カテゴリー: 兵庫県文書問題

  • 兵庫県漏えい問題:斎藤知事は悪いのか? 第三者委員会報告書の問題点

    兵庫県漏えい問題:斎藤知事は悪いのか? 第三者委員会報告書の問題点

     兵庫県の情報漏えい問題を調査した第三者委員会の調査報告書が公表されて、斎藤元彦兵庫県知事を非難する声が高まっている。大手新聞、テレビ局がこぞって斎藤氏を責めている。斎藤氏は追い詰められているようである。

     斎藤氏は何故に責められているのか?

     斎藤氏を責めるマスメディアは一色である意味わかりやすいが、複雑な問題でもある。斎藤氏が言ったか言わなかったかが問題とされているようでもあるが、公益通報を巡ることが問題とされているのでもある。

     複雑な問題を解きほぐしてみよう。

    斎藤氏を非難する声

     令和7年5月27日、秘密漏えい疑いに関する第三者調査委員会が最終調査報告書を公表、記者会見を行った。それを受けて新聞、テレビでは斎藤氏を非難する声が高まった。大手新聞各社は社説でその報告書を取り上げて斎藤氏を非難した。

     朝日新聞「(社説)斎藤氏の責任 進退が問われている

     読売新聞「兵庫漏えい問題 告発者の人格を貶める卑劣さ

     毎日新聞「兵庫知事が「漏えい指示」 もう言い逃れは許されぬ

     産経新聞「<主張>兵庫県の情報漏洩 斎藤知事は進退の判断を

     いずれも第三者委員会の調査報告書を受けて、兵庫県の漏えい問題で斎藤氏の責任を問題とし、辞任を求めている。

     斎藤氏の何が悪いというのか? 本当に悪いのか?

    漏えいの指示

     斎藤氏は情報漏えいの指示をしたということで非難されている。第三者委員会の調査報告書は斎藤氏が情報漏えいの指示を行った可能性が高いとした。(https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk28/documents/tyousahoukokusho_kouhyou.pdf)

     斎藤氏は令和7年3月6日に行われた第三者委員会の事情聴取で指示していないと主張した。しかし元総務部長等の供述によると指示はあったようである。

     斎藤氏は第三者委員会の報告書が公表された後も指示はしていないと語っている。

     上に挙げた新聞社の社説はいずれも報告書公表後に斎藤氏が指示はしていないと言ったことを問題としている。第三者委員会の調査報告に反対する斎藤氏を責めるというかたちである。

     斎藤氏は指示をしたか? しなかったか? ということが問題とされている。斎藤氏は事実に反することを言っているのか? という問題である。

     しかし各紙ともそのことだけを問題としているのではない。斎藤氏が情報漏えいを指示したということを問題としている。

    論点整理

     問題を整理して考えよう。

     斎藤氏は情報漏えいを指示したということで責められている。

     そこで指示したのか? していないのか? ということが問題となる。

     どういう指示をしたとされているのか? ということが問題となる。

     そもそも情報漏えいは何故に悪いのか? ということが問題となる。

     以下、一つ一つ考えていこう。

    斎藤氏は指示をしたのか? していないのか?

     指示をしたのか? していないのか? ということでは元総務部長等の供述が斎藤氏の供述と対立している。

    斎藤氏の指示の内容

     斎藤氏は指示をした可能性が高いと第三者委員会は判断している。それではどういう指示をしたと第三者委員会は考えているのか?

     元総務部長が「「根回し」の趣旨で前記認定の情報開示(漏えい)を行った」、その指示をしたというのである。

     E氏は「そのような文書があることを、議員に情報共有しといたら」と指示されたという。D氏は「根回しというか議会の執行部に知らせておいたらいいんじゃないかという趣旨」といい「(私的情報の)中身全部持っていけと、そんなことじゃなくて、『(私的)情報があるということは情報共有しておいたら』と言われたんだなと思った」という。

     第三者委員会の報告書は『「根回し」の趣旨で前記認定の情報開示(漏えい)を行った』というように「根回し」と「情報開示(漏えい)」を一つのことのように書いているが、「根回し」は非難されなくてはならない「情報開示(漏えい)」ではないのではないか?

