわけにはゆかない。仮に行為の政治的目的が開示されていたとしても、相手を殺すだけで自分は生き延びるつもりなら、それはただの「暴力」です。独裁者が反対派を虐殺するのと変わらない。

AERAdot. 「政治的テロリズム」よりも「社会的承認」 安部元首相殺傷事件から変わった権威に対する暴力の動機

 「ただの「暴力」」「独裁者が反対派を虐殺するのと変わらない」などと厳しく批判している。

 山上被告自身が厳刑、「生き延びる」ことを求めているかどうか、わからないが、山上被告の減刑を求める人は、山上被告が「生き延びる」ことを求めるのである。

 山上被告を被害者として生き延びさせようとする動きは、山上被告の暴力を無視、あるいは軽視しているのではないか、という問題を内田氏は出しているのである。

 内田氏はまた次のように言う。

政治的テロリズムというのは、自分の政治的主張を広く世間に伝え、それを実現する合法的な手立てが他にないので、最後の手段として暴力を選ぶというもののはずです。だから、刑事罰を受ける覚悟で行なう。

AERAdot. 「政治的テロリズム」よりも「社会的承認」 安部元首相殺傷事件から変わった権威に対する暴力の動機

 ここでも山上被告に「自分が殺す相手の命と引き換えに自分も死ぬという覚悟」がないことを問題としているのであるが、ここでは自分の主張を「実現する合法的な手立てが他にないので、最後の手段として」ということを「政治的テロリズム」の条件としている。

 山上被告が暴力を用いる時に「実現する合法的な手立てが他にない」状況があったかどうかという問題を内田氏は出しているのである。

 2022年6月12日、安倍晋三元首相銃撃事件の第1回公判前整理手続きが行われることになっていたが、不審物が届いたとして奈良地裁は手続きを中止した。

 量刑の減軽を求める署名を入れた段ボール箱1箱が不審物と見なされて、手続きは中止されたのである。

 6月12日の公判前整理手続きには山上被告も出席する予定であった。

 第1回公判前整理手続きは10月13日に行われたが、山上被告は出席しなかった。弁護団に対し「手続きに自分が出席しようとしたことで騒ぎになった。次回以降出席するかどうか、よく考えたい」と話していたという。

 山上被告の減刑を求める動きによって、山上被告その人が表に出ず裏に隠れることになる、ということは、事件後に起こったことを象徴することである。

参観日

 「精神的に未熟」ということに関して、山上被告の言葉で気になるものをとりあげる。

 共同通信の2022年12月7日の記事では、授業参観に関する山上被告の言葉を伝えている。

 安倍晋三元首相の銃撃事件で、殺人容疑で送検され鑑定留置中の山上徹也容疑者(42)が「母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の用事に行って授業参観に来なかった」などと、精神鑑定の担当医に少年期の不満を漏らしていることが7日、関係者への取材で分かった。

共同通信 「母が参観来ず」と容疑者不満

 山上被告の母は統一教会のために子供の養育をおろそかにしたと言われている。

 そのことで山上被告は統一教会を恨んだと言われている。

 「母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の用事に行って授業参観に来なかった」ということは、その例のようである。

 しかし山上被告の母親が統一教会に入信したのは山上被告が10代の時である。

 10代で母親が授業参観に来ないことのために統一教会を恨んだというのは、異常ではないかと思われる。

 それとも実際はそうではなかったのであろうか?

大学

 次にNHKの1月13日の、山上被告が服役したあとは「大学へ行きたい」と言ったという記事。

 山上被告は「母親が旧統一教会、「世界平和統一家庭連合」に入信し多額の献金をしたことなどで、家庭が困窮し大学に進学できなかった」と言われている。

 大学に進学したかったにもかかわらず、統一教会のために進学できなかった。そこで服役したあとに大学へ行きたいというのである。

 拘置所では大学に行くための勉強をしていたという。

今月10日まで、鑑定留置が行われた大阪拘置所では、大学に行くための勉強をして過ごし、親族からは英語の資格の教材や英和辞典が差し入れられ、特に英語に力を入れて学んでいたということです。

NHK 安倍元首相銃撃事件 被告“服役したあとは大学へ行きたい”

 まず、内田樹氏の「相手を殺すだけで自分は生き延びるつもりなら、それはただの「暴力」です」という批判が問題となる。

 次に、山上被告が20年前に大学に進学できず、服役した後に大学に行きたいということは、20年の間大学に行きたかったということのようであるが、それほど大学に行きたかったという人が、20年の間大学に行かなかったのは何故か? という問題がある。

 服役した後には、その20年の間より状況はよくなっているのか?

