月: 2023年11月

  • 池内恵東京大学教授がチャンネルくららに対してしたこと イスラエル・ハマス問題の手前で

    池内恵東京大学教授がチャンネルくららに対してしたこと イスラエル・ハマス問題の手前で

     2023年11月末、池内恵東京大学教授とチャンネルくららの間で対立が生じた。

     まず池内氏がチャンネルくららの番組を非難した。それに対してチャンネルくららは池内氏に答える動画を出した。

     その後の池内氏の言動は驚くべきものであった。

     池内氏は今度のイスラエルの行動に対して批判的であるが、池内氏自身、イスラエルと同じように必要がないところで敵を増やしている。

     そのことをどう受け取ればいいのか?

     池内氏は身を以て国際政治の問題を教えてくれている、と受け取ることをここでは提案する。

    流れ

     池内氏とチャンネルくららの間で起こったことは以下の通り。

    発端

     発端はチャンネルくららが11月16日に公開した次の動画。

    チャンネルくらら
    イスラエル・ガザ最大病院に突入 中東専門家はなぜ偏っている?陸海空軍人から見たシリーズ【チャンネルくらら】 2023/11/16

    池内氏の非難

     これに対して池内恵東京大学教授が次のように非難した。

     まず「中東専門家が偏っているか否かについて特に論証はなく」ということ。

     次に「シファー病院の包囲についてイスラエル側の事前の広報を鵜呑みにした議論はその後の展開と乖離しており」ということ。

     この2点を問題としている。

     そしてこのように小川元陸将を非難し、疑問を呈している。

     しかし、中東専門家はなぜ偏っているのか? ということについて、番組では小川元陸将以外の出演者が語ることが多く、小川元陸将はそれほど語っていない。

     それにもかかわらず、小川元陸将一人を名指しで非難していることには、違和感がある。

     池内氏が小川元陸将を名指しで非難しているのは、小川元陸将が病院のことを言っていたからであろうとは思う。しかし小川元陸将一人を名指しして、番組の中東専門家はなぜ偏っているのか? という題について問うかたちになっているので、違和感がある。

     番組に対しても、小川元陸将に対しても、丁寧に向き合わずに乱暴にやっていないかという疑問が生ずる。

     ちなみにチャンネルくららは「中東専門家はなぜ偏っているのか?」ということについて次のように説明している↓

    チャンネルくららの緊急配信

     池内氏はポストを連投してチャンネルくららの番組を非難し、疑問を呈した。

     そこでチャンネルくららは池内氏に答える動画を出した。

    チャンネルくらら
    【緊急配信】池内恵先生にお答えします 小川清史元陸上自衛隊西部方面総監・陸将 憲政史家倉山満 東京大学イスラム学研究室出身・救国シンクタンク客員研究員内藤陽介【チャンネルくらら】 2023/11/23

     この動画では、内藤陽介氏が司会して、小川元陸将、倉山満氏がそれぞれ自分の考えを述べている。そして公開討論を呼び掛けている。

     池内氏に対して礼を尽くした動画である。

     この動画をみて、これから理性的な議論が始まるのではないかと期待した。

    池内氏どこへいく?

     ところがその期待を破壊したのは池内氏であった。

     池内氏はチャンネルくららに答えずに、X(旧ツイッター)でチャンネルくららを非難し続けていた。

     そもそも小川元陸将がチャンネルくららの番組で池内氏に答えたことを問題としている。

     何を問題としているのかよくわからない。「事態を認識できていない」とは何なのか?

     チャンネルくららのその動画で「もし必要があれば、こちらの方にお越しいただければ、あるいは、必要があればこちらの方からスタッフが出向きますので、必要があればご議論の機会を設けたいとこちらは思っておりますので」と内藤陽介氏が言っていた。

     池内氏が求める答えをそれほど聞きたいのであれば、直接聞けばいいのではないか?

     池内氏こそ「事態を認識できていない」のではないかと思われる。

     池内氏が他の人とのやりとりで上のようなことを言っているところをみると、周りにいる人の言うことによって判断してしまっているのではないか? とも思われる。

     ロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席は、取り巻きのイエスマンの言うことしか聞かず現実を知らないと言われることを思い出してしまう。

     一方的な感情をもった人たちが集まって感情ばかりを高め合って、周りを正しく見ることができなくなることがあるが、そういうことが起こっているのではないか? とも思われる。

     逆に言うと、池内氏の言動によって、安全保障に関して問題となることを考えることができるということもできる。

     いずれにせよ、池内氏の問題は議論の内容以前にある。

    「クーデター」

     池内氏はチャンネルくららの「中東専門家はなぜ偏っている?」という番組を「クーデター未遂事件っぽい」危険なものとみなしていた。

     あの番組をみて「クーデター未遂事件っぽい」という池内氏の想像力についていくことは困難である。

     東京大学の国際政治の専門家の想像力がそういうものでいいのか? と思ってしまう。

     そういうことについて考える機会を与えてくれていると受け取るべきであるかもしれない。

    暴言問題

     チャンネルくららから公開討論を呼びかけられているのに、池内氏は答えずにいた。

     そのことについて聞かれて、池内氏は次のように語っている。

     チャンネルくららのあれだけ礼を尽くした動画に対する言葉として、理解しがたいものである。

     司会をしていた内藤陽介氏に対しても、議論が深まることを求めていた倉山氏、小川元陸将に対しても、失礼である。

     そこで倉山満氏は次のように言った。

    https://office-kurayama.co.jp/?p=2107157

     そこに寄付したいという話があった。それを受けて、

     ところが池内氏はその倉山氏の言葉を問題として相手にしないと言い出した。

     池内氏は倉山氏の「アカハラ・パワハラ」云々という言葉を問題としているが、その言葉は、池内氏の「研究室に黙って若手人件費一年分寄付したら出てもいい」という言葉に答えたものである。

     池内氏が「私に「東大の若手教員の一年分の寄付」なんかさせたら」「アカハラ・パワハラしてさしあげます」というのである。池内氏の過大な要求を問題としているのである。

     問題は、池内氏がチャンネルくららの礼を尽くした討論の呼びかけに対して「研究室に黙って若手人件費一年分寄付したら出てもいい」と言ったことにあるのではないか?

     池内氏がそのことを問題とせずに、倉山氏のことを問題としていることにはどういう意味があるのか?

     「印象操作」ではないか?

     ここまでの池内氏とチャンネルくららのやりとりを見てきた者には、池内氏の言葉にこそ問題はあると思われる。

     ところが池内氏が倉山氏の言葉を問題とするところだけをを見た人には、倉山氏に問題があると思われる。

     池内氏の言葉を受けて倉山氏に問題があると受け取っている人は少なからずいた。「印象操作」が功を奏しているわけである。

     このような事態に対しては、池内氏が国際政治における印象操作の問題を身を以て教えてくれている、とでも受け取らなくては、救いがない。

     それにしても、ここでの池内氏の倉山氏に対する「非常識極まりない」とか「商売の種にしようと寄って来る人」とか「付き合っちゃいかん筋の人」とかいう言葉は、そこまで言っていいのか? と他人事ながら心配になる。

     印象操作においては強い言葉を使うほど効果があるということを考えさせてくれていると受け取るべきであろうか?

     その印象操作に乗った国際政治学者が一人。

     倉山氏の言葉を「絶対に合意できない条件突きつけて」「明確に契約を成立させたくないという意思表示」とみなしていることに驚く。

     その前の池内氏の「研究室に黙って若手人件費一年分寄付したら出てもいい」という言葉こそ「絶対に合意できない条件突きつけて」「明確に契約を成立させたくないという意思表示」ではないのか?

     この人が引用している倉山氏の記事にもそのことは書いてある。倉山氏は池内氏が「私に「東大の若手教員の一年分の寄付」なんかさせたら」ということを問題としている。その前の池内氏の言葉があったからこそ、倉山氏はそう言っているのである。

     この国際政治学者はそのやりとりを知っているのか? 知っていないのか?