     斎藤氏は「根回し」を指示したにとどまって、「情報開示(漏えい)」を指示したのではないのではないか?

     増山県議は、百条委員会で私的情報のことが明らかになと県民局長に大きな負担がかかるのであるから、斎藤氏はそのことを議会に伝えなくてはならなかったと主張している。

    https://www.youtube.com/watch?v=Z7LQNo2Pvww

    そもそも情報漏えいは何故に悪いとされているのか?

     そもそも情報漏えいと言われている行為は何故に悪いとされているのか?

     根拠は何か?

    「秘密」と「漏えい」

     第三者委員会は地方公務員法第34条によると言う。

     ここまで一般論に問題はない。問題はその一般論を具体的な事例に適用するところにある。

     第三者委員会は「元県民局長の私的情報」は『前記の基準による保護されるべき「秘密」に該当する』と語る。しかし根拠が明らかではない。「元県民局長の私的情報」は「その内容からして正に個人情報といえるから」というが、個人情報は「秘密」に該当するということは何を根拠としているのか? 第三者委員会が挙げた地方公務員法にも判例にもそのようなことは言われていない。「その内容からして」というが、「その内容」とはどういうものか? 「客観的に見て本人の秘密として保護に値するものでなければならない」とされているのであるから、そのことを示さなくてはならないはずである。

     次に「漏えい」について。

     「広く一般に知らしめる行為または知らしめるおそれのある行為」といい、「特定の個人に対する場合もさらに伝達するおそれがあるので「漏えい」したことになると解されている」というが、県職員が県議会議員に「根回し」する場合、「広く一般に知らしめる行為」とは考えられず、「漏えい」に当たらないのではないか?

    行為の目的

     元総務部長による「情報漏えい」と言われる行為は、単に地方公務員法によって悪いとされているのではない。公益通報をつぶす行為として非難されている。上に取り上げた新聞の社説はいずれもそのことを非難している。

    「漏えいの動機ないし目的」の検討

     第三者委員会の報告書ではそのことはない「8 漏えいの動機ないし目的」にある。元総務部長の行為の動機ないし目的について検討しているところである。

     ここで第三者委員会は、元総務部長の行為の目的について「元県民局長の私的情報を暴露することにより、その人格ないし人間性に疑問を抱かせ、ひいては告発文書の信用性を弾劾する点にあった」ということに説得力を認めている。

     上に取り上げた新聞社の社説はいずれも第三者委員会の報告書のこの箇所を取り上げている。そしてその行為を指示したとして斎藤氏を非難している。これまで問題とされてきた斎藤氏による公益通報つぶしが第三者委員会の調査によって明らかにされたかのようである。

     ところで第三者委員会を検討はおかしなことになっている。

     (1)で3名の議員の供述を取り上げて、(2)で「一定の説得力がある」と評価して、(3)で元総務部長は主張を変更したので、別のところで扱う、と語っている。

     第三者委員会の目的は、元総務部長の3名の議員に対する行為の事実調査である。「8 漏えいの動機ないし目的」はその行為の動機ないし目的について検討するところである。そこで第三者委員会は3名の議員の供述だけを取り上げて説得力があると評価している。その行為の本人である元総務部長の主張はそこで取り上げず他のところで取り上げるとしている。

     上に取り上げた新聞の社説はいずれも第三者委員会の報告書のそういう箇所を取り上げているわけである。

     元総務部長の行為の動機ないし目的について検討するためには、元総務部長自身の主張を聞かなくてはならないはずである。

     今度の場合は斎藤氏の動機ないし目的も問題とされているが、新聞は3名の議員の供述によって斎藤氏の動機を決めつけて非難するかたちになっている。

    元総務部長の弁明書

     元総務部長は人事課に提出した令和7年2月14日付「弁明書」において、元総務部長の行為について次のように主張していると第三者委員会はまとめている。

     (4)は懲戒処分についてのことであって、ここでは取り上げない。

     (1)において元総務部長は自分の行為について「正当業務」であり「外部通報」であったと主張している。

     それに対して第三者委員会は外部通報には当たらないと主張している。しかしそうであったとしても、元総務部長の行為の目的は外部通報にあったということはできる。元総務部長の行為の動機ないし目的について検討するためには重視しなくてはならないことである。

     第三者委員会が元総務部長の行為は外部通報に当たらないと主張していることについて、石丸弁護士は、真実や真実相当性によって判断していることは明らかに誤りであると言い、3名の議員の供述による事実認定だけで判断していることに疑問を呈している。

     十分な根拠がないにもかかわらず、元総務部長の「外部通報」を否定しているとすると、それこそ公益通報つぶしではないか?

