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  • 【映画】若大将シリーズ ~1960年代の日本の青春~

    【映画】若大将シリーズ ~1960年代の日本の青春~

     1961年に公開された映画「大学の若大将」をはじめとして次々と作られた「若大将」の映画は、1960年代の東宝を代表するものとなった。

     「若大将」シリーズでは、1960年代の大学生の明るく楽しい生活や恋愛が、リゾート地などを背景として描かれている。ビートルズなど、当時の流行の最先端がとりいれられている。(敬称略)


    大学の若大将

    若大将シリーズの映画

    PIRO4DによるPixabayからの画像

     「若大将」シリーズは、1961年に公開された映画「大学の若大将」から始まった。

     それから1971年に公開された映画「若大将対青大将」まで16本作られた。

     「歌う若大将」も入れると17本。―「歌う若大将」は日劇での「加山雄三ショー」。

     その後、1970年代中頃に草刈正雄主演で2本作られた。

     1981年には加山雄三主演で1本作られた。

    大学の若大将

     第1作。

     1961年7月8日公開。

     題名の通り大学の話であるが、芦ノ湖も舞台になる。

     若大将は大学の水泳の選手。


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    銀座の若大将

     1962年2月10日公開。

     前作同様大学生の話であるが、題名の通り銀座も舞台になる。

     この映画で若大将がやるのは拳闘。


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    日本一の若大将

     1962年7月14日公開。

     若大将は大学のマラソンの選手。


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    ハワイの若大将

     1963年8月11日公開。

     題名の通りハワイが舞台。


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    海の若大将

     1965年8月8日公開。

     若大将は大学の水泳の選手。

     映画の中ほどで八丈島に行こうとして遭難する。


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    エレキの若大将

     1965年12月19日公開。

     若大将は大学のアメリカンフットボールの選手。

     エレキ合戦に出場する。


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    アルプスの若大将

     1965年5月28日公開。

     題名の通りアルプスから始まる。

     若大将は大学のスキーの選手。


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    歌う若大将

     1966年9月10日公開。

     日劇での「加山雄三ショー」。


    歌う若大将

    レッツゴー!若大将

     1967年1月1日公開。

     若大将は大学のサッカーの選手。


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    南太平洋の若大将

     1968年7月1日公開。

     ハワイから始まる。

     若大将は大学の柔道の選手。


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    ゴー!ゴー!若大将

     1967年12月31日公開。

     若大将は大学の駅伝の選手。

     カーレースも。


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    リオの若大将

     1968年7月13日公開。

     題名の通りブラジルが舞台になる。

     若大将は大学のフェンシングの選手。


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    フレッシュマン若大将

     1969年1月1日公開。

     若大将が就職する。

     ヒロインは酒井和歌子。


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    ニュージーランドの若大将

     1969年7月12日公開。

     オーストラリアで始まって、日本に帰ってきて、ニュージーランドに行く。

     若大将は会社員で、ヒロインは酒井和歌子。


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    ブラボー!若大将

     1970年1月1日公開。

     若大将は会社員で、ヒロインは酒井和歌子。

     大学の後輩(大矢茂)が登場。


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    俺の空だぜ!若大将

     1970年8月14日公開。

     若大将の指導を受けて後輩(大矢茂)がスカイダイビング。


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    若大将対青大将

     1971年1月9日公開。

     青大将が大学を卒業して就職。

     若大将は加山雄三から大矢茂へ。

     オートバイ。


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    がんばれ!若大将

     1975年7月12日公開。

     草刈正雄主演。

     アメリカンフットボール。


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    激突!若大将

     1976年5月29日公開。

     草刈正雄主演。

     アイスホッケー。


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    帰ってきた若大将

     1981年2月11日公開。

     加山雄三主演。


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    「若大将」シリーズの特徴

    キャンパス

     主人公の田沼雄一(加山雄三)は大学生である。

     主人公の家はすきやき屋「田能久」をやっている。祖母(飯田蝶子)、父(有島一郎)、妹(中真千子)がいる。

     主人公は大学でスポーツをやっている。優秀な選手である。

     大学には主人公と対立する青大将(田中邦衛)がいる。

     主人公は、働く女性澄子(星由里子)と出会う。

     田沼雄一と澄子は、互いに好意を持つが、思いはすれ違う。どうなるか? という話である。

     「若大将」シリーズのそれぞれの話は連続していない。

     話によって、主人公が大学でやるスポーツ、澄子(節子)との関係、青大将との関係、その他の人間関係が違う。舞台も違う。

     主人公の田沼雄一はそれぞれの話において初めてヒロインの澄子(節子)と出会うのである。

     ただし連続しているところもある。


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    配役

     「若大将」シリーズは、配役がいいと言われている。

     第一に主役の若大将。加山雄三に合わせて作られたと言われているように、その育ちの良さとか、正義感とか、スポーツの技量とか、音楽の才能とか、個性が生かされている。

     若大将と対立する青大将役の田中邦衛のコミカルな演技はこのシリーズの見どころである。田中邦衛の幅広い芸歴の中でコミカルな演技の代表的なものである。若大将や澄子とのやりとりも面白い。