     そのことを知っていて、その上でそのように語っているとすると、都合のいいように歴史を切り取って印象操作をしている、という困ったことになる。

     そのことを知らずにそのように言っているとすると、そのくらいのことを確かめもせずに、印象操作されるままに攻撃を行っている、というこれまた困ったことになる。

     いずれとしても困ったことになる。

     印象操作の問題について教えてくれていると受け取らなくては、救いがない。

     印象操作は拡散されて、集団によって攻撃する手段になる、ということをも教えてくれる。

     この国際政治学者は、倉山氏から「揶揄されている国際政治学者」と自ら認めているのであるが、倉山氏と戦っていることにおいて戦わずに、倉山氏が暴言を吐いているという池内氏による印象操作に乗って、倉山氏を攻撃しているのである。

     ついに池内氏は次のように言うに至った。

     いつの間にか池内氏が番組に出ることを脅迫されたという話になっている。

     そもそもチャンネルくららの番組を非難しておいて、チャンネルくららから礼を尽くした公開討論の呼びかけを受けたにもかかわらず答えずにいて、「研究室に黙って若手人件費一年分寄付したら出てもいい」と言ったことを、池内氏は忘れてしまったのか?

     印象操作をするにはここまで堂々としていなくてはならないということを身を以て教えてくれているのか?

     それともそう思い込んでしまっているのか?

    おわりに

     2023年10月7日にハマスがイスラエルを襲撃してから、ガザ地区の問題は多くの人の関心を集めている。

     ところで日本では、その問題を巡って学者の間の戦争が激しくなっている。

     ここで取り上げた池内氏と倉山氏の対立はその一つということができる。

     池内氏はその前から他の相手と戦っていて、チャンネルくららに対してもちゃんと向き合わずに、思い込みで攻撃したように見える。

     そうだとすると、これまた戦争中の誤爆のようなことになる。

  • 「犯人の思う壺」? 安倍元首相銃撃事件以後の動きについての考察 ②紀藤弁護士等

    「犯人の思う壺」? 安倍元首相銃撃事件以後の動きについての考察 ②紀藤弁護士等

     安倍元首相が殺害された後、日本の社会も政府も犯人の望みを叶える方向に進んでいるのではないか、「犯人の思う壺」になる方向に進んでいるのではないか、と言われている。

     そのことについて詳しく考える。

     関連記事↓

     犯人の望みを叶える、ということは、犯人の望みと、それを叶える動きとからなる。

     まず安倍氏を銃撃した山上徹也の意図について↓

     次に犯人の望みを叶える動きについて考える。

     ここでは事件の後の日本を導いてきた紀藤正樹弁護士を取り上げる。

    紀藤弁護士の二つの主張

     事件の後の紀藤弁護士の主張は、7月11日の紀藤弁護士のツイートにおいて明確に示されている。

     紀藤弁護士の7月11日のツイートには二つの主張がある。

    ・安倍氏殺害事件は統一教会の反社会性が暴発したもの

    ・安倍氏殺害事件は安倍氏が統一教会に対して適切に対処しなかったゆえに起こった

     第1の主張によると、事件の原因は統一教会の「反社会性」にある。

     問題を解決するためには、統一教会の「反社会性」をどうにかしなくてはならないということになる。

     第2の主張によると、事件の原因は政治家と統一教会の関係にある。

     問題を解決するためには、政治家と統一教会の関係をどうにかしなくてはならないということになる。

    その後の流れ

     その後、紀藤弁護士は統一教会の専門家のようなかたちで盛んにテレビに出演して、上のような主張を広めた。

     マスメディアも紀藤弁護士の主張する通りに統一教会の「反社会性」を問題とし、統一教会と政治家の関係を問題とした。

     共産党、そして立憲民主党もそのことを問題とし、岸田首相もそのことを問題とするに至った。

     たとえば2022年8月31日、岸田首相は、自民党所属国会議員は統一教会との関係を絶つと宣言した。

    https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2022/0831kaiken2.html

     これは紀藤弁護士等の第2の主張を受けたものということができる。

     第1の主張に関しては、紀藤弁護士はテレビで盛んに語ったほかに、2022年8月26日から開催された消費者庁の「霊感商法等の悪質商法への対策検討会」に委員として参加している。(霊感商法等の悪質商法への対策検討会の開催について

     岸田首相はそういう紀藤弁護士等の動きを受けて、2022年末に新法を成立させるに至った。

    https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2022/1210kaiken.html

     そして2023年10月13日、岸田政府は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対して解散命令請求を行うに至った。

    https://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/mext_00421.html

     紀藤弁護士は「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対する解散命令請求に関して、令和5年10月12日に行われた」盛山正仁文部科学大臣の臨時記者会見を「歴史に遺すべき素晴らしい」会見と評している。

     紀藤弁護士の望む通りのことを岸田政権は行ったということである。

     このように、紀藤弁護士の事件後の主張は7月11日のツイートにまとめられており、その主張にマスメディア、野党、そして岸田政権は従っていったのである。

    犯人の望みを叶える

      紀藤弁護士の主張を「犯人の望みを叶える」ということから考えてみよう。

    紀藤弁護士の主張と犯人の主張

     事件後の紀藤弁護士の二つの主張は、山上被告の二つの主張と対応している。

     統一教会の「反社会性」をどうにかしなくてはならないという紀藤弁護士の第1の主張は、統一教会について「人類の恥」という山上被告の考えと近いようである。

     政治家と統一教会の関係をどうにかしなくてはならないという紀藤弁護士の第2の主張のうち、安倍元首相と統一教会のこれまでの関係には問題があったということは、安倍元首相と統一教会の関係ゆえに安倍元首相を撃ったという山上被告と近いようである。

     紀藤弁護士の主張によって統一教会に対する解散命令請求が行われるに至った流れは、山上被告が望むものであったのか、よくわからない。

     紀藤弁護士の主張によって岸田首相が自民党議員と統一教会の関係を絶つと宣言するなどの流れは、山上被告が望むものであったのか、よくわからない。

     いずれにせよ、紀藤弁護士は山上被告と同じ考えを持っていて、その考えを推し進めた限りにおいて、犯人の望みを叶えている、ということができる。

     ただし、紀藤弁護士はもともと持っていた自分の考えによって動いているのであって、山上被告の望みを叶えているのではないというであろう。

    問題のすり替え

     いずれにせよ、紀藤弁護士はその考えのために、問題のすり替えを行っている。

     その7月11日のツイートでは、

     第1に、安倍元首相殺害事件は統一教会を恨んでいるという人物の反社会性が暴発したことであるにもかかわらず、紀藤弁護士は統一教会の反社会性が暴発したこととしている。

     第2に、安倍元首相殺害事件は犯人のせいで起こったことであるにもかかわらず、安倍氏に責任があるとしている。

     安倍元首相殺害事件において、統一教会の「反社会性」は明らかではない。統一教会と政治家の関係の問題は明らかではない。しかし紀藤弁護士はそのことこそ事件の原因だと語った。

     それに対して安倍元首相殺害事件において、犯人の暴力は明らかであるが、紀藤弁護士はそのことを問題としない。

     統一教会の「反社会性」をどうにかしなくてはならないとか、統一教会と政治家の関係をどうにかしなくてはならないとかいうことは、事件の前からの紀藤弁護士の主張である。

     その主張によって、問題のすり替えは行われた。

     マスメディアは紀藤弁護士の問題のすり替えに乗った。

     安倍元首相殺害事件に対して、犯人を問題とせず、統一教会を問題とし、統一教会と政治家の関係を問題とすることによって、関心は犯人から統一教会、政治家に向けられた。統一教会、政治家に対する追及が行われるうちに、犯人のことはかえりみられなくなっていった。

     そのことは犯人の考えと同じである限りにおいて、犯人の望みを叶えるものということができる。

     紀藤弁護士の言動において注意すべきは、そういう問題のすり替えである。

    反社会性

     紀藤弁護士は統一教会の「反社会性」を問題としているが、紀藤弁護士の問題のすり替えこそ問題とされなくてはならないことではないか?