     第三者委員会がもとにした「週刊文春」令和6年7月25日号の記事(報告書の末尾に抜き書きされている。「文春オンライン」におけるURLはhttps://bunshun.jp/articles/-/72155)もそうではなかったか?

     元総務部長の「人格ないし人間性に疑問を抱かせ、ひいては告発文書の信用性を弾劾する」ことはなかったか?

     (2)の『元県民局長の私的情報は「秘密」として保護するに値しない』も元総務部長の行為の意味に関することであるが、第三者委員会は反論している。

     根拠を示してほしいところであるが、「元県民局長の個人情報であり」という言葉で片付けてしまっている。

     (3)は3名の議員の供述の信用性を問題としている。第三者委員会が3名の議員の供述をもとにして元総務部長の行為について判断を下したことに対する反論になっている。それに対して第三者委員会は次のように反論している。

     この反論はおかしくないか? 元総務部長は3議員が元総務部長の行為を「正当業務行為」であるのに「守秘義務違反」にすり替えたことを問題としている。それに対して『「E氏がそれぞれの議員控室を一人で訪れ、紙に印刷した元県民局長の私的情報を見せた(見せようとした)」との前記3議員の供述の信用性は揺るぎない』と言うのでは答えになっていない。

    斎藤氏の動機ないし目的

     今度の第三者委員会の報告書の公表を受けて、元総務部長の行為は斎藤氏の指示によるものであったとされ、斎藤氏が公益通報つぶしを指示していたとしてマスメディアは非難している。

     そこで斎藤氏の動機ないし目的が問題となる。

     斎藤氏自身は指示していないと主張している。それに対して第三者委員会は指示した可能性が高いとみなしている。元総務部長は「そのような文書があることを、議員に情報共有しといたら」と言われたという。「根回し」の趣旨であったとも言われている。斎藤氏の動機ないし目的は、新聞の社説で語られているような公益通報つぶしではなく、「情報共有」「根回し」であったというのが第三者委員会の認めたことである。

    まとめ

     第三者委員会は行為の「動機ないし目的」について、3名の議員の供述だけでなく、元総務部長自身の主張、斎藤氏の主張を取り上げて検討しなくてはならなかったはずである。

     「8 漏えいの動機ないし目的」というところで3名の議員の供述だけを取り上げて評価した結果、マスメディアは3名の議員の供述こそが真実であるかのようなストーリーを流している。

    第三者委員会に対する疑問

     今度の第三者委員会は元総務部長の行為について事実調査を行うものである。

     第三者委員会は「客観的かつ信頼性の高い事実調査を行う」ものとされている。「秘密漏えいの事実の存否・内容を客観的かつ中立公正な形で確認することを目的として」設置されたものであるという。

     しかし、そもそも元県民局長の私的情報は「秘密」として保護するに値するか、と言う問題に対して根拠を示すことができていない。それにもかかわらず「秘密」として保護するに値するときめつけている。

     第三者委員会は3名の議員に対する元総務部長の行為の事実調査を目的としているはずであるのに、3名の議員の供述だけを取り上げて評価している。そしてそれに反対する元総務部長自身の主張を否定しようとして根拠のない主張をしている。

     目的から逸脱しているのではないか?