 記事によると、「服役後の費用として使ってください」などとして金が送られて、2022年10月までに100万円を超えていたというが、そういうことで状況はよくなっているのか?

 山上被告が大学に進学できなかった時から間もない時に大学に行きたいと言っているとすると、理解できるかもしれない。

 ただしこの記事で山上被告が言ったとされている言葉は、山上被告の伯父が言ったことであるかもしれない。

若く見える?

 事件の後、山上被告は何度かテレビに出たが、いつも前髪で額を覆うような髪型にしていた。

 前髪で額を覆う髪型は、初期のビートルズと同じように、若く見えるという効果がある。

 意識してそうしているのか、無意識にそうしているのか、わからない。

 山上被告が若く見えれば見えるほど、10代の統一教会との経験は近いことのように思われる。

 若く見えれば見えるほど、周りが手を差し伸べなくてはならない未成年のように見えるかもしれない。

切迫感

 山上被告が米本氏に送った手紙の最後の言葉。

安倍の死がもたらす政治的意味、結果
最早それを考える余裕は私にはありません。

REUTERS 元首相銃撃、手紙で示唆か

 ここで余裕がないという言葉が何のことを言っているのか、明らかではない。

 しかし余裕がないということは、追い詰められているということである。

 何かよくわからないが、犯行の前に追い詰められているというのである。

 被害者であるかのような印象を与える言葉である。

まとめ

 山上被告の望み、思いは明らかにされていない。

 統一教会に対する恨みということは、了解できないことではない。

 しかし40代の人物が自分の10代の時のことを理由として恨みを晴らすということは、了解しがたいことであるのに、そのことについての説明はない。

 山上被告には、私怨だけでなく義憤もあったようである。統一教会には普遍的な観点から問題があるとして、その問題の解決を考えたというのである。

 しかしその義憤にも説明が欠けている。

 統一教会には普遍的な見地から問題があるというには、統一教会に対する客観的な分析がなくてはならない。

 山上被告が持っているのは統一教会は「文一族による人類奴隷化計画」という陰謀論のような思想である。

 そういう思想では、山上被告は母親のことも理解できないであろう。

 山上被告は近年母親からか離れていたと言われている。統一教会から離れて行きながら、近年の統一教会の実情を知ることができたのであろうか?

 統一教会の相談件数は近年減ってきているのに、減る前に事件を起こさずに、減った後に事件を起こしていることも、奇妙である。

 統一教会は「文一族による人類奴隷化計画」という陰謀論のような思想においては、信者の具体的な姿も、時間も、問題とならないということであろうか?

 山上被告が何故に安倍元首相を銃撃したのか、ということも説明が欠けている。

 安倍氏と統一教会の関係を問題としたようであるが、何を問題としたのか、よくわからない。

 あれだけ大きな事件を起こしたのに、理由がよくわからないというのは奇妙なことである。

 このように山上被告の望み、思いは明らかではない。

 内田樹氏が言うように伝統的なテロリストと違うのである。したがってその望みを叶えるということも、違うかたちになる。

 たとえば五・一五事件は伝統的なテロリストによるものであって、専ら義憤によってなされている。そしてその述べた明確な政治的主張が人を動かしたのである。

 それに対して山上被告の言葉は私怨と義憤が混在したものである。

 まず私怨における被害の主張に対して救わなくてはならないという声が出てきた。

 そして義憤における、統一教会は「文一族による人類奴隷化計画」とか、安倍氏と統一教会の関係とかいう根拠のない陰謀論が推し進められた。

 次に、犯人の望みを叶えていると言われる動きの中で重要な人物について考える↓

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