     紀藤弁護士は、安倍元首相殺害事件という重大な事件に対して、加害者を被害者とし、被害者を加害者として秩序を混乱させた。

     その後の統一教会の問題、統一教会と政治家の関係の問題に対する追及は、いずれも紀藤弁護士等によって必ずしも十分な根拠なしに行われた。

     そういう紀藤弁護士が現実には日本の政治を動かしていった。

     紀藤弁護士は統一教会の「政治への浸透」を問題としたが、そういう紀藤弁護士の「政治への浸透」が現実には起こっている。

     紀藤弁護士は、統一教会は「組織的な政界浸透作戦」を行ってきたと主張した。それに対して日本は「対処法を持たなかった」と主張していた。

     しかし安倍氏殺害事件以後、紀藤弁護士等の主張によって、政府が解散命令請求を行うに至った流れは、紀藤弁護士自身による「政治への浸透」が成功したことを示すことである。

     そのことはまた、紀藤弁護士が「政治への浸透」を問題とした統一教会は、そういう紀藤弁護士の「政治への浸透」に対抗することができるほど「政治への浸透」を行っていなかった、ということを示すことでもある。

     そもそも紀藤弁護士が語ったような統一教会の「政治への浸透」があったのか? ということが問題となる。

    7月12日の声明と記者会見

     事件後の紀藤弁護士の考えは、これまで述べてきたように7月11日のツイートに示されているが、その考えが広く示されたのは7月12日の全国霊感商法対策弁護士連絡会の声明と記者会見であった。

     紀藤弁護士も加わっている全国霊感商法対策弁護士連絡会は7月12日「安倍晋三元首相 銃撃事件に対する声明」を出した。

    https://www.stopreikan.com/seimei_iken/2022.07_seimei_abe.htm

     紀藤弁護士もツイッターでその声明について知らせている。

     その声明を読み上げる記者会見が行われて、紀藤弁護士等がその声明の趣旨を敷衍している。

    ニコニコニュース ノーカット版【”統一教会”の献金などの活動を非難】紀藤正樹弁護士ら全国霊感商法対策弁護士連絡会が記者会見 2022/07/20

     向うからこちらをうかがうような山口弁護士の表情が印象的。

     文字起こし↓

    https://www.mbs.jp/news/feature/kansai/article/2022/07/090064.shtml

     この声明・記者会見から、世の中の論調が、犯行に対する非難から統一教会に対する非難に導かれていった。

    声明 代表世話人山口広弁護士

     記者会見では、はじめに声明が川井康雄弁護士によって読み上げられた。

     そしてまず代表世話人の山口広弁護士がその声明に関して発言した。

    会見の意図

     山口弁護士のはじめの言葉はこの会見の意図を明らかにしている。

    今日の会見設定を弁護団で決めた理由はですね、この声明に掲げています2と3と4につきます。

    MBSNEWS 【記者会見の全容】「全国霊感商法対策弁護士連絡会」の会見『夫からの暴力』『自己破産』旧統一教会の二世信者も出席し”苦悩” 語る

     「この声明に掲げています2と3と4」とは何か?

     声明は1から5まである。

     1は犯人の行為は「許されない」と言うもの。

     2は、統一教会の献金による苦悩、教会に対する憤りを問題として「今回の行為は決して許されることではありませんが、こうした問題に対し社会としてどう取り組むべきかが改めて問われているとも思います」というもの。「行政も政権を担う党の政治家もこの30年以上何も手を打ってきませんでした」ということを問題としている。

     3は、安倍氏が統一教会の関連団体UPFにビデオメッセージを送ったような行為を非難するもの。

     4は、統一教会の霊感商法や勧誘の手口の問題に対する理解を求めるもの。

     5は、報道によって現役信者が傷つき苦しむことへの配慮をもとめるもの。

     弁護団がこの会見設定を決めた理由は「2と3と4につきます」ということは、弁護団が会見を開いて訴えたいことは、声明の2と3と4につきる、ということである。

     2と3と4は、統一教会の問題に対して手を打たなくてはならない、政治家のこれまでの統一教会との関係には問題があって改めていかなくてはならない、というものである。

     そのほかの1も5も会見で訴えたいことではないというのである。

     1の、犯人の行為に対して「許されない」と言うことは、会見で訴えたいことではないというのである。

     5の、報道によって現役信者が苦しむことへの配慮をもとめることも、会見で訴えたいことではないというのである。

     この会見は、事件を起こした犯人を問題とせず、事件との関係の明らかではない統一教会を問題とし、統一教会と政治家の関係を問題とするものだというのである。

     「安倍晋三 元首相 銃撃事件に対する声明」と題する声明、そしてその声明を読み上げる記者会見であるにもかかわらず、その銃撃という犯行は軽く扱われているのである。

     声明においても、記者会見においても、はじめに犯人の行為に対して「いかなる理由があろうとも決して許されないことです」と言うが、そのことについてはそれだけで終わる。そしてその後に別の問題が重要な問題として語られる。

     産経新聞は事件の1年後の2023年7月に、「殺人は許されないが」と前置きして、その後に「テロリストと背景・動機を絡め、過度に意味を与える」言説を批判する記事を出した。

    https://www.sankei.com/article/20230712-LUYNEDZCNVOCJCMBU2NJCE4CPQ/

     そういう言説は弁護士連絡会の2022年7月12日の声明、記者会見に始まっている。

     弁護士連絡会の2022年7月12日の声明、記者会見を問題としなくてはならない。

     声明の3において、安倍氏がUPFにビデオメッセージを送ったことを問題として、「統一協会のために人生や家庭を崩壊あるいは崩壊の危機に追い込まれた人々にとってたいへんな衝撃でしたし、当会としても厳重な抗議をしてきたところです。」というところも問題とされなくてはならない。

     安倍氏のビデオメッセージはそのような非難を受けなくてはならないものではない。

     それにもかかわらず、被害者である安倍氏を、十分な根拠なしに加害者であるかのように語っているのである。

     7月8日の安倍元首相殺害事件から間もない7月12日に、安倍元首相殺害事件という重大な事件の問題をすり替え、加害者を被害者とし、被害者を加害者とする記者会見が弁護士団体によって行われた。

     そしてその後、マスメディアはその弁護士団体の弁護士や同じ考えをもった学者、ジャーナリストばかりを出演させて、その論調が日本を覆った。

    犯人の望みを叶える?

     7月12日の声明、記者会見は、紀藤弁護士の7月11日のツイートと同じく、統一教会を悪としてその問題を追及しなくてはならないということ、そういう統一教会と政治家の関係を問題とするものである。

     その主張には、犯人の考えと同じところがあると思われる。その限りにおいて犯人の望みを叶えるものということができる。

     事実は明らかになっていないのに、「山上被疑者の苦悩や教会に対する憤りも理解できます」と理解を示していることは、犯人のことを理解しているのか? いないのか?

     犯人との関係ということでは、山口弁護士が「山上さんのお母さん」と言っているところは気になるところである。

    私達が許せないのはですね、山上さんのお母さんが、平成14年、2002年に奈良地裁で自己破産しています。この自己破産は明らかに統一教会に対する過度の献金のためですよ。それ以外考えられませんよ。それを昨日の記者会見では、あたかも他人事のように言った上で、その後の言及はありません。おそらく献金させてます。

    MBSNEWS 【記者会見の全容】「全国霊感商法対策弁護士連絡会」の会見『夫からの暴力』『自己破産』旧統一教会の二世信者も出席し”苦悩” 語る

     母親に対して「さん」をつけているのであろうか? それとも安倍元首相を銃撃した人物に対して「さん」をつけているのであろうか?

     その言葉に続く山口弁護士の言葉も、推測に過ぎないことを事実と断定する、思い込みが強い考え方が現れているので、取り上げておこう。

     「昨日の記者会見」とは、7月11日の世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の田中富広会長の記者会見である。それに対して異を唱えているのである。

    MBS NEWS
    【ノーカット】「旧統一教会」が会見『山上徹也容疑者の母親は会員、破産も把握』『高額献金要求かの記録はない』【安倍元総理銃撃事件】

     この記者会見において田中会長は「犯行の動機や一部メディアで報じられている献金問題に関しましては、警察が捜査中であると思われますので、この場での言及は避けさせていただきます」と言う。そして「この御家庭が破綻された諸事情は私どもも把握しておりません。そして現場に問い合わせても、なお当時のことを分かっている方もおられなくて、把握しきれていないのが現状です。ただ破綻されていたということは知っております」と語っている。

     山口弁護士はこういう発言を非難して「あたかも他人事のように言った上で、その後の言及はありません」と言うのである。

     しかし、20年前の事実について「この自己破産は明らかに統一教会に対する過度の献金のためですよ。それ以外考えられませんよ。」と根拠なしに推測で決めつけている山口弁護士は正しいのか?

     「把握しきれていない」という田中会長は正しくないのか?