     第三者委員会は「客観的かつ中立公正な」ものであるとすると、現在第三者委員会を名乗っている団体の主張を一方において、他方に元総務部長の主張をおいて、どちらが正しいか客観的に検討しなくてはならない。

  • 兵庫県の漏えい―第三者委員会報告書の考察

    兵庫県の漏えい―第三者委員会報告書の考察

     兵庫県の秘密漏えい疑いに関する第三者委員会の調査報告書が公表されて、兵庫県の文書問題を巡る議論がまた騒がしくなった。

     兵庫県を覆う暗雲はまだまだ晴れそうにない。

     その中で気になるところがある。斎藤元彦兵庫県知事が公益通報者の私的情報を暴露して告発文書の信用を低下させようとしたというストーリーが盛んに語られていることである。

     文書問題が話題になってから繰り返し語られてきたストーリーであるが、第三者委員会の報告書にも取り入れられていて、その報告書を受けてまた盛んに語られている。

     語られるのを聞くたびに気になる。―そのストーリーは正しいのか?

     斎藤氏等は一貫して、問題とされている文書は公益通報として保護されるだけの要件を備えていない、告発者の私的情報を取り上げることには文書の信用性を低下させることと異なる意味があると主張してきた。その主張を無視していいのか?

     そのストーリーはおかしいのではないか? ということから兵庫県の問題について考えてみたい。

    マスメディアの斎藤知事非難

     令和7年5月27日、秘密漏えい疑いに関する第三者調査委員会が最終調査報告書を公表、記者会見を行った。それを受けて大手新聞各社は社説でその報告書を取り上げた。ここに列挙してみよう。

    朝日新聞

     朝日新聞の社説「(社説)斎藤氏の責任 進退が問われている」はその見出しの通り斎藤氏の進退を問題とするもの。その中で問題とされるストーリーに関するところ。

     斎藤元彦知事ら兵庫県にまつわる問題を告発した元県民局長の男性に関し、前総務部長が男性の私的情報を県議に漏洩(ろうえい)した。知事の指示のもと行われた可能性が高い。
     男性の人格や人間性に疑問を抱かせ、告発文書の信用性を弾劾(だんがい)する目的だった、との説明に説得力がある。
     県の第三者委員会が報告書をまとめ、公表した。県から独立した弁護士3人が資料を分析し、聞き取りを重ねて導き出した結論である。驚くべき事態だ。

    朝日新聞「(社説)斎藤氏の責任 進退が問われている

     「男性の人格や人間性に疑問を抱かせ、告発文書の信用性を弾劾(だんがい)する目的だった、との説明に説得力がある。」という第三者委員会の結論を重く受け止めている。

    読売新聞

     読売新聞の社説「兵庫漏えい問題 告発者の人格を貶める卑劣さ」。見出しに「告発者の人格を貶める卑劣さ」というストーリーに関するところが盛り込まれている。本文では次のように書いている。

     告発者の人格を
    おとし
    め、告発が虚偽だと印象づける狙いがあったのなら、卑劣極まりない。公益通報制度の根幹を揺るがしかねず、知事の責任は免れない。

    読売新聞「兵庫漏えい問題 告発者の人格を貶める卑劣さ

     本文ではこのように「告発者の人格を
    おとし
    め、告発が虚偽だと印象づける狙いがあったのなら」と条件付きであるが、見出しは「告発者の人格を貶める卑劣さ」と事実のように書いている。

    産経新聞

     産経新聞の社説「<主張>兵庫県の情報漏洩 斎藤知事は進退の判断を」は斎藤氏に神体の判断を迫るものであるが、ストーリーに関して本文で次のように語っている。

    報告書は「私的情報の暴露で(告発者の)人格や人間性に疑問を抱かせ、告発文書の信用性を弾劾する」ことが目的とした。極めて悪質な行為だ。

    産経新聞「<主張>兵庫県の情報漏洩 斎藤知事は進退の判断を

    毎日新聞

     毎日新聞の社説「兵庫知事が「漏えい指示」 もう言い逃れは許されぬ」は斎藤氏を許さないという気持ちを前面に出している。ストーリーに関しては次の通り。

     私的情報を見せられた県議は、その目的について「元県民局長の人格に疑問を抱かせ、告発文書の信用性をおとしめる目的があった」と認識していたという。

    毎日新聞「兵庫知事が「漏えい指示」 もう言い逃れは許されぬ

    神戸新聞

     神戸新聞の社説「<社説>私的情報漏えい/知事は自らの責任直視を」も知事の責任を問題としているが、ストーリーに関するところは次の通り。

     見過ごせないのは、漏えいの目的だ。第三者委は「元県民局長の人格や人間性に疑問を抱かせ、告発文書の信用性を弾劾する点にあった」とする県議の見方を支持した。私的情報は告発内容とは無関係で、告発者をおとしめる行為は許されない。