     ヒロインの星由里子は、髪型も服装も60年代の明るい都会的な女性を代表しているようである。(星由里子はその後に東映の任侠映画のヒロインも演じているが、対照的)


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     若大将の家族も印象的である。

     孫の若大将に優しい、感じのいいおばあさん(飯田蝶子)

     息子の若大将に対して厳しいがコミカルでもある父親(有島一郎)

     可愛い妹(中真千子)

     若大将の大学のマネージャー江口(江原達怡)のわがままだが憎めない感じ。

     その他にもそれぞれの作品に出て来る人がいる。

    恋愛

     「若大将」シリーズは、恋愛が中心にある。

     若大将は澄子と出会って、互いに好意を持つが、すれ違ってうまくいかない、という話が映画の中心にある。

     「若大将」シリーズの恋愛は、深入りしない。

     脚本家の田波靖男によると、5作目の「海の若大将」でベッド・シーンを入れようとしたが、プロデューサーの藤本真澄が反対したので、「若大将と澄ちゃんの仲はプラトニックな恋に戻った」という。(「映画が夢を語れたとき」、101~104頁)

     その時に藤本真澄は次のように言ったという。

    これはシンキくさい文芸作品じゃないんだ。スカッといかなきゃ。若大将にはハートの悩みがあってもよいが、下半身の悩みはいらん

    「映画が夢を語れたとき」、102頁

    映画が夢を語れたとき―みんな「若大将」だった。「クレージー」だった。

    親子

     「若大将」シリーズでは、もう一つ、親子の対立が描かれている。

     若大将はいつも誤解によって父親から勘当される、という話になっている。

     親子の対立、世代の対立が描かれているのであるが、コミカルに描かれているのでもある。

    海外ロケ

     「若大将」シリーズでは「ハワイの若大将」以降、海外ロケが多い。


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     プロデューサーの藤本真澄に次のような考えがあったと脚本の田波靖男は語っている。

    第三作『日本一の若大将』のヒットに自信を深めた藤本は『ハワイの若大将』をB級の娯楽映画から、ハワイ・ロケを行うことにより、A級の娯楽大作にしようともくろんでいた。

    「映画が夢を語れたとき」、広美、1997年、79頁

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    黒澤明監督の「赤ひげ」

     「若大将」シリーズは、4作目の「ハワイの若大将」と5作目の「海の若大将」の間が空いている。1964年に一本も公開されていない。

     1965年に公開された黒澤明監督の映画「赤ひげ」で加山雄三が重要な役を演ずることになって、そのために「若大将」シリーズはできなくなったのである。


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    社会人編

     1969年の「フレッシュマン若大将」で主人公田沼雄一は社会人になっている。


    フレッシュマン若大将

     主人公を演じた加山雄三の年齢が30を超えて大学生の役ができなくなったことによるという。

     ヒロインも酒井和歌子にかわっている。


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    1970年代中頃

     「若大将」シリーズは、1971年の「若大将対青大将」で一度途切れている。

     ところが1970年代中頃にまた人気になったと言われている。

     「ムービーマガジン」1976年6号にも「「若大将シリーズ」の五本立オールナイトが、若い観客で満員だという」とある。(同、30頁)

     草刈正雄主演の「若大将」シリーズは、それゆえに作られたようである。

     がんばれ! 若大将。


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     激突! 若大将。


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    「若大将」シリーズに近い作品

     「若大将」シリーズの間に、加山雄三主演で「若大将」シリーズに近い作品が作られている。

    お嫁においで

     1966年に公開された映画「お嫁においで」は、加山雄三主演で、加山雄三作曲の「お嫁においで」という楽曲をもとにした作品である。ヒロインは「海の若大将」に登場した沢井桂子。


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    兄貴の恋人

     1968年に公開された映画「兄貴の恋人」は、加山雄三主演で、ヒロインは「フレッシュマン若大将」と同じ酒井和歌子。この作品では「若大将」シリーズに出ていない内藤洋子が重要な役になっている。