     ちなみにこのことに関して次のような文春の記事がある。

     ある信用調査会社によると、1996年度まで黒字が続いていた会社は母親が社長を引き継ぐ前年の1997年度には4000万円を超える負債を抱え、その後銀行からの融資も認められなくなった。2002年には母親が自己破産。2009年から2017年までは、統一教会側も連絡が取りづらい状態が続いたという。

    《安倍元首相銃撃》「母親はつながりが切れない、縁が切れない」親族が明かす山上徹也容疑者(41)の母親への“葛藤”と“宗教2世”の深い苦悩「私たちには幸福追求権がない」

    https://bunshun.jp/articles/-/55887?page=4

    紀藤弁護士

     7月12日の記者会見では紀藤弁護士も発言しているが、そこでも問題のすり替えを行っている。

     紀藤弁護士はまず、安倍元首相の殺害事件に、石井紘基氏の殺害事件の時の自分の経験を重ねて、「どれほど罪作りなのか」という。

    1人の政治家をですね、自分の意見と違うとか、その自分の立場と違うとかあるいは怨恨とかですね、そういうことで殺めることが、どれほど罪作りなのかっていうのは、正直言ってとても重いものだと思います。

    MBSNEWS 【記者会見の全容】「全国霊感商法対策弁護士連絡会」の会見『夫からの暴力』『自己破産』旧統一教会の二世信者も出席し”苦悩” 語る

     ここまでは、罪を重く考えているようである。

     ところが今度の事件の背後の話になって次のように語る。

    でも、そのエネルギー、今自民党の政治家の人たちも…当然悲しみの中に憤りをお持ちだ、それはもう十分わかります。ですけどこの事件の背景に何があったか、つまりそのエネルギーを向けてほしいのはむしろ巨悪なんです。(中略)今回の事件も、単純にその個人の怨恨なのか、個人の怨恨が引き金になったっていうのはその背後には、統一教会のですね、かなり過酷な、献金ノルマみたいなものがあって、そして家族が崩壊したと、それが怨恨に繋がった可能性もありますよね。そうするとですね、やっぱりこれは憤りの対象の対象はですね、個々の信者とかに向けられるものではなく、やっぱり統一教会、巨悪にも向け向かうべきだと私は思います。

    MBSNEWS 【記者会見の全容】「全国霊感商法対策弁護士連絡会」の会見『夫からの暴力』『自己破産』旧統一教会の二世信者も出席し”苦悩” 語る

     まさに問題のすり替えである。

     事件の背景には統一教会があるゆえに統一教会を「憤りの対象」とすべきだというのである。

     犯行に対する憤り、犯人に対する憤りを、統一教会に向けてほしい、向かうべきだと紀藤弁護士は言う。

     何故か? 統一教会の献金が「怨恨に繋がった可能性」がある、「そうするとですね、やっぱり」憤りは統一教会に向かうべきだと紀藤弁護士は言う。

     山口弁護士と同じく、可能性があるにすぎないことを事実のようにみなして、統一教会に憤りを向けるべきだというのである。

     犯人に対する憤りを統一教会に向けるということは、犯人の望みを叶えることかどうか、わからない。しかし統一教会は憤りを向けられるべき団体だということは、犯人の考えにちがいない。

     ちなみに紀藤弁護士が殺害された安倍元首相と重ねている石井紘基氏は、紀藤弁護士とともに反統一教会運動をしていた政治家である。

    渡辺博弁護士

     その他の弁護士の発言についても考えておこう。

     渡辺博弁護士は記者会見において、統一教会に対する非難、政治家のこれまでの統一教会との関係に対する非難に終始している。

     統一教会については次のように語っている。

    全ての財産は神様、今で言えば韓鶴子様のもので全て捧げなさいというのが残念ながら統一教会の教えですから、その結果が家庭崩壊になってしまうということです。

    MBSNEWS 【記者会見の全容】「全国霊感商法対策弁護士連絡会」の会見『夫からの暴力』『自己破産』旧統一教会の二世信者も出席し”苦悩” 語る

     統一教会の教えでは信者は必ず「家庭崩壊になってしまう」というのであるが、これは事実であろうか?

     教えによってそうなると語っているところによると、事実を観察した上でそう言っているのではないのではないかと疑われる。

     常識的に考えて、その教えによって信者が必ず「家庭崩壊になってしまう」ような団体が、何十年もの間、一時期を除いてそれほど話題にならずに続いているということは、理解しがたい。

     ちなみに渡辺弁護士の「全ての財産は神様、今で言えば韓鶴子様のもので全て捧げなさいというのが残念ながら統一教会の教え」という言葉は、山上被告が米本氏に送った手紙の中の次の言葉と似ている。

    世界の中の金と女は本来全て自分のものだと疑わず、
    その現実化に手段も結果も問わない自称現人神。

    REUTERS 元首相銃撃、手紙で示唆か

     たまたま同じようなことを考えたのであろうか? 影響を受けたのであろうか?

     いずれにせよ、渡辺弁護士は山上被告と同じような考えをもっていて、それを推し進めようとしている。望みを叶えようとしているようである。

     次に政治家と統一教会の関係について。

    統一教会の被害者にとっては、政治家との繋がりがあるから、警察がきちんとした捜査をしてくれないというような思いがずっとあると思います。私どもにもあります。ぜひその点を、国会議員の先生方は、今回の事件を気にしていても、あの考えていただきたい。

    MBSNEWS 【記者会見の全容】「全国霊感商法対策弁護士連絡会」の会見『夫からの暴力』『自己破産』旧統一教会の二世信者も出席し”苦悩” 語る

     渡辺弁護士は「政治家との繋がりがあるから、警察がきちんとした捜査をしてくれない」ということを問題としているのである。

     しかしそういう「ような思い」が統一教会の被害者に「ずっとあると思います」とか、「私どもにもあります」とかいうところをみると、証拠なしに思っているだけではないかと疑われる。

     ちなみに山上被告が同じようなことを語っていたということが伝えられている。

     一方、山上容疑者に誘われて西大寺の飲食店で食事をしたことがあるという男性は、山上容疑者からある悩みを打ち明けられていたという。
    「(略)
     山上さんは続けて、『統一教会は、安倍と関わりが深い。だから、警察も捜査ができないんだ』と、あまり感情を出さない山上さんが、怒りにまかせたように話していました」

    Smart FLASH 安倍元首相銃撃の山上容疑者 優等生バスケ少年を変えた“統一教会で家庭崩壊“…事件前には近隣トラブルで絶叫【原点写真入手】
    https://smart-flash.jp/sociopolitics/190743/1/1/

     たまたま同じようなことを考えたのであろうか? 影響を受けたのであろうか?

     いずれにせよ、渡辺弁護士は山上被告と同じような考えをもっていて、それを推し進めようとしている。望みを叶えようとしているようである。

    郷路征記弁護士

     次に郷路弁護士。

    私達がやっている仕事の限りでは、統一教会は100%の悪であり、山上容疑者のお母さんも、それに発生して、山上容疑者自身も、その限りでは、統一教会との関係に限定すれば100%の被害者です。

    MBSNEWS 【記者会見の全容】「全国霊感商法対策弁護士連絡会」の会見『夫からの暴力』『自己破産』旧統一教会の二世信者も出席し”苦悩” 語る

     「私達がやっている仕事の限りでは」というのは、統一教会から「被害者」、「信者」を救済するという仕事の観点から見る限りでは、ということであろうか。

     しかしそもそも事実が明らかになっていないのに「統一教会は100%の悪であり、山上容疑者のお母さんも、それに発生して、山上容疑者自身も、その限りでは、統一教会との関係に限定すれば100%の被害者です」ときめつけることは、異様である。

     郷路弁護士は、統一教会の信者は皆被害者であるという理解しがたい思想を持っている。

    私達は、山上容疑者のお母さんが脱会してきた場合、そのお母さんの依頼を受けて、お母さんを被害者として、加害者である統一教会に対して損害賠償請求訴訟を提起し、統一教会から、献金として、取られたお金を回収して、それをお母さんにお渡しして、それをもとに、できるのであれば、失われた傷ついた家族の絆を回復していただきたい。失われた人生のいくらかでもとり戻していただきたい。そういった気持ちで仕事をさせていただいています。

    MBSNEWS 【記者会見の全容】「全国霊感商法対策弁護士連絡会」の会見『夫からの暴力』『自己破産』旧統一教会の二世信者も出席し”苦悩” 語る

     現在信者であって統一教会等に対して被害を訴えていない人をも、被害者とすることを考えているのである。そして統一教会を訴えさせることを考えているのである。

     統一教会の信者として満足している人のことを考えていないのである。

     郷路弁護士の「統一教会は100%の悪」ということは、山上被告の考えと同じようである。

     その考えを推し進めることは、犯人の望みを叶えることになるのではないか。

    二世

     記者会見には「顔も声も一切出さない、本日の会見で一切そのその後の取材等もなしという前提」で話をした二世信者が次のように語っている。

    犯人のしたことに関しては、何一つ擁護することもないですし、正しいと思ってもいませんが、ただ、人生を統一教会によって破綻させられた身としては、理解できてしまうという苦しい心情があります。やったことに関しては、私は反対をして、反対というか間違っていると思いますが、それだけ統一教会は人生を破壊します。統一教会に関わってきた人たち、また二世と呼ばれる人たちがどんなに苦しい思いでいるかということも私はよく理解できます。そこの思いがですね、正しい方向に報道されて、今まで放置されてきたこの問題が少しでも解決に向かう方向に進んでいってくれればいいなというふうに思っています