    神戸新聞「<社説>私的情報漏えい/知事は自らの責任直視を

    まとめ

     このように右左にかかわらず、全国紙(?)も地域紙も同じストーリーで斎藤氏を責め立てている。閣僚でも国会議員でもなく兵庫県知事がこのように責め立てられ追い詰められているところをみると、気にならざるを得ない。

     橋下徹氏も加えよう。橋下氏は繰り返し斎藤氏の行動を「自分を批判してきた告発潰し」とみなして非難してきた。今度もそう語っている。

     そして乱暴な言葉で辞任を求めている。

     下の動画で橋下氏はここで問題としているストーリーを語っている。共演者も同じことを語っている。

     ところで橋下氏は元総務部長の弁明を斎藤氏に対する内部告発ときめつけて斎藤氏のダブルスタンダードを非難しているが、斎藤氏に対する内部告発なのか?

     その語るストーリーが実態と違うのではないかと思われるが、それにもかかわらずむきになって斎藤氏をやめさせようとしているように見える。大手新聞紙や橋下氏のような影響力のある人が何故に兵庫県知事を追い詰めようと必死になっているのか? 裏に何があるのかと思ってしまう。

    第三者委員会と「週刊文春」の関係

     第三者委員会について考えてみよう。

     今度の第三者委員会はもともとここで問題としているストーリーをもとにして設置されている。

     秘密漏えい疑いに関する第三者調査委員会が令和7年5月27日に公表した最終調査報告書(公表版)https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk28/documents/tyousahoukokusho_kouhyou.pdfにも書かれているように、この委員会は「週刊文春」令和6年7月25日号の報道を受けて事実を調査することを目的として設置されたものである。

     「週刊文春」令和6年7月25日号の記事(報告書の末尾に抜き書きされている。「文春オンライン」におけるURLはhttps://bunshun.jp/articles/-/72155)は「斎藤元彦・兵庫県知事のパワハラ告発後に死亡…元局長が受けていた“個人攻撃” 告発文書で名指しされた“4人組”を直撃した」という見出しの通り、元局長が受けていた“個人攻撃”について語るものである。斎藤氏が自分を告発した人物に対して“個人攻撃”をしかけた、そしてその人物は死亡したというものである。記事の中では次のような文がある。

     県庁周辺では、こんな目撃談がある
    「人事課を管轄する総務部長が、大きなカバンを持ち歩くようになった。中には大きな2つのリングファイルに綴じられた文書が入っており、県職員や県議らにその中身を見せて回っていたようです。リングファイルの中身は、3月下旬に押収したX氏のPCの中にあった私的な文章。どうやらその文章は、4人組によって、県議や県職員の間に漏れていたようです」(前出・県職員)

    X氏は告発文書の発表以来、陰に陽に“個人攻撃”を受けつづけ、ついに自死を選んだ。

    文春オンライン「斎藤元彦・兵庫県知事のパワハラ告発後に死亡…元局長が受けていた“個人攻撃” 告発文書で名指しされた“4人組”を直撃した

     「4人組」とよばれる「片山副知事、県職員の総務部長、産業労働部長、若者・Z世代応援等調整担当理事の4人」がX氏のPCの中にあった私的な文章を県議や県職員の間に漏れさせていた、そういう“個人攻撃”によってX氏は自死を選んだ、というように型っている。その目的について次のような言葉を記している。

    Xさんの秘密を暴露することで、Xさんの人間性を貶め、告発文書の信頼性を下げるのが狙いでしょう。

    「週刊文春」令和6年7月25日号22頁4段目

     公益通報者の私的情報を暴露して告発文書の信用を低下させようとしたというストーリーである。

     第三者委員会はその「漏えいの事実の存否・内容を客観的かつ中立公正な形で確認することを目的として」設置されたものである。もともと「週刊文春」の記事によって問題を設定されたかたちになっている。そして「週刊文春」のストーリーを追認しているところがある。