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    「若大将」シリーズと「若者文化」

    Photo by Mick Haupt on Unsplash

     「若大将」シリーズには、第二次世界大戦後の「若者文化」がとりいれられているということができる。

     「若者文化」とは、1950年代のアメリカで、ジェームズ・ディーンの映画、エルヴィス・プレスリーの音楽など、若者を代表するものとして出てきたものである。

     日本でも1950年代中頃に、石原慎太郎の小説、石原裕次郎の映画などが出てきた。

     「若大将」シリーズは、1960年代に「若者文化」をとりいれたものとして作られていたということができる。

    親との対立

     まず形式からいうと、「若大将」シリーズでは毎回、大学生の主人公田沼雄一(加山雄三)と父親(有島一郎)の対立が描かれている。主人公はいつも父親に勘当されている。

     脚本を担当した田波靖男によると、「世代間の対立」はプロデューサーの藤本真澄が提案したことであった。

    藤本が提起した、世代間の葛藤というテーマは、若大将シリーズを通して、ドラマを生み出す起爆力となった。

    「映画が夢を語れたとき」、18頁

     このように親子の対立、「世代間の対立」を描くことは、「若者文化」に共通することである。

    批判

     ただし「若大将」シリーズで描かれている「対立」は、「若者文化」としては弱いと批判されることもある。

    ・もともと「若大将」シリーズはコミカルな作品であるから、そこで描かれる「対立」はそれほど深刻なものではない。

    ・はじめから、おばあちゃんが「自分の息子より、孫の方をひいきにしていて、若大将が親父と対立すると、いつでも味方をしてくれる」というように考えられていた。(「映画が夢を語れたとき」、18頁)

     脚本を担当した田波靖男は「若大将」の「絵に描いたように立派な人物像のゆえに、そのキャラクターは体制派が期待する、模範青年だったと揶揄する向きもあった」と語っている。(「映画が夢を語れたとき」、100頁)

     1965年正月に中教審が発表した「期待される人間像」と関係づけて批判されたともいう。

     田波靖男は「ムービーマガジン」1976年6号では次のように言っている。

    当時(今でもそうだが)批評家連中の好みの青年像は、ジェームス・ディーンや石原裕次郎に代表される反抗する若者であった。だから若大将のようなキャラクターは、青春映画の主人公としては、古くさく、むしろ反主流派だったのである。

    「ムービーマガジン」1976年6号、30~31頁

     若大将は、「ジェームス・ディーンや石原裕次郎に代表される反抗する若者」と比較されて、批判されたというのである。

    二つの類型

     青春ものの二つの類型を考えることができる。

     一つは、「ジェームス・ディーンや石原裕次郎に代表される反抗する若者」である。

     もう一つは、「若大将」のように、反抗を深刻にしない若者である。

     前者は1950年代に流行し、後者は1960年代に流行した。

     そのことはそれぞれの時代を現わしているかもしれない。

    楽しむ若者

     「若大将」シリーズは、生活を楽しむ若者を描いている。

     主人公の若大将は音楽を楽しみ、スポーツを楽しみ、恋愛を楽しみ、家族関係を楽しんでいる。

    加山雄三の個性

     「若大将」シリーズは、主人公の加山雄三に合わせて作られていた。

     プロデューサーの藤本真澄は脚本家の笠原良三と田波靖男に「加山の魅力を充分売り出せるような映画にしたいんだ」と言って、「今日は加山を呼んであるから、彼の話を聞いて、人物のイメージをつかんでくれ」と言ったという。(「映画が夢を語れたとき」、14~16頁)

     それゆえに、「若大将」シリーズの中にとりいれられた「若者文化」は、加山雄三という人物の個性によるところが大きいのである。

    性格

     「若大将」シリーズの脚本を担当した田波靖男は、「若大将」シリーズの主人公田沼雄一の性格について次のように語っている。

    青年らしい正義感、育ちのよい坊ちゃん気質、人の好い純情さ、スポーツマンライクなひたむきさ、自らの唄に酔うナルシズム、そして茶目っ気のある謀反気などが、主人公のかかえている性格として、彼の劇中における価値観や行動原理を支えることになった

    「ムービーマガジン」1976年6号、30頁

     このような主人公の性格は、加山雄三をもとにして作られたものである。

     そしてそのことによって「ジェームス・ディーンや石原裕次郎に代表される反抗する若者」とは異なる「若者」像になったのである。

    音楽

     「若大将」シリーズの主人公は、加山雄三をもとにして、ギターを弾いて歌を歌うものとされた。そしてそういうかたちで「若者文化」がとりいれられた。

     「エレキの若大将」では、ビートルズが流行している時に行われたエレキ合戦が描かれている。

     ところで加山雄三は、自ら歌を作る人でもあった。

     加山雄三は「若大将の履歴書」において、「僕が音楽面で影響を受けたのはエルビス・プレスリー、ベンチャーズ、ビートルズ」と語っている。(「若大将の履歴書」、116頁)
     そういう「若者文化」の影響を受けて歌を作る人であった。


    若大将の履歴書

     そういう加山雄三(弾厚作)の作曲した楽曲が、「ハワイの若大将」から「若大将」シリーズにとりいれられた。そしてその歌が大変に売れた。

     「若大将の履歴書」では、それまで「新人歌手は専属作家の作品を歌うことになっていた」が、「僕が自作自演の歌手としてレコードデビューし、成功したことは、歌謡界の慣習を打ち破るきっかけになったともいわれる」と語っている。(「若大将の履歴書」、101頁)


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    文化功労章

     令和三年、加山雄三は文化功労者に選ばれた。

    https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2021/attach/1422025_00002.htm

    http://www.kayamayuzo.com/news/detail.php?id=1635154431

    https://www.fnn.jp/articles/-/264706

    歴史

    1930年代

     若大将シリーズは、1930年代の若旦那ものを時代に合うようにするという考えから始まっている。

     1933年の「大学の若旦那」。


    大学の若旦那 [VHS]