    MBSNEWS 【記者会見の全容】「全国霊感商法対策弁護士連絡会」の会見『夫からの暴力』『自己破産』旧統一教会の二世信者も出席し”苦悩” 語る

     この人も犯人の行為に対して「何一つ擁護することもない」「正しいと思ってもいません」とはじめに言って置いて、それから本題の統一教会非難に移っている。

     犯人の行為について「それだけ統一教会は人生を破壊します」というところは問題がある。

     犯人の行為を、「統一教会は人生を破壊します」ということを示す実例としていることのであるが、そもそも犯人と統一教会の関係は、明らかにされてはいない。

     「統一教会は人生を破壊します」と普遍的なかたちで断言していることも、渡辺弁護士と同様、多様な信者を観察した上で言っているのか、疑われる。

     犯人の行為は、統一教会がどれだけ悪いかを示すことにはならないのであるが、安倍元首相殺害事件では、犯人の行為によって統一教会がどれだけ悪いかを示すということが感情的になされているところがある。

     これも犯人に寄り添うことによって問題をすり替えるものである。

    まとめ

     安倍晋三元首相殺害事件の後、間もなくマスメディアの論調が変わった。

     統一教会を問題とし、統一教会と自民党政治家の関係を問題とする論調になったのである。

     その論調の変化を主張したのが紀藤正樹弁護士と、紀藤弁護士が属する全国霊感商法対策弁護士連絡会であった。

     安倍元首相を銃撃した人物は、統一教会を問題とし、統一教会と安倍元首相の関係を問題としていた。

     その主張が重なる限り、紀藤弁護士と全国霊感商法対策弁護士連絡会は犯人の望みを叶えているということができる。

     ただしその主張は、紀藤弁護士と全国霊感商法対策弁護士連絡会の前から主張であった。自分たちの前からの主張を推し進めたにすぎないというかもしれない。

     いずれにせよ、問題のすり替えによって、秩序を混乱させてその主張を推し進めていることは、注目されなくてはならない。

     その主張は、事件を利用して推し進められている。事件後に彼等がその主張を推し進めることができたのは、事件があったからにちがいない。

     安倍元首相を銃撃した人物が、紀藤弁護士等と同じような主張を持っていたことに関して、その前に紀藤弁護士等の影響を受けていたのではないかということは問題になる。

     犯人は事件後の紀藤弁護士等の動きを期待していなかったか? ということも問題となる。

     前の記事で論じたように、犯人が20年前の統一教会との関係を理由として事件を起こしたことも、統一教会を恨んでいると言いながら関係の明らかではない安倍元首相を殺害したことも、理解に苦しむことである。

     ところが紀藤弁護士等が根拠なく統一教会を事件の原因ときめつけ、安倍元首相と統一教会の関係を事件の原因ときめつけて、そういう論調でマスメディアを導く中で、その理解に苦しむところはそれほど問題とされなくなった。

     安倍元首相殺害事件以後の問題のすり替えは、紀藤弁護士と全国霊感商法対策弁護士連絡会が主導したことである。紀藤弁護士と全国霊感商法対策弁護士連絡会は引き続き統一教会問題を主導している。その間、問題のすり替えは続くのである。

    別れるところ

     ところで紀藤弁護士は、内田樹・白井聡両氏の対談を引用して次のように評している。

     紀藤弁護士の望むものではなかったようである。

     どういうことであろうか?

     紀藤弁護士が「せっかくの論者なのにもったいない」というのは、紀藤弁護士がいいと思う思想を持っている論者であるのに、その対談では紀藤弁護士がいいと思わない主張をしているということであろう。

     たとえば白井聡氏は1年前には次のように語っていた。

    (旧統一教会との関係を騒ぎ立てるのは、安倍氏を銃撃した)山上徹也容疑者の思うつぼだとの批判があるが、暴力でなければ変えられないような状況を私たちが作ってしまった。テロが起きる前に我々の日本社会は腐り切り敗北していた。

    東京新聞 「安倍政権の問題を示す必要ある」 元首相国葬を考えるシンポ、3200人視聴 東大の國分教授研究室が開催

     事件前の日本には「暴力でなければ変えられないような状況」があったとして、統一教会の問題を追及することは「犯人の思う壺」でもいいと語っていた。

     そうして国葬に対して「許してはならない」と主張していた。

     ところがその1年後の対談では、内田樹氏は、犯人に対して、犯人の行為に対して突き放すように語っている。

     内田樹氏は安倍元首相を銃撃した人物に対して、伝統的なテロリストと違って「精神的に未熟」なものとみなしている。そしてそれゆえに「自分の政治的主張を広く世間に伝え」ず、「自分の行動の意味を第三者の解釈に委ねる」と語っている。「どういう意図でやったのかはっきりさせないほうが、いろいろな人がああでもない、こうでもないと仮説を立ててくれる可能性がある。」とも言う。

    https://dot.asahi.com/articles/-/200822?

     内田氏によると、犯人は自分の考えを自分で明らかにすることができないほど「精神的に未熟」で「社会的承認を得たい」という欲求をもった身勝手な人物である。

     統一教会の問題を伝え、統一教会と政治家の関係の問題を伝えた人物という、紀藤弁護士の考えとは違う。1年前の白井氏の考えとも違う。

     内田氏の考えによると、そういう自分の考えを自分で明らかにしない人物に対して、まわりが解釈を加えていることになっている。

     それでは紀藤弁護士等が勝手に解釈を加えて話を進めているということになってしまう。

     ところで、内田氏は、紀藤弁護士と近い思想を持っていると思われたのに、どうして紀藤弁護士から離れた考えを持つようになったのか?

     宮台真司氏襲撃事件を受けて、安倍元首相殺害事件を、内田氏が標的とされる可能性のある流れにあるものとして考え直したのではないかと思われる。

     対談中に内田氏が「安倍さん、岸田さん、宮台さんに対する襲撃」と言っているように、内田氏はその三つの事件に共通することを問題としている。

  • 「犯人の思う壺」? 安倍元首相銃撃事件以後の世の中の動きについての考察 ①犯人の思い

    「犯人の思う壺」? 安倍元首相銃撃事件以後の世の中の動きについての考察 ①犯人の思い

     安倍晋三元首相が銃撃され、死亡した後の日本の社会・政治は、犯人の望みを叶える方向に動いているのではないか? 「犯人の思う壺」になっているのではないか?

     その問題について、詳しく考えてみる。

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     「犯人の思う壺」というのは、犯人の思う通りになることである。

     犯人の望みを叶えるというのは、犯人の望む通りになることである。

     まず「犯人の望み」ということについて考える。

    山上被告の望み

     安倍晋三元首相を銃撃した山上徹也という人物の望みは、必ずしも明らかにされていない。

     そのことに関する言葉はあるが、その言葉によっては必ずしも明らかにされていない。

     その問題に関して、内田樹氏が下の対談で言及している。

    https://dot.asahi.com/articles/-/200822

     内田氏の語ることによりつつ考えてみよう。

    形式

     まず形式。

     内田樹氏が対談で語るように、

     山上被告の言葉の出し方は「自分の行動の意味を第三者の解釈に委ねる」かたちになっている。

     これは「自分の政治的主張を周知する」ことを目的とする伝統的なテロリズムとは異なるかたちである。

    供述

     事件の後、供述が報道された。

     山上被告が語ったことが伝えられたのであるが、そのことは、警察、報道機関を通して世に伝えられた。

     警察とか報道機関に委ねるかたちである。

    手紙

     7月17日、山上被告が事件の前にジャーナリストの米本和弘氏に送った手紙が報道された。

    https://jp.reuters.com/article/idJP2022071701000224

     この手紙は、山上被告が自分の考えをそのまま現わしたものということができる。

     しかし山上被告はこの手紙を米本氏に送っている。―直接世に訴えているのではなく、米本氏に委ねているのである。

     米本氏は7月13日に気づいたといわれている。

     差出人名を記さず、氏名住所の書かれた合意書のコピーを同封したと伝えられているが、そのことも相手に委ねているようである。

    https://www.yomiuri.co.jp/national/20220717-OYT1T50010/

    ツイッターアカウント、書き込み

     山上被告のものとされるツイッターアカウントのツイート、米本氏のブログへの書き込みも見出された。

     しかしいずれも山上被告が事件を起こした自分の主張を明らかにするものとして世の中に訴えた言葉ではない。

    内容

     次に内容。

     山上被告が語った言葉では、犯行の理由は必ずしも明らかにされていない。

     内田氏が語るように「自分自身の言葉で「私はこういう理由でこの行為に至った」という開示をしていない」。

    供述

     まず、報道された山上被告の供述では、山上被告が何故に犯行を決意したのか、よくわからない。

     山上被告は事件後、警察に次のように語ったとされている。

     「安倍元首相ではなく、統一教会のトップ、韓鶴子(ハンハクチャ)総裁を撃ちたかった。でも、コロナで日本に来ないので、統一教会と深い関わりのある安倍元首相を撃ちました」