    「漏えいの動機ないし目的」

     第三者委員会の報告書と「週刊文春」のストーリーとの関係で問題となるのは、報告書「8 漏えいの動機ないし目的」というところ。報告書は私的情報の提示を受けた3名の議員の供述をもとにして検討している。まず議員の供述を挙げる。

     以上の議員の供述をもとにして次のように評価している。

     ここで「弾劾」という耳慣れない言葉が出て来るが、訴訟法で所謂「弾劾証拠」の「弾劾」、すなわち証明力を争うことのようである。

     第三者委員会は3名の議員の語るように、問題とされている漏洩の目的は「元県民局長の私的情報を暴露することにより、その人格ないし人間性に疑問を抱かせ、ひいては告発文書の信用性を弾劾する点にあった」ということには「一定の説得力がある」という。「週刊文春」のストーリーに説得力があると認めているのである。

     この評価には問題がある。

     元総務部長の動機ないし目的を調査するのに、元総務部長自身が語ることを取り上げず、3名の議員が語ることをそのまま受け入れることはおかしい。その中の2人は明らかに憶測にすぎない。そもそもこの3名の議員が語っていることは、朝日新聞も読売新聞も毎日新聞も産経新聞も必ず3名の議員しも実態に即することなく語っているストーリーであって、この場合も実態に即しているか問題となる。

     元総務部長は3名の議員の証言等は信用性に欠けていると主張している。第三者委員会はその主張を含む弁明書を取り上げているにもかかわらず、本人の主張を取り上げず、3名の議員の証言だけをそのまま受け入れることは偏っているのではないか?

     元総務部長は自分の行為は公益通報に当たると主張している。第三者委員会は当たらないと主張しているが必ずしも明らかではない。いずれにせよ元総務部長の目的は公益通報にあったと本人は主張しているのである。どういう根拠でその主張を取り上げず、3名の議員の必ずしも明らかではない証言に説得力を認めているのか?

    斎藤氏、片山氏との関係

     第三者委員会報告書では、元総務部長の行為は知事、副知事の指示による可能性が高いと判断している。

     元総務部長のほかに斎藤氏、片山氏の目的が問題となる。

     斎藤氏は指示をしていないと語っている。しかし第三者委員会の報告書によると指示をした可能性が高いようである。

     指示をしたかしていないかということでは斎藤氏の分が悪いようである。マスメディアではそれゆえに斎藤氏を責める声が大きい。

     しかし指示をしていたとしても、必ずしも斎藤氏が悪いとは限らない。

     まず、斎藤氏がマスメディアが語るように、また第三者委員が認めたように「元県民局長の私的情報を暴露することにより、その人格ないし人間性に疑問を抱かせ、ひいては告発文書の信用性を弾劾する」目的で漏洩を指示したとは考えにくい。

     斎藤氏も片山氏もその他どの幹部の人もその文書を一目見て事実と異なることが多いと認識した。片山氏は百条委員会でそう語っている。

     そう認識している人が、いかがわしいやり方でその文書の信用性を低下させようとするであろうか?

     令和7年3月21日の文書問題に関する第三者委員会の調査報告書でも告発文書の7の項目うち6の項目で事実が認められないとして、パワハラだけを認めたものである。

    https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk19/documents/honnpenn1.pdf

    https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk19/documents/honnpenn2.pdf

     7の項目うち6の項目で事実が認められない文書は信用性の高い文書ではない。斎藤氏、片山氏にとっては特にそうであったと思われる。

     元総務部長が自ら主張するように斎藤氏路の指示の下で公益通報の目的で行動していたとすると、斎藤氏の目的も同じことになるのではないか?

     片山氏は告発者の公用PCの中身について明らかにすることに重要な意味があると考えている。そのことによって文書に不正な目的があることを示すことができる、不正な目的があるとすると、公益通報に当たらないことになる、という考えである。(公益通報者保護法第二条「「公益通報」とは、次の各号に掲げる者が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、」)

    秘密漏えいとは?