     1930年代の松竹の都会風コメディである。

    1980年代

    Photo by Clint Adair on Unsplash

     「若大将」シリーズはその後の時代に影響を与えている。

    私をスキーに連れてって

     1987年に公開された映画「私をスキーに連れてって」は1980年代を代表する作品であるが、「若大将」シリーズに影響を受けている。特に「アルプスの若大将」の影響を受けているようである。

     そのことは、「私をスキーに連れてって」のオーディオコメンタリーでも言われている。

     「私をスキーに連れてって」の馬場康夫監督は「若大将」シリーズのオーディオコメンタリーで「若大将」シリーズに対する思い入れを語っている。


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    共通するところ

     スキー場のようなリゾート地での若者の恋愛を軽く明るく描くところは共通している。

     いずれも、明るく楽しい生活を描いている。

     そういうことでは、「私をスキーに連れてって」の後に出来た「トレンディドラマ」もその系統にあるということができるかもしれない。

    異なるところ

     「私をスキーに連れてって」の主人公の性格は、「若大将」シリーズの主人公の性格と違う。

    ・「若大将」シリーズの主人公には、抜けたところもあるが、「理想的なヒーロー」であり、「スーパーマン」である。―正義感があって、その正義感によって人を助けることができるだけの腕力を持っている。女性にもてている。スポーツの能力は抜群、音楽の才能も抜群である。

    ・「私をスキーに連れてって」の主人公は、スキーの腕は優れているが、仕事は必ずしもうまくいっておらず、女性にもててもいない。

     このように主人公の性格が違うことは、それぞれの時代の違いを現わすことと思われる。

     また、「若大将」シリーズのオーディオコメンタリーで言われているように、後の時代では青大将の方がもてるのではないか、ということも、両者の違いをあらわすことと思われる。

    時代

     「私をスキーに連れてって」の脚本を担当した一色伸幸は、「私をスキーに連れてって」はその前の世代へのアンチテーゼとして作られたと語っている。

     「私をスキーに連れてって」の前には、「キレ」る「青春ドラマ」があった。「私をスキーに連れてって」の「いつも楽しんでいる」青春は、それに対するアンチテーゼであった。

     私の考えでは、1970年前後に「団塊の世代」の文化があった。「私をスキーに連れてって」に代表される1980年代の文化はそれに対するアンチテーゼであった。そしてそれは1960年代の「若大将」シリーズに影響を受けたものであった。

     1970年前後の「団塊の世代」の文化の前に、それと異なる「若大将」シリーズのような文化があったのである。

     1960年代の「若大将」シリーズもまた、田波靖男が言うように、1950年代の「若者文化」と対立するものとして批判されていた。

    訃報

    2021年

     2021年春に「若大将」シリーズ出演者の訃報が相次いだ。

    田中邦衛

     2021年4月2日、「若大将」シリーズで青大将を演じた田中邦衛さんが亡くなった。88歳であった。

    https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210402/k10012953271000.html

     加山雄三さんはオフィシャルサイトにそのことについてのコメントを出している。

    http://www.kayamayuzo.com/news/detail.php?id=1617357399

     その中に「不思議なことに、2 日前若大将の DVD で邦さんの姿を見たばかりだったんだよ。」という言葉があって、田中邦衛さんに対する加山雄三さんの想いを知るとともに、私が「若大将」シリーズをDVDで観たのと同じ時に加山雄三さんが「若大将」シリーズをDVDで観ていたことを知って、ほっこりした。

    江原達怡

     2021年5月1日、「若大将」シリーズでマネージャー江口を演じてきた江原達怡さんが亡くなった。84歳であった。

    https://www.asahi.com/articles/ASP5D54Z3P5DULZU006.html

    寺内タケシ

     2021年6月18日、「エレキの若大将」に出演していた寺内タケシさんが亡くなった。82歳であった。

    https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210619/k10013093571000.html

     加山雄三さんのメッセージ。

    http://www.kayamayuzo.com/news/detail.php?id=1624094694

     加山さんが言うように「また一人、若大将の仲間が亡くなってしまった。

    それ以前

    飯田蝶子

     主人公の祖母を演じた飯田蝶子さんは1972年12月26日に75歳で亡くなった。戦前の小津安二郎監督作品などで重要な役を演じた俳優であった。

    有島一郎

     主人公の父田沼久太郎を演じた有島一郎さんは1987年7月20日に71歳で亡くなった。

    星由里子

     ヒロインの澄子を演じた星由里子さんは2018年5月16日74歳で亡くなった。


    ハワイの若大将
  • 【映画】「兄貴の恋人」(1968年) 若大将と内藤洋子

    【映画】「兄貴の恋人」(1968年) 若大将と内藤洋子

     「兄貴の恋人」は1968年9月7日に公開された映画。

     「兄貴」(加山雄三)とその「恋人」との関係に心が揺れる妹(内藤洋子)を描いた作品。

     2010年5月28日に加山雄三デビュー50周年記念でDVDが発売されている。


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     この映画では、妹の兄に対する想いが描かれている。