     弁解録取書が作成されたのは、銃撃からわずか30分後。警察はこの時点で、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への恨みから安倍元首相を襲ったという犯行動機を把握したのだった。

     さらにその日の夕方までの取り調べで、山上容疑者は安倍元首相との「深い関わり」についても詳しく説明していく。「もともと統一教会を日本に引き込んだのは、岸信介元首相だ。ただ、すでに死んでいるので、その孫の安倍元首相を狙った」。教団友好団体のイベントに安倍元首相がビデオメッセージを送ったことも知っていたという。

    朝日新聞 銃撃直後に語っていた「深い関係」 教団名を伏せ続けた警察の内幕

     このような言葉では犯行の理由は理解できず、逆に様々な疑問が生ずる。

    統一教会への恨み

     第一に、犯行動機は「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への恨み」にあるというところ。

     朝日新聞の記事には次のように書かれている。

    教団を恨む原因は、教団の信者になった母親の高額献金で一家の生活が苦しくなったことだった。こうした供述は一貫し、ぶれることがなかった。

    朝日新聞 銃撃直後に語っていた「深い関係」 教団名を伏せ続けた警察の内幕

     しかし「教団の信者になった母親の高額献金で一家の生活が苦しくなった」ということは、事件の20年前のことである。

     20年前のことを理由として事件を起こしたということは、理解に苦しむことである。

    https://www.tokyo-sports.co.jp/articles/-/232836

    山上容疑者にとっては忘れられないことなのだろうが、20年もたってから旧統一教会との関係を理由に安倍氏を銃撃するとは何とも理解に苦しむ。

    東スポ 安倍元首相銃撃の山上容疑者の背後に2つの〝反アベ団体〟か 捜査当局が重大関心

     長い年月をかけた敵討ちの話は古今東西にあるが、いずれも意思はあるのに機会を得るまでに時間がかかった場合である。

     山上被告の場合、20年の間機会が得られなかったとか、20年後にはじめて機会を得たとかいう話は伝えられていない。

     山上被告は、韓鶴子総裁を撃ちたかったが「コロナで日本に来ないので」安倍氏を撃ったと語ったと伝えられている。「コロナ」は2020年からで、「コロナで日本に来ないので」韓総裁を撃つ機会が失われたということは、その犯行の意思は2020年前後からでなくてはならない。

     相手が変わっているのではないか? ということも問題となる。

     20年前の母親の献金に関する統一教会に対する恨みは、20年前の母親の献金に関わった人に対するものである。20年後の統一教会では中の人が変わっているのではないか?

     恨みを韓鶴子総裁に向けることにも疑問がある。 安倍元首相に向けてることにはさらに疑問がある。

     20年の間に母親の献金の返金が行われていることも問題になる。―山上被告の母親は、20年前に破産した後に統一教会から5000万円の返金を受けている。山上被告自身も署名している。

    https://www.yomiuri.co.jp/national/20220821-OYT1T50114/#r1

     返金によって「母親の高額献金で一家の生活が苦しくなった」という状況は変わっているのではないか?

     山上被告も署名したということは、山上被告にとってもそこで問題は解決していたのではないか?

     読売新聞の記事は全国弁連の弁護士の「返金請求を困難にさせる狙いなのは明らか」という言葉を引用している。統一教会が返金すべきであるのに合意書によって相手に請求権を放棄させたというのである。

     山上被告の場合どうであったかわからないが、5000万円の返金がなされて、母親がそれ以上の返金を求めていないと伝えられているが、そういう場合に統一教会にそれ以上の返金義務があるのであろうか?

     いずれにせよ、「母親の高額献金で一家の生活が苦しくなったこと」は統一教会だけによることではなく、信者である母親によることでもある。母親が返金を求めていないとすると母親によることになる。

     それにもかかわらず、山上被告の恨みが統一教会に対してだけ向けられていることも、問題となることである。

    安倍元首相を撃った理由

     次に、統一教会への恨みから「安倍元首相を襲った」というところ。

     安倍氏は統一教会との「深い関わり」があったと山上被告は語ったようであるが、「深い関わり」とは何か、明らかでない。

     「詳しく説明していく」というので、どういうことが明らかにされるかと思っていると、「もともと統一教会を日本に引き込んだのは、岸信介元首相だ。ただ、すでに死んでいるので、その孫の安倍元首相を狙った」というだけである。

     岸氏が「統一教会を日本に引き込んだ」かどうかはさておいて、ここでは岸氏のことが語られているだけである。安倍氏と統一教会との「深い関わり」については何も語られていない。

     岸氏が「すでに死んでいるので、その孫の安倍元首相を狙った」というのは、岸氏に対する恨みから孫の安倍氏を撃ったということであるが、そうだとすると安倍氏を撃つ理由はなかったようである。

     「教団の信者になった母親の高額献金で一家の生活が苦しくなったこと」と安倍氏とはどういう関係があるのか?

    手紙

     山上被告が米本氏に送った手紙を読んでも、どうして犯行を決意したのか、よくわからない。

    統一教会への恨み

     まず統一教会への恨みに関わるところ。

    私と統一教会の因縁は約30年前に遡ります。
    母の入信から億を超える金銭の浪費、家庭崩壊、破産、、、
    この経験と共に私の10代は過ぎ去りました。
    その間の経験は私の一生を歪ませ続けたと言って過言ではありません。

    個人が自分の人格と人生を形作っていくその過程、
    私にとってそれは、
    親が子を、家族を、何とも思わない故に吐ける嘘、
    止める術のない確信に満ちた悪行、
    故に終わる事のない衝突、その先にある破壊。

    REUTERS 元首相銃撃、手紙で示唆か

     10代のころのことで統一教会を恨んでいるようである。

     しかしそれだけでは、40代になって犯行を決意した理由はよくわからない。

    安倍氏を撃った理由

     安倍氏を撃ったことに関しては次のような言葉がある。

    苦々しく思っていましたが、安倍は本来の敵ではないのです。
    あくまでも現実世界で最も影響力のある統一教会のシンパの一人に過ぎません。

    REUTERS 元首相銃撃、手紙で示唆か

     ここでも「本来の敵ではない」という安倍氏を銃撃したのは何故か? という大きな問題が明らかにされないままになっている。

     多くの人は行間を読み込んでいるが、本人は明らかにしていない。

    犯行

     この手紙では、肝心の犯行についても明確に書いていない。暗示するような書き方をしている。

    安倍の死がもたらす政治的意味、結果
    最早それを考える余裕は私にはありません。

    REUTERS 元首相銃撃、手紙で示唆か

     読売新聞の記事も「手紙には「安倍(元首相)の死」という文言があるが、犯行を示唆しつつも明確に予告しているわけではなく、不可解な点もある」と書いている。

    https://www.yomiuri.co.jp/national/20220718-OYT1T50064/

    まとめ

     山上被告の言葉から次の要素を取り出すことができる。

    ・20年以上前の統一教会との関係による苦しみ

    ・文鮮明氏の一族に対する犯行の意思

    ・安倍氏に対する犯行

     山上被告は、20年以上前の統一教会との関係による苦しみから統一教会に対して恨みを抱いていた。その恨みから文鮮明氏の一族に対する犯行を企てていたが、結局安倍氏に対する犯行を決意した、というのである。