     今度の第三者委員会の報告書では、元県民局長の私的情報を伝える行為が問題とされている。「週刊文春」の記事で問題とされたことを問題としているのである。

     しかし元県民局長の私的情報を伝える行為にどういう問題があるのか? 必ずしも明らかではない。どこまでがよくてどこからいけないのか、よくわからない。

     第三者委員会は秘密の漏えいの問題について一応説明している。「秘密」の定義について次のように語る。

     このように第三者委員会は「元県民局長の私的情報」は「保護されるべき「秘密」に該当する」と論じている。

     しかし「客観的に見て本人の秘密として保護に値するものでなければならない」ということを考えるには、報告書の他の部分で行われているような具体的な証拠をもとにした検証が必要ではないか? 「本件における「元県民局長の私的情報」は、その内容からして正に個人情報といえるから」ということで片付けていいのであろうか? 「元県民局長の私的情報」を伝えることが公益のためになることもあるのではないか?

     「元県民局長の私的情報」を明らかにすることに関しては「元県民局長の私的情報を暴露することにより、その人格ないし人間性に疑問を抱かせ、ひいては告発文書の信用性を弾劾する」ことを目的とする行為として非難する声が強い。

     それに対して片山氏のように、文書に不正の目的があることを示すために「元県民局長の私的情報」を明らかにすることが必要だという主張がある。元総務部長は弁明書で「外部通報」に当たると主張している。

     前者のストーリーを広めてしまったことによって、後者の主張に対して正しく考えることができなくなっている、ということはないか? 今度の第三者委員会の報告書もそういうものになっていないか?

    ストーリーの出どころ

     告発者の「私的情報を暴露することにより、その人格ないし人間性に疑問を抱かせ、ひいては告発文書の信用性を弾劾する」という目的のために私的情報を漏えいすることはどうしてこれほどまで問題とされているのか?

     兵庫県の文書問題で積極的に発言している奥山俊宏氏もそのストーリーを語っている。たとえば2024年9月5日 11:30『「斎藤知事の言動は“公開パワハラ”だ」兵庫県議会の百条委で奥山教授が鋭く指摘した全文を掲載(前編)https://slownews.com/n/nd7f71de04bff』では、2017年7月12日の自分の論文を引用している。―奥山俊宏「政府の側は内部告発者への違法な攻撃をやめるべき」2017年7月12日『論座』という論文の次のところ。

    本来ならば、内部告発の内容と内部告発者の人格は関係がない。内部告発した人がどんな悪人であっても、内部告発の内容が真実であることはあり得る。内部告発した人がどんなに正直な人であっても、内部告発が誤解に基づくものである可能性もなくはない。
    内部告発の内容がウソだというのなら、内部告発された側はそれに反論すればいい。ところが、内部告発の内容について反論するよりも先に、内部告発者の人格を攻撃し、内部告発者の秘密漏洩を非難するのが、告発された側の人たちの多くに共通する習性だ。
    それはなぜか。
    一つは、痛いところを突かれたと感じ、「ばらしやがって」と怒り、思わず感情をあらわにしてしまう、というものだ。
    もう一つは、内部告発した人の評判を落とし、信用を貶(おとし)めて、内部告発の内容の信憑性を低めようとする狙いがあっての意図的な攻撃だ。
    しかし、それらだけが人格攻撃の理由ではない。
    これまでの様々な事例で共通して見られる、人格攻撃と漏洩非難の大きな狙いは、内部告発の連鎖を止めることにある。内部告発が別の新たな内部告発を呼び起こすことがないように、見せしめにしようということだ。
    放っておけば、正当な内部告発は必ず共感を呼び、別の内部者が声を上げる。それを止めるため、内部告発者に悲惨な末路を押しつけ、示しをつけようとする。見せしめにするのだ。
    このように、内部告発した人の多くは、人格を攻撃され、情報漏洩を非難される。日本だけでなく、アメリカでもそうだし、イギリスでもそうだ。これは一つのパターンだ。

     2017年7月12日のこの議論が2024年の兵庫県文書問題にもあてはまると主張しているようである。いずれも「内部告発した人の評判を落とし、信用を貶(おとし)めて、内部告発の内容の信憑性を低めようとする狙い」というストーリーによって説明される。

     しかし奥山氏の語るストーリーは実情から乖離しているのではないか? それにもかかわらずマスメディアが奥山氏の語るストーリーに従い続けているのは何故なのか?