     いつも兄にべたべたしているのではなく、「不潔」などと言っている。

     しかし兄に対する想いは強い。

     朝の満員電車で、揺れて兄の胸に抱かれるかたちになったところで、兄に髪を撫でられている時の表情は特徴的。

     予告編ではここに「私の恋人は兄貴/誰にも渡したくない」という文字が出て来る。

     兄に対してそれだけの想いを持っているので、兄と他の女性との関係が気になるのである。

     兄はすでに会社員。見合いなど、他の女性との結婚を周りから言われている。

     妹はまだ学生。子どもから大人になる途中である。

     その、子どもから大人になる途中が見どころ。

     小津安二郎監督の「晩春」は父と娘の関係は、「兄貴の恋人」の兄と妹の関係と似たところがある。


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     小津安二郎監督は、父と娘の関係を掘り下げたが、「兄貴の恋人」は兄と妹の関係を掘り下げたということができるかもしれない。

    内藤洋子

     映画「兄貴の恋人」で主役の「妹」を演じているのは内藤洋子。

     兄(加山雄三)から「デコすけ」と言われているように、おでこを出しているのが特徴。

     おでこ、頬など丸みを帯びた感じが、「妹」に合っている。―子どもから大人になる途中ということに合っている。

     長く艶やかな黒髪など、上品な感じはお嬢様の役に合っている。

     内藤洋子は映画デビューが「赤ひげ」(1965年)。「赤ひげ」ですでに加山雄三の相手役をやっている。


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     映画「お嫁においで」(1966年)では、加山雄三の妹役。

     「お嫁においで」では、「兄貴の恋人」のような兄に対する複雑な気持ちなどなかった。


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     加山雄三と内藤洋子は、実生活において親戚になっている。

     加山雄三著「若大将の履歴書」で、映画「赤ひげ」の結婚相手のまさえに内藤洋子が選ばれるところで次のように語られている。

    ~まさえの役を射止めたのはやがてアイドルスターになる新人の内藤洋子だった。「赤ひげ」でデビューし、映画「お嫁においで」や「兄貴の恋人」などで僕と共演した後、僕の従弟でランチャーズの喜多嶋修と結婚して喜多嶋洋子となった。つまり今では僕の親戚なのである。

    「若大将の履歴書」、163頁

    若大将の履歴書

     その長女が喜多嶋舞である。

     そうして時は流れても、映像では子どもから大人になる途中の姿を見ることができる。

    https://cinema.ne.jp/article/detail/37509

    http://www.ak-hb.jp/yokokitajima.html

    主人公の家

     主人公の兄妹は、両親の家で暮らしている。

     父は宮口精二、母は沢村貞子で、貧乏ではないが倦怠感のある夫婦を演じている。

     兄妹は、阿佐ヶ谷駅から中央線に乗って通勤通学している。そして新宿で別れて、兄はそのまま中央線、妹は山手線。

    鉄平の会社

     兄鉄平(加山雄三)の勤める会社には、和子という女性(酒井和歌子)がいて、親しくしていた。

     その会社は銀座にあるようである。

     和子は鉄平に思いを寄せていたが、会社を辞めて叔父のスナックで働くことになった。

    川崎のスナック

     和子(酒井和歌子)が働くことになった川崎の叔父のスナックは、ポルノ映画のポスターが貼られているようなところにあって、客層も下品。

     「伊勢佐木町ブルース」が流れている。


    青江三奈 ベスト 恍惚のブルース 伊勢佐木町ブルース 池袋の夜 2CD-423

     青江三奈の「伊勢佐木町ブルース」が発売されたのは1968年1月5日。「兄貴の恋人」と同じ年である。

     同じ年の12月7日には、東映の映画「夜の歌謡シリーズ 伊勢佐木町ブルース」が公開されている。―梅宮辰夫がオープン屋で、農家の金持ち(伴淳三郎)を手玉に取るが、しっぺ返しを食らうという話。青江三奈は、歌うところだけ出ている。


    夜の歌謡シリーズ 伊勢佐木町ブルース

     銀座の会社員の生活と、川崎のやくざの生活とが対比されている。―東宝の若大将と東映の任侠映画の対比

     酒井和歌子の上品な姿と、下品な背景との対比。

     酒井和歌子のやくざな兄の役を「若大将」シリーズのマネージャー役の江原達怡がやっているのも面白い。

    新宿のバー

     新宿には、鉄平(加山雄三)が夜しばしば訪れるバーがある。

     そのバーのママ(白川由美)も、鉄平に思いを寄せている。

    様々な女性

     この映画で加山雄三の演ずる人物は様々な女性から思いを寄せられている。

     妹(内藤洋子)、職場の同僚(酒井和歌子)、バーのママ(白井由美)については既に書いた。

     その他にも、職場の同僚(岡田可愛)、街でたまたま救った女性(豊浦美子)、会社の専務の令嬢(中山麻理)…

     妹は「私の恋人は兄貴/誰にも渡したくない」と思っていたのに、これだけの女性が兄に思いを寄せていたわけである。

     この映画では、様々な女性を魅力的な恋愛対象として描くかたちになっているということもできる。

     加山雄三の演ずる人物に思いを寄せない女性で、悠木千帆、後の樹木希林が出ている。

    「若大将」シリーズとの関係

     「兄貴の恋人」が公開されたのは、「若大将」シリーズで言うと、「リオの若大将」(1968年7月13日公開)と「フレッシュマン若大将」(1969年1月1日公開)の間。

     「若大将」シリーズについては↓

    加山雄三

     「若大将」シリーズでは「フレッシュマン若大将」で若大将は就職する。

     「兄貴の恋人」ではその前に加山雄三は社会人の役になっている。(それより前の1966年公開の「お嫁においで」ですでに社会人の役になっている)

    酒井和歌子

     「兄貴の恋人」のヒロイン酒井和歌子は、「兄貴の恋人」の後の「フレッシュマン若大将」から「若大将」シリーズのヒロインになっている。

    内藤洋子

     「兄貴の恋人」の主役というべき内藤洋子は「若大将」シリーズに出ていない。

     「若大将」シリーズにはすでに妹輝子(中真千子)がいるからであろうか?

    「お嫁においで」との比較

     1966年11月20日に公開された映画「お嫁においで」は、「兄貴の恋人」と同じく2010年に加山雄三デビュー50周年記念でDVDが発売された映画であるが、色々と「兄貴の恋人」と似たところがある。その似たところと、違うところとを明らかにすることによって、それぞれを明らかにしてみよう。

     「お嫁においで」について↓

    似たところ

     加山雄三の演ずる主人公は、どちらの映画でも、いいところの会社員。

     ヒロインは、どちらの映画でも、それより低い環境の人。そばには同じような環境でヒロインに好意を寄せる男がいる。

     内藤洋子の演ずる妹は、どちらの映画でも、兄のためにはたらく。

    違うところ

    結末

     結末が違う。

    ・「お嫁においで」では、ヒロインは主人公を振った。

    ・「兄貴の恋人」では、ヒロインは主人公を受け入れる。

    結末が違う理由
    ヒロインの設定

    ・「お嫁においで」のヒロインは、もともと加山雄三の演ずる人物が好きであったのではない。むしろ批判的であった。

    ・「兄貴の恋人」のヒロインは、もともと加山雄三の演ずる人物が好きであった。

    ・「お嫁においで」では、金持ちの世界に住む主人公と、貧しい世界に住むヒロインとの間に、世界が違うという壁があった。最終的にヒロインはその壁を主体的にとらえなおすのであるが、そのことによってヒロインは主人公を振るのである。

    ・「兄貴の恋人」では、主人公とヒロインとは、違う世界の住人ではない。ヒロインは、映画のはじめには主人公と同じ世界の住人だったのである。「お嫁においで」ほど主人公が金持ちの家に生まれたということは強調されていない。「兄貴の恋人」の壁は、ヒロインの家族にあって、ヒロイン自身にあることではない。それゆえにヒロインが決断することによって主人公と結ばれることができた。

     「兄貴の恋人」は、「お嫁においで」に対して、ヒロインが殻を破るところを描いている、ということができるかもしれない。

     「お嫁においで」からいうと、「兄貴の恋人」に対して、ヒロインの主体性を重んじた、ということができるかもしれない。

    ヒロインの近くにいる男

    ・「お嫁においで」では、ヒロインの近くにいる男(黒沢年男)がヒロインを愛していることが時間をかけて描かれていた。

    ・「兄貴の恋人」では、ヒロインの近くにいる男(清水綋治)のヒロインに対する思いはそれほど描かれていない。ヒロインの兄によって傷つけられて、就職に苦労したという経歴があって、そのことは引け目になることであった。ところが、加山雄三の演ずる人物がその男の代わりに殴られてアメリカ行きをふいにしたことによって、引け目はなくなった。

    加山雄三

    「お嫁においで」

     「お嫁においで」で加山雄三が演じた人物は、造船所の設計技師で、祖父、親の会社で働いている。そういうところは「兄貴の恋人」より「若大将」シリーズに近い。ただしそういう要素は、ヒロインとの関係でマイナスに働くこととして描かれている。「お嫁においで」は、そういうヒロインを中心とした映画である。そういうところは「若大将」シリーズから離れるところである。

     加山雄三が演じた人物は、はじめにヒロインに惚れ込んでから終盤まで一途であった。

    「兄貴の恋人」

     「兄貴の恋人」で加山雄三が演じた人物は、「お嫁においで」ほど金持ちではない。

     女にもてる男である。見合いには乗り気でなく、うまくいかないが、多くの女性に愛され、中途半端な関係になったりしている。

     女にもてるところは、「お嫁においで」より「若大将」シリーズに近いと思う。様々な美女が主人公に対して好意を抱くところを表現しているのである。―「お嫁においで」においては、主人公がヒロインに対して好意を抱いているのであって、ヒロインの方はそれほどではなかった。

     「兄貴の恋人」の主人公は、中盤までヒロイン(酒井和歌子)に対して特に好きということはない。しかし中盤に好きと自覚してからは、一途になる。

    内藤洋子

     内藤洋子演ずる妹は、「お嫁においで」においては、加山雄三の演ずる兄の側にいて、兄がヒロインと結ばれるために働く可愛い妹に過ぎなかった。

     「お嫁においで」の中心は、加山雄三の演ずる人物ではなく、ヒロイン(沢井桂子)であった。内藤洋子演ずる妹は、さらに中心から離れた存在であった。

     「兄貴の恋人」は、題名でも明らかなように、内藤洋子演ずる妹が作品の中心になっている。

  • 【映画】「お嫁においで」(1966年) 「若大将」シリーズに近い映画

    【映画】「お嫁においで」(1966年) 「若大将」シリーズに近い映画

     1966年11月20日に公開された映画「お嫁においで」は、加山雄三が「若大将」シリーズの間に出演した映画である。

     私は「若大将」シリーズに関心があってこの映画を観たのであるが、色々と「若大将」シリーズと似ているところがある。違うところもある。(敬称略)

    楽曲

     映画「お嫁においで」は、弾厚作(加山雄三)作曲の「お嫁においで」という楽曲(1966年6月15日発売)をもとにして作られたものである。

     パンフレットには「加山雄三のヒット曲のなかからはじめて映画化された」とある。

     「お嫁においで」という楽曲は、加山雄三の楽曲の中でも特に有名なものである。

    「若大将」シリーズとの関係

     映画「お嫁においで」が公開されたのは、「若大将」シリーズでは、「アルプスの若大将」(1966年5月28日公開)、「歌う若大将」(1966年9月10日公開)と「レッツゴー!若大将」(1967年1月1日公開)の間である。

     「若大将」シリーズが盛り上がっている時に、その勢いによって作られた映画と思われる。

     「若大将」シリーズと同じように、加山雄三演ずる人物の恋愛が作品の中心となっている。

     「お嫁においで」では、加山雄三は社会人を演じている。「若大将」シリーズで、加山雄三演ずる田沼雄一が社会人になるのは「フレッシュマン若大将」(1969年1月1日公開)からである。

     「若大将」シリーズで主人公の父役の有島一郎が「お嫁においで」ではホテルの支配人、主人公の祖母役の飯田蝶子がそのホテルに来る担ぎ屋のおばさんを演じていて、二人が言い合う場面があるが、「若大将」シリーズに似た感じがある。

     全体的にコミカルな感じは「若大将」シリーズに似ている。

     ただし「若大将」シリーズと違う感じのところもある。私はそのことが気になった。

    あらすじ

    Paul BrennanによるPixabayからの画像

     主人公はホテルのレストランのウェイトレス露木昌子(沢井桂子)。

     露木昌子(沢井桂子)は、造船所の設計技師須山保(加山雄三)と出会う。須山保は、造船所の会長の孫、社長の子である。須山保は露木昌子に惚れ込む。それに対して、保の父(笠間雪雄)、母(村田知榮子)は、保が釣り合った相手と結婚すべきだと考えていて、露木昌子は保と釣り合わないと言って反対する。妹(内藤洋子)は保を助けようとする。祖父(笠智衆)もはじめは釣り合わないと言って反対していたが、保を助けようとする。

     露木昌子(沢井桂子)は同時に、病気の友達(田村亮)の兄(黒沢年男)と親しくなる。

     主人公は、金持ち(加山雄三)に思いを寄せられると同時に、粗野なタクシー運転手(黒沢年男)に思いを寄せられて、どちらを選ぶか、という話になる。

     主人公自身は貧しい庶民であって、金持ちに対して批判的な考えを持っていた。

     ところが主人公は、須山保(加山雄三)と付き合っているうちに、金持ちの幸福をも知る。(48分あたり、ヨットで加山雄三が歌を歌い、主人公はそれを聞く、二人が水着姿で浜辺で抱き合うイメージ)

     しかし結局露木昌子(沢井桂子)は、須山保(加山雄三)に対して、シンデレラになりたくないからと断って、野呂高生(黒沢年男)を選ぶ。

    主人公

     映画「お嫁においで」は、加山雄三の楽曲をタイトルにした映画であって、劇中で加山雄三がその楽曲を歌っている。クレジット順では第一が加山雄三である。加山雄三の演ずる須山保が主人公であるように見える。

     ところが実際には、この映画の主人公は露木昌子(沢井桂子)である。この映画は、露木昌子(沢井桂子)から始まる。露木昌子(沢井桂子)の気持ちが、映画の中心になっている。

     これは奇妙なことではないか?

     「若大将」シリーズの勢いによって作られたと思われる映画で、何故に加山雄三を主人公にしないのか?

    パンフレット

     「お嫁においで」のパンフレットを見ると、次のように書いてあった。

    いままでの加山の役はほとんどが結ばれなくともハッピーエンドで終っているが、この作品では恋人の沢井を黒沢に奪われ、ヨットで失恋の旅に出るというもの。
     これも「加山を結婚させたらファンにしかられるから」という配慮からなったもので、「君といつまでも」「夜空の星」などで爆発的人気を呼んでいるだけにファンを大切にというわけ。

    東宝「お嫁においで」パンフレット

     加山雄三の演ずる人物が失恋することについて、「加山を結婚させたらファンにしかられるから」という配慮から、と説明しているのである。

     我らの問題は、何故に加山雄三の演ずる人物が失恋するのか、ということではなくて、何故に加山雄三の演ずる人物が主人公でないのか、ということであった。その説明では答えにならない。

     それはそれとして、「加山を結婚させたらファンにしかられるから」という配慮から失恋させることにした、ということもよくわからない。

     「お嫁においで」というタイトルであるから、最後に失恋しないかぎり、結婚せざるをえない、ということであろうか? そういうことで「ファンにしかられる」のであろうか?

    思想

     映画「お嫁においで」は、露木昌子(沢井桂子)の気持ちを中心としている。露木昌子(沢井桂子)の思想を中心としている。

     露木昌子(沢井桂子)は、自身貧しい庶民として、金持ちに対して批判的である。貧富の差について「世の中間違えている」と語っている。(38分)主人公の同僚は「革命が必要」と言っている。(31分)ただし主人公も同僚も革命を実際に企てているのではない。

     露木昌子(沢井桂子)は須山保(加山雄三)と付き合って金持ちの幸福を知る。須山保(加山雄三)も、「職業に貴賎なし」と言って主人公にほれ込む人である。

     しかし結局、露木昌子(沢井桂子)はシンデレラになりたくないからと、結婚を断った。

     映画「お嫁においで」においては、金持ちと庶民とが分けられている。主人公の勤めるホテルは、庶民が従業員として金持ちと出会う場所である。

     加山雄三の演ずる人物は、金持ちの側の人である。若大将より金持ちであることが強調されているが、豊かな家に生まれたこと、船を造っていることなど、若大将と同じように加山雄三自身に近いと思われるキャラクターである。

     「お嫁においで」は、その加山雄三の演ずる人物に対して、それと異なる主人公たちの貧しい庶民の生活を中心として、加山雄三の演ずる人物と結ばれることを選ばない、という作品である。

     いわば「若大将」シリーズと対立する思想を持っているということができるのではないか?

     パンフレットに「従来の”若大将”ものとは違った、題名は曲名そのままでも内容的には脚本を特に松山善三氏に依頼、その意欲がうかがわれる」とある。

     特に松山善三によって、映画「お嫁においで」に「若大将」シリーズと違う思想が持ち込まれたようである。

    その他のこと

    本多猪四郎監督

     映画「お嫁においで」の監督は本多猪四郎である。怪獣映画の間にこの映画を監督している。(「フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ」と「キングコングの逆襲」の間)

     パンフレットには「加山以上にうれしがっているのが、本多猪四郎監督」とある。

    なにしろ本多監督といえば怪獣ものの専門監督、恋愛ものを手がけるのは、「真紅の男」いらい五年振りというからよろこびようもわかる。「若い連中に囲まれて、仕事をするのは久しぶりだが、僕も若い気分になって楽しい作品を作りたい。加山君の魅力をじゅうぶん出しますよ」と張り切っている。

    東宝「お嫁においで」パンフレット

     「真紅の男」とは、1961年9月12日に公開された映画である。

    オーディオコメンタリー

     「若大将」シリーズの「海の若大将」のDVDのオーディオコメンタリーで沢井桂子が「お嫁においで」について語っているところがある。

     最後に露木昌子(沢井桂子)が須山保(加山雄三)をふるところについて、みんなにもったいないと言われたと言っている。

    「兄貴の恋人」

     映画「お嫁においで」の二年後に作られた映画「兄貴の恋人」は、2010年に加山雄三デビュー50周年記念でDVDが発売された作品であって、同じく加山雄三主演で、設定に似たところがあって、それぞれの違うところを考えると、それぞれの作品がよりよくわかる。

     「兄貴の恋人」について↓

    小津安二郎

     映画「お嫁においで」の24分あたりで、ヒロインたちが家から土手にいる笠智衆を見るところがある。そこで私は小津安二郎作品を思い出した。

     「東京物語」で、東山千栄子演ずる祖母が孫と土手で遊ぶのを家から見るところ。(29分)

     「お早よう」で、住宅地から土手を見るところ。(2分)

     手前に住宅地、奥に土手があるという構図が似ているのである。

     笠智衆は小津安二郎作品に多く出ている俳優である。それゆえに「お嫁においで」に出演している笠智衆を見て、小津安二郎作品が思い出される。「東京物語」では、笠智衆が土手を家から見る役になっていた。