     しかし、

     20年以上前の苦しみからその20年後に犯行を決意した、ということは理解に苦しむことである。

     統一教会に対する恨みから安倍氏に対する犯行を決意した、ということも理解に苦しむことである。

     そういう理解に苦しむことを山上はそのまま投げ出している。

    20年の問題

     山上被告が20年前のことを持ち出して統一教会に対する恨みを述べていることについて、考えてみよう。

    私怨と義憤

     白井聡氏は次のように語っている。

    山上被告がツイッターなどに書き込んだ内容を読むと、個人として統一教会を恨んでいただけでなく、より普遍的な見地から同教団の反社会性を絶対に許せないという思いが滲んでいます。

    AERAdot. 「政治的テロリズム」よりも「社会的承認」 安部元首相殺傷事件から変わった権威に対する暴力の動機

     山上被告の書いたことの中には二つのことがあるというのである。

    ・統一教会に対する個人的な恨み

    ・より普遍的な見地から許せないという思い

     私怨もあるが義憤もある、ということである。

     そのことは、山上被告が事件前に米本和弘氏に送った手紙にもみることができる。

    私と統一教会の因縁は約30年前に遡ります。
    母の入信から億を超える金銭の浪費、家庭崩壊、破産、、、
    この経験と共に私の10代は過ぎ去りました。
    その間の経験は私の一生を歪ませ続けたと言って過言ではありません。

    REUTERS 元首相銃撃、手紙で示唆か

     というところは「個人として統一教会を恨んでいた」ことを現わすところ。

     それに対して、

    世界の中の金と女は本来全て自分のものだと疑わず、
    その現実化に手段も結果も問わない自称現人神。

    私はそのような人間、それを現に神と崇める集団、それが存在する社会、
    それらを「人類の恥」と書きましたが、今もそれは変わりません。

    REUTERS 元首相銃撃、手紙で示唆か

     というところは「より普遍的な見地から同教団の反社会性を絶対に許せないという思い」のようである。

     内田樹氏は、テロリストは「自分の言いたいことのほとんどを諦めて、政治的意図だけに限定する」ものであるとして、山上被告のように「トラウマがどうしたというような個人史的な事情なんかをつらつらと書き連ねる」ものには「テロリストの資格はない」というように語っている。

     「政治的意図だけに限定する」というのは、義憤に限定することである。

     「トラウマがどうしたというような個人史的な事情なんかをつらつらと書き連ねる」というのは、私怨を述べることである。

     テロリストは義憤から事をなすものである。それに対して山上被告は私怨を述べているのでテロリストではない、というのである。

     しかし白井氏が言うように、山上被告は私怨も義憤も持っている。

     テロリストと対立する類型というより、テロリストと異なるところと同じところとを合わせもった類型とみるべきではないか。

    飛躍

     山上被告の義憤、「より普遍的な見地から同教団の反社会性を絶対に許せないという思い」には、飛躍がある。

     山上被告は米本氏のブログへの書き込み(2020年9月7日)に「統一さんは既に統一教会の奴隷」と書いている。そして統一教会は「文一族による人類奴隷化計画」だと語っている。

    まさか統一教会が文一族による人類奴隷化計画だというのが陰謀論だとおっしゃる訳ではないでしょう?(笑)

    あと10年をポジティブに生きる記録 [2020/09/07 11:34] まだ足りない
    http://yonemoto.blog63.fc2.com/blog-entry-1170.html#comment_list

     統一教会が滅ぶことが「全ての統一教会に関わる者の解放」というのは、統一教会は信者を奴隷にするという考えによることであろう。

    必要なのは許す事でも忘れる事でもない。
    彼等の罪を償わせ切ること。
    (中略)

    統一教会が滅んで悲しむのはこの世に害なす事が生き甲斐の者しかいない。
    何の遠慮がいろうか?

    我、一命を賭して全ての統一教会に関わる者の解放者とならん

    あと10年をポジティブに生きる記録 2020/12/12 23:41 まだ足りない
    http://yonemoto.blog63.fc2.com/blog-entry-1188.html#comment_list

     (「まだ足りない」のところにプロトンメールへのリンクがある)

     統一教会は「文一族による人類奴隷化計画」という思想は、山上被告自身の経験から飛躍していている。

     山上被告の経験では山上被告の母親は自主的に統一教会を信仰していた。しかし統一教会は「文一族による人類奴隷化計画」という思想では、奴隷にされたもの、自主性をなくされたものとされる。

     その飛躍によってすべての信者は奴隷とされ、自主性のないものとされ、そういう山上被告によって解放されるものとされる。

     これは他の人の自主性を認めない思想である。

     他の人の自主性によって行われていることを理解しない思想である。

     そういう思想では、自分の母親も自主性をもっていないことにされる。

     山上被告の「より普遍的な見地から同教団の反社会性を絶対に許せないという思い」はこういうものであった。

     普遍的であるかのようなかたちをとっているが、一人よがりになっている。義憤のかたちをとっているが、私怨になっている。

     山上被告は9月7日の書き込みで、「文一族による人類奴隷化計画」という山上被告の主張は陰謀論ではない、と笑っている。

     しかし具体的な現象の背後に単純な原因があると論証もなくきめつけて、その「原因」によって具体的な現象を説明する陰謀論である。

     山上被告は2020年にはそういう思想を持っていた。

     米本氏に送った手紙にもそういう思想が示されている。文鮮明氏一族に対する殺意はそういう思想からきている。

     安倍氏に対する犯行もそういう思想からきているようである。

     山上被告がいつどうしてそういう思想を自分のものとしたのか、よくわからない。

     「世界日報」の記事は、2005年から返金のことで山上家を訪れ山上被告と交流があった奈良の教会の元幹部の「教会に対する反発は当然ありました。しかし自分が教会を潰しに掛かろうと思っていたわけではないと思う」という言葉を載せている。

     その交流は2009年まで続いたという。

     早くからもっていたかもしれないが、2009年以後に凝り固まっていったものではないかと思われる。

     山上被告がその後に統一教会について語ること、自分と統一教会の因縁について語ることは、そういう飛躍した思想によってである。

    「精神的に未熟」?

     内田樹氏は、山上被告は「精神的に未熟」であった、とみなしている。

    自分の意図を適切に伝えるような言葉を持っていなかった。それだけ精神的に未熟だったということです。

    AERAdot. 「政治的テロリズム」よりも「社会的承認」 安部元首相殺傷事件から変わった権威に対する暴力の動機

     古来のテロリストは「わずかな文字数のうちに自分の意図を誤解の余地なく書く」という「かなりの知的な成熟」を備えていた。

     山上被告はそういう「知的な成熟」を備えておらず、「精神的に未熟」であったというのである。

     山上被告は自分の意図を明らかにしないことによる効果を考えている可能性があるとも内田氏は語っている。

    どういう意図でやったのかはっきりさせないほうが、いろいろな人がああでもない、こうでもないと仮説を立ててくれる可能性がある。

    AERAdot. 「政治的テロリズム」よりも「社会的承認」 安部元首相殺傷事件から変わった権威に対する暴力の動機

     そのことを考えてやっているというのである。

     内田氏は、山上被告はそのことを「無意識的な計算」によってやっていると語る。

    行動の意図を明らかにしない方がむしろ効果的だという無意識的な計算が働いている。

    AERAdot. 「政治的テロリズム」よりも「社会的承認」 安部元首相殺傷事件から変わった権威に対する暴力の動機

     「無意識的な計算」ということは「精神的に未熟」であることからきていることのようである。

     しかし山上被告は「意識的な計算」によってやっているかもしれない。

     内田氏は山上被告が自分の意図を適切に伝えないことの効果は「被言及回数が増える」ことにあるという。そうして「社会的承認を得たい」とか「集団的記憶に自分の名前を刻み込みたい」とかいう欲求を満足させようとしたというのである。

     実際には、山上被告を被害者と見て手を差し伸べようとする動きが起こっている。

     山上被告の表現によってそういう効果が生じている。

    減刑を求める声

     「女性自身」の2022年9月8日の記事。

     山上被告の境遇に同情し、山上被告を被害者として、減刑を求める声が報道されている。

     上の記事では、そういう動きに対して嫌悪感を示す声をも取り上げている。

     内田樹氏もその嫌悪感に近い考えを持っているようである。

     内田氏は、上に取り上げた対談において、テロリストの条件として「その代償として自分の命を差し出す」ことを挙げて、山上被告にはそのことがないゆえにテロリストの条件を満たしていないと語っている。

    自分の行為の意味を明らかにして、かつ自分が殺す相手の命と引き換えに自分も死ぬという覚悟がない行動を「政治的テロリズム」と呼ぶわけにはゆかない。仮に行為の政治的目的が開示されていたとしても、相手を殺すだけで自分は生き延びるつもりなら、それはただの「暴力」です。独裁者が反対派を虐殺するのと変わらない。

    AERAdot. 「政治的テロリズム」よりも「社会的承認」 安部元首相殺傷事件から変わった権威に対する暴力の動機

     「ただの「暴力」」「独裁者が反対派を虐殺するのと変わらない」などと厳しく批判している。

     山上被告自身が厳刑、「生き延びる」ことを求めているかどうか、わからないが、山上被告の減刑を求める人は、山上被告が「生き延びる」ことを求めるのである。

     山上被告を被害者として生き延びさせようとする動きは、山上被告の暴力を無視、あるいは軽視しているのではないか、という問題を内田氏は出しているのである。

     内田氏はまた次のように言う。

    政治的テロリズムというのは、自分の政治的主張を広く世間に伝え、それを実現する合法的な手立てが他にないので、最後の手段として暴力を選ぶというもののはずです。だから、刑事罰を受ける覚悟で行なう。

    AERAdot. 「政治的テロリズム」よりも「社会的承認」 安部元首相殺傷事件から変わった権威に対する暴力の動機

     ここでも山上被告に「自分が殺す相手の命と引き換えに自分も死ぬという覚悟」がないことを問題としているのであるが、ここでは自分の主張を「実現する合法的な手立てが他にないので、最後の手段として」ということを「政治的テロリズム」の条件としている。

     山上被告が暴力を用いる時に「実現する合法的な手立てが他にない」状況があったかどうかという問題を内田氏は出しているのである。

     2022年6月12日、安倍晋三元首相銃撃事件の第1回公判前整理手続きが行われることになっていたが、不審物が届いたとして奈良地裁は手続きを中止した。

    https://jp.reuters.com/article/idJP2023061301000022

     量刑の減軽を求める署名を入れた段ボール箱1箱が不審物と見なされて、手続きは中止されたのである。

     6月12日の公判前整理手続きには山上被告も出席する予定であった。

     第1回公判前整理手続きは10月13日に行われたが、山上被告は出席しなかった。弁護団に対し「手続きに自分が出席しようとしたことで騒ぎになった。次回以降出席するかどうか、よく考えたい」と話していたという。

    https://www.asahi.com/articles/ASRBF3D05RBCPTIL017.html

     山上被告の減刑を求める動きによって、山上被告その人が表に出ず裏に隠れることになる、ということは、事件後に起こったことを象徴することである。

    参観日

     「精神的に未熟」ということに関して、山上被告の言葉で気になるものをとりあげる。

     共同通信の2022年12月7日の記事では、授業参観に関する山上被告の言葉を伝えている。

     安倍晋三元首相の銃撃事件で、殺人容疑で送検され鑑定留置中の山上徹也容疑者(42)が「母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の用事に行って授業参観に来なかった」などと、精神鑑定の担当医に少年期の不満を漏らしていることが7日、関係者への取材で分かった。

    共同通信 「母が参観来ず」と容疑者不満
    https://jp.reuters.com/article/idJP2022120701001005

     山上被告の母は統一教会のために子供の養育をおろそかにしたと言われている。

     そのことで山上被告は統一教会を恨んだと言われている。

     「母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の用事に行って授業参観に来なかった」ということは、その例のようである。

     しかし山上被告の母親が統一教会に入信したのは山上被告が10代の時である。

     10代で母親が授業参観に来ないことのために統一教会を恨んだというのは、異常ではないかと思われる。

     それとも実際はそうではなかったのであろうか?

    大学

     次にNHKの1月13日の、山上被告が服役したあとは「大学へ行きたい」と言ったという記事。

    https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20230113/2000069873.html

     山上被告は「母親が旧統一教会、「世界平和統一家庭連合」に入信し多額の献金をしたことなどで、家庭が困窮し大学に進学できなかった」と言われている。

     大学に進学したかったにもかかわらず、統一教会のために進学できなかった。そこで服役したあとに大学へ行きたいというのである。

     拘置所では大学に行くための勉強をしていたという。

    今月10日まで、鑑定留置が行われた大阪拘置所では、大学に行くための勉強をして過ごし、親族からは英語の資格の教材や英和辞典が差し入れられ、特に英語に力を入れて学んでいたということです。

    NHK 安倍元首相銃撃事件 被告“服役したあとは大学へ行きたい”

     まず、内田樹氏の「相手を殺すだけで自分は生き延びるつもりなら、それはただの「暴力」です」という批判が問題となる。

     次に、山上被告が20年前に大学に進学できず、服役した後に大学に行きたいということは、20年の間大学に行きたかったということのようであるが、それほど大学に行きたかったという人が、20年の間大学に行かなかったのは何故か? という問題がある。

     服役した後には、その20年の間より状況はよくなっているのか?

     記事によると、「服役後の費用として使ってください」などとして金が送られて、2022年10月までに100万円を超えていたというが、そういうことで状況はよくなっているのか?

     山上被告が大学に進学できなかった時から間もない時に大学に行きたいと言っているとすると、理解できるかもしれない。

     ただしこの記事で山上被告が言ったとされている言葉は、山上被告の伯父が言ったことであるかもしれない。

    若く見える?

     事件の後、山上被告は何度かテレビに出たが、いつも前髪で額を覆うような髪型にしていた。

     前髪で額を覆う髪型は、初期のビートルズと同じように、若く見えるという効果がある。

     意識してそうしているのか、無意識にそうしているのか、わからない。

     山上被告が若く見えれば見えるほど、10代の統一教会との経験は近いことのように思われる。

     若く見えれば見えるほど、周りが手を差し伸べなくてはならない未成年のように見えるかもしれない。

    切迫感

     山上被告が米本氏に送った手紙の最後の言葉。

    安倍の死がもたらす政治的意味、結果
    最早それを考える余裕は私にはありません。

    REUTERS 元首相銃撃、手紙で示唆か

     ここで余裕がないという言葉が何のことを言っているのか、明らかではない。

     しかし余裕がないということは、追い詰められているということである。

     何かよくわからないが、犯行の前に追い詰められているというのである。

     被害者であるかのような印象を与える言葉である。

    まとめ

     山上被告の望み、思いは明らかにされていない。

     統一教会に対する恨みということは、了解できないことではない。

     しかし40代の人物が自分の10代の時のことを理由として恨みを晴らすということは、了解しがたいことであるのに、そのことについての説明はない。

     山上被告には、私怨だけでなく義憤もあったようである。統一教会には普遍的な観点から問題があるとして、その問題の解決を考えたというのである。

     しかしその義憤にも説明が欠けている。

     統一教会には普遍的な見地から問題があるというには、統一教会に対する客観的な分析がなくてはならない。

     山上被告が持っているのは統一教会は「文一族による人類奴隷化計画」という陰謀論のような思想である。

     そういう思想では、山上被告は母親のことも理解できないであろう。

     山上被告は近年母親からか離れていたと言われている。統一教会から離れて行きながら、近年の統一教会の実情を知ることができたのであろうか?

     統一教会の相談件数は近年減ってきているのに、減る前に事件を起こさずに、減った後に事件を起こしていることも、奇妙である。

     統一教会は「文一族による人類奴隷化計画」という陰謀論のような思想においては、信者の具体的な姿も、時間も、問題とならないということであろうか?

     山上被告が何故に安倍元首相を銃撃したのか、ということも説明が欠けている。

     安倍氏と統一教会の関係を問題としたようであるが、何を問題としたのか、よくわからない。

     あれだけ大きな事件を起こしたのに、理由がよくわからないというのは奇妙なことである。

     このように山上被告の望み、思いは明らかではない。

     内田樹氏が言うように伝統的なテロリストと違うのである。したがってその望みを叶えるということも、違うかたちになる。

     たとえば五・一五事件は伝統的なテロリストによるものであって、専ら義憤によってなされている。そしてその述べた明確な政治的主張が人を動かしたのである。

     それに対して山上被告の言葉は私怨と義憤が混在したものである。

     まず私怨における被害の主張に対して救わなくてはならないという声が出てきた。

     そして義憤における、統一教会は「文一族による人類奴隷化計画」とか、安倍氏と統一教会の関係とかいう根拠のない陰謀論が推し進められた。

     次に、犯人の望みを叶えていると言われる動きの中で重要な人物について考